最悪
「あー!シン!いたー!」
「えっ!?ナナ!?」
教室への廊下を走っていた俺に、突然声をかけてきたのはナナだった。
「シン!何処に行ってたの!?探したんだよ!教室にいないし、授業時間になっても帰ってこないし。何かあったんじゃないかと心配したんだからね!」
ナナは俺の前まで来ると、俺の肩を揺さぶりながらプリプリ怒る。
「え、あ、うん。ごめんね。少し用事があったから、図書室に行っていたんだよ。」
俺はやや押され気味になりながら、しどろもどろでそう答えた。
「そうなの。まぁ、何もなかったんなら良かった。取り敢えず、今は皆様を待たせてるから早く行こうか!」
「え?うん……。ん?」
ナナは切り替えが早いらしい。
俺は訳が分からないまま、ナナに引きずられて、何処かへ向かう事となったのだった。
というか、ナナ力強いな。全然腕が振りほどけないんだが。女なのにこの力はどこから出てくるんだ?
✽✽✽
引きずられて歩くこと数分。やっとナナが止まった。どうやら目的地についたらしい。
「シン!ここだよ!もう皆様待っていらっしゃるから早く入ろう!」
ナナは笑顔でそう言う。
「そうか。ここか。」
俺は扉のプレートを見ながらそう呟く。『生徒会室』と書いてある。
・・・うん?生徒会、室?
俺はバッと、ナナを見た。
「ふふっ、驚いた?」
ナナは笑いながら首を傾げた。
どうやら確信犯らしい。俺を驚かせようと連れてきたみたいだが、俺は冗談として受け止められない。いくら何でもこれはヤバイ。
「じゃあ、入ろう!皆様を待たせているし、コウも学園の有名人の中で一人じゃ可哀想だからね!」
俺が何も言わないのをいい事に、ナナは一人で話を進めてしまっている。
俺は取り敢えず、首を横に振った。
「なんで!?」
ナナが驚いたような声を出す。至極当たり前の反応だ。コウとナナから聞いた限り、生徒会はエリート生の上位に位置する人達が集まっている組織で、学園の人気者だ。俺が断るなんて思いもしなかったのだろう。
だが、俺は普通の生徒とは違う。エリート生に会いたいなんてこれっぽっちも思わない。・・・何故か会う機会は多いが……。
「ごめんけど、俺は行かないよ。授業の方に出たいからね。」
「えー!せっかく生徒会の皆様と会える機会なのに勿体無い!生徒会と言えば、家柄、成績、容姿で選ばれるエリート生の中でも、特に優れている人だけが入ることが許される組織なんだよ!?なのにシンは会いたいと思わないの!?」
「・・・はぁ」
俺は曖昧に返事をした。
ナナ。力説してくれたとこ悪いけど、俺はあんまりそう言う事に興味ないんだよね。
「……本当に興味なさそうね。……はぁ、もうそれでもいいから取り敢えず皆様の話だけ聞いて。」
ナナは仕方ないというふうにため息を吐いた。
俺は内心で少しイラッとしながらも、それを表情には出さず口を開いた。
「………分かったよ。」
「本当!?良かったー。」
俺が頷くと、ナナは安心したように笑った。
「じゃあ、早く入ろ!随分皆様を待たせちゃったからね!あ、あとコウもか!」
「え、うん。」
コウはついでかよ。結構酷いな。
「失礼しまーす。」
俺が呆れて苦笑している間に、ナナは生徒会室の扉を開けた。
俺も「失礼します。」と一言告げると、ナナに続いた。
生徒会室には、男女合わせて十人ほどが集まっていた。その中の殆どは、俺が水門家にいた頃に会ったことや、見たことがある人物だ。しかも、全員が全員美形だ。昔からきれいな顔をしていた友人だけでなく、平凡顔だと思っていた友人までも美形になっている。整形でもしたのか?と疑いたくなるような変わりようだ。
俺がそうしてさり気なく観察していると、生徒会第二副会長の白宮 誠司と目があった。お互いが目を反らせずに見つめ合っていると、第二副会長が一瞬驚いたような表情をして、突然きれいな微笑みを浮かべた。
ゾワッ
俺はその微笑みに、寒気を感じて思わず体を震わせた。
第二副会長はそんな俺の様子を気にするでもなく、微笑みはそのままに、口を開いた。
「随分遅かったですね?お昼寝でもしていたのですか?それとも迷子でしたか?」
「…………え?」
俺は一瞬何を言われたのか理解できず、間抜けな声を出してしまった。
だが、それも仕方ないだろう。
まさかこんな美人の口からそんな辛辣な言葉が出てくるなんて誰が予想できただろうか。
しかも、昔の白宮 誠司を知っているなら尚更だ。
今はもう見る影もないが、昔は肩まである長い白い髪に、青い瞳から天使と呼ばれるほど可愛い容姿で、性格も、外見に見合うほど素直で優しかったのだから。
「何をぼけっとしているんですか?遅刻したんですから、まずは早く座って話を聞く姿勢くらい見せてください。」
「あ、はい。」
俺は呆然としながらも、その言葉に無意識に従っていた。
「あ、あと、貴方達はもう帰ってもいいですよ。今から、この人と重要なお話がありますので。」
第二副会長は思い出したようにそう 言うと、コウ達に部屋から出るよう促した。
「はい。失礼しました。」
「失礼しました。」
コウとナナはそう言って順番に部屋を出て行った。
第二副会長は、二人が完全に扉を閉めたのを確認すると、隣の赤髪の男子生徒に何か耳打ちした。
「そうか、こいつが。」
何を言われたのか、赤髪の男は俺を見つめて、一瞬驚いたような表情をしたあと、ニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべた。
その笑みに、俺は自分の体に震えが走るのを感じた。




