話し合い
話は、同室者が帰ってきた時のことを考えてコウの寝室でする事になった。
「どっか適当に座っといて。俺、飲み物持ってくるから。」
「あ、ああ。」
寝室に入った俺は、コウに言われてベットの横にあった椅子に腰掛けた。俺の座っている椅子の他にも、二つの椅子と丸いテーブルが一つあるから連絡した時にコウが用意してくれたのだろう。
「はいどうぞ。コーヒーは大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。飲める。ありがとう。」
俺はトレーにコップを三つのせて部屋へ入って来たコウへお礼をいう。
入学して間もないのに飲み物どころかコップやトレーがある事に驚きだ。
「で?生徒会室でどんな話をしたの?」
俺がコウの準備の良さに舌を巻いていると、ナナが声をかけてきた。
「ああ。そうだったな。話す約束だったな。」
俺はナナの期待の籠もった眼差しに苦笑する。
別に面白い話じゃないんだがな。
そんな思いを抱えながら、俺は覚悟を決めてコウとナナに全てを話した。
俺が裏口入学者だという事。その件で生徒会に目をつけられ、呼び出されたという事。今度の一年第一試験で35位以内に入らなければ退学だという事も。
全てを話し終えた俺は、二人が何か話すのを黙って待ち続けた。罵られる事も、嫌われる事も覚悟して。
だが、そんな俺の覚悟を嘲笑うかのように、二人から返ってきた反応はあっけらかんとしたものだった。
「そっか、そうだったんだ。それはどんまいだったね。」
「ああ、生徒会に目をつけられるなんて災難だな。」
二人のあまりに軽い反応に、俺は呆然とした。
いやいやいや!反応がおかしいよ!?もっとこう!この嘘つき!この裏切り者!的な事を言われると思ってたんだけど!?何でそんな同情した目を向けてくるわけ!?
俺は内心で大いに慌てた。そんな俺の混乱になど気付いていないのだろう。なおも二人は言葉を続ける。
「あれ?じゃあ何でシンはCクラスに入れたの?」
「ああ、それなら大体の予想はつく。シンはコネで入ったのだろう?しかもある意味理事長の。理事長はシンの本当の実力が分からなかった。だから最初は中間のクラスに入れる事にしたんだろう。実力がないと分かったのなら、試験のクラス替えの時にクラスを下げればいいし、逆に実力があったのなら、クラスを上げればいいからな。」
「へぇ、じゃあ本当に今度の試験がシンの生命線だったんだ。エリート生の皆様にバレてもバレなくても。」
「ああ、そうだな。」
俺は二人の話す内容を黙って聞いた。
コウの推測は的をいているだろう。俺もそう考えていたから。だが、エリート生にバレたのはヤバかった。理事長の考え方なら、絶対に退学にはならなかった筈だ。でもエリート生は違う。良くも悪くも厳しすぎる。あの子達の成長は素直に嬉しいと思うが、今の俺にとっては最悪でしかないんだ。
「シン?どうかした?大丈夫?」
「…………え?あ、大丈夫。」
いつの間にか考え込んでいたらしい俺は、ナナに突然声をかけられ驚きながらも返事をする。
「ならいいんだけど…。」
なおも心配そうに見てくるナナに、俺はへらりと笑ってみせた。
「俺の事はいいんだよ。それよりナナはまだここにいて大丈夫なの?」
話をしている間に随分と時間が経っていたはずだ。まだ女子寮に戻らなくて大丈夫なのだろうか。
「ああ!!やばい!あと5分で門限じゃん!私帰るね!ばいばい!コウ!シン!」
「ああ、じゃあな」
「うん、じゃあね。」
俺はナナに言葉を返す。随分と慌ただしい退場だったな。というか、あと五分で寮まで帰るとか無理だろ。男子寮から女子寮までどんなに急いでも十分はかかるぞ。
「あれは門限破る事になるだろうね。」
「ああ、そうだな。」
コウも同じ事を思っていたらしい。俺はコウの言葉に同意した。
「あれ?ならシンも戻った方がいいんじゃない?同じ寮内だから門限は大丈夫だけど、消灯には間に合った方がいいからね。」
「そうだな。じゃあ俺も戻るか。」
俺はコウの言葉に頷いて席を立つ。
「じゃあな、シン。」
「ああ、じゃあなコウ。」
俺はコウに手を振り、寝室を抜けるとそのまま部屋から出た。
やっと肩の荷が一つ降りた。後は一年第一試験の方をどうするかだな……。全力はもちろん出せないし、出すつもりもないが、今までのように力を抑えてしたら即退学だ。それ以前に教師達にバレないように力を抑えて試験を受けるなんて出来るか?……はぁ。一週間後までにどうするか決めないとな…。
俺はそんな事を考えながら、もう一度深いため息を吐くと、暗い気分で寮の部屋まで帰ったのだった。
✽✽✽
たった今、シンが出ていった寝室の扉を見つめ、俺は後ろへ声をかける。
「風間様、もう出てきても大丈夫ですよ。」
「…うん。」
俺の言葉に短い返事が聞こえてくると、途端に寝室の壁の一部が歪み
、そこから背の高い一人の男が姿を現した。
「どうでしたか?」
俺は短く問いかける。
それだけでも十分意味は伝わったのだろう。風間様は小さく頭を振った。
「まだ分からない。」
「……そうですか。」
俺は短くため息をつく。これでシンへの認識が少しでも改まってくれたらと思っていたが、そう上手くは行かないようだ。
「…俺には、あの子の本当の姿が分からない。それは君もじゃないのか?」
俺は風間様の問に頷く。
「じゃあ、何故そこまで信じられる?」
風間様は本当に不思議そうに問いかけてくる。
何故?そんなの俺にも分からない。でも、シンは信じられる。例え何か隠していても、それでも俺はシンを信じられる。これは理屈じゃないんだ。
「分かりません。でも、信じられるんです。」
俺は風間様の目を見て、しっかりと答える。
風間様はそうか、と頷き、「俺にもそんな人がいたよ。」と悲しそうな顔で呟いた。
そのあまりにも悲壮な表情に、俺は「お休み。」と言って寝室を出ていく風間様へ、何も言葉を返す事が出来なかった。




