目撃事件
この話は一部でBL表現が入ります。苦手な方はお気をつけ下さい。
食堂から出た俺は、図書室にいた。
最初は教室に行こうと思ったのだが、昼休みがあと三十分もあったため、時間を潰そうと予定を変更したのだ。
「失礼しまーす。」
俺は小さな声で入室の挨拶をしながら、扉を開けた。
「んっ!あ、んっ!っ、あ、あぁぁぁ」
「・・・・・。」
俺は無言で扉を閉めた。
プレートを確認する。うん。図書室と書いてある。じゃあ、さっきのは気のせいか。そうだよな。図書室で男子生徒が全裸の教師を組み敷いてる訳がないよな。うん。
俺は一人頷くと、もう一度扉を開けた。
「あ、んっ、い、や、やぁぁぁぁぁ」
俺はもう一度扉を閉めると、後ろを向いた。うん。教室に戻ろう。
「待ってよ。」
「うわっ!」
俺が歩き出そうと一歩を踏み出すと、突然後ろから肩を叩かれた。驚いて振り返ると、そこには図書室の中で教師を組み敷いていた男子生徒がいた。
「・・・・・こんにちは。」
とりあえず、俺は笑顔で挨拶をしてみた。
「うん。こんにちは。」
相手も笑顔で挨拶を返してくれた。
俺は笑顔を保ちながらも、内心では一刻も早くこの場から立ち去る方法を考えていた。
男子生徒は、そんな俺の心を見透かしたように、「ねぇ、ちょっと中に入って?」と促してきた。
俺は冗談じゃねぇよ!と思いながらも、それを表情には出さず、「いえ、用事があったのを思い出しまして。すみません。」と断って立ち去ろうとした。
だが、俺のそんな抵抗虚しく、「いいから入って。」と強引に図書室へと引きずり込まれてしまったのだった。最悪だー!
図書室の中は俺が思っていた以上に豪華だった。
何で図書室までシャンデリアがあるんだ?無駄に金かけ過ぎじゃないか?
「こっちだよ。」
俺が物珍しさにキョロキョロしていると、男子生徒に声をかけられた。
「あ、はい。」
ここまで来たら、もう大人しく従うしかないよな。と思った俺は、男子生徒のあとを大人しくついて行った。
男子生徒の案内で連れてこられたのは、図書室の奥にある司書室だった。
何か嫌な予感がするんだけど。気のせいだと思いたい。
「さぁ、行こうか。」
男子生徒は俺にそう声をかけると、ノックもなしに突然扉を開けた。
えー!?何してんの!?
「司さん。連れてきましたよ。」
俺の驚きように気づいていないのか、男子生徒は一切気負った様子なく、部屋の中の人物へと声をかけた。
「海里君。部屋に入る時は一言声をかけなさいといっているでしょう?」
部屋の中の人物―――――司さんと呼ばれた男の人は、そう言って困ったように微笑んだ。
俺はその微笑みに思わず見惚れてしまった。言っては悪いが、司さんは中性的な顔立ちのとても綺麗な人だった。そんな人が微笑んだりしたから、ノンケの俺でもつい見惚れてしまったのだ。だからこれは不可抗力なんだ。それ以外に俺が男に見惚れるなんてありえないからな。
俺がそうやって自分に対して言い訳をしている間も、二人は会話を続けていた。
「ごめんね。司さん。今はこの生徒しかいないから大丈夫かと思って。」
「ふふ。別に構わないんですよ?海里君は人がいる所ではしっかり教師と生徒として接してくれますし。そこは信頼してますから。」
「司さん……。そんな可愛い事言われたら、また襲いたくなっちゃうじゃないですか。」
「それは困りますね。流石にもう一度となると、僕は意識を保つ自信はないですよ?」
「俺はそれでも別に良いですよ。何なら本当に意識をなくすまでしてあげましょうか?」
「冗談には聞こえませんよ。海里君。」
「そりゃあ、冗談ではないですからね。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
二人はお互いを見つめたまま黙り込んだ。
司さんは何処か焦ったように。男子生徒―――――海里君は何処か楽しそうに。
・・・・というかさ!二人共俺の存在忘れてない!?部屋に入った途端、二人の世界に入って俺を放っておくって酷くねぇか!?俺は放置プレイが好きな変態でも、目の前で男の恋人達の様子を見て楽しむ趣味人でもないんだぞ!なのにこの扱いは何?もう俺帰ってもいいですかね?
正気に戻った俺が、部屋の隅で一人やさぐれていると、ふいに司さんと目があった。
あ、気づいた。
「海里君。そこにいる子は誰ですか?」
「そこにいる子?………ああ。この生徒ですか。この生徒は、さっきのを見ていた子ですよ。司さんが気にしていたので連れてきたんです。」
海里君は司さんの質問にそう返すと、俺に対して柔らかく微笑んだ。おい、怖えよ海里君。目が笑ってないよ。そして、その無言の圧力もヤメテ!俺のライフはもうゼロよ!(言ってみたかっただけ)
「そういえば名前をまだ聞いてませんでしたね。」
海里君は俺に微笑んだまま、思い出したように聞いてきた。
何で名前を聞く!?そこはスルーしといてよ!この無言の訴えがわからないのか!?
俺は内心荒れ狂いながらも、それを表に出すことはせず、困ったように微笑んでみせた。
「お話ししたいのは山々なのですが、あいにく授業が後三分ほどで始まるようなので、戻らせて頂いても宜しいでしょうか?」
俺は時計を一度見ると、海里君にそう言った。
「授業?それなら俺が口利きをしよう。だから欠席しても問題ないよ。」
まさかの返しをされた。
俺が言いたいのはそう言うことじゃないんだよ!それに授業欠席したら俺がついていけないかもとかの心配はないの!?そこらへんを配慮しろよ!
というか、先生への口利きが出来るって海里君は何者だよ!?
「あの、授業に欠席したら俺がちょっと………。」
「?」
俺は濁して授業に欠席できない理由を言った。
たが、海里君は俺の言葉の意図が分からなかったのか、首をかしげた。
何で分からないの!?そこは空気で察してよ!
「海里君。もう良いのでその子は返してあげて下さい。授業を欠席させるのは僕もあまり気が進みませんので。」
救世主だ!救世主が現れた!司さん。俺の意図を組んでくれてありがとう!これで俺は救われた!
「では、お言葉に甘えて失礼させていただきます。」
俺は内心狂喜乱舞しながらも、退室の挨拶を済ませ、部屋を出た。
海里君はその間、何も言わなかった。
図書室を出た俺は、走って教室へ向かった。
あいつのせいで授業に遅れたじゃねぇか!どうしてくれんだよ!




