迷惑
途中で、慎哉視点→浩太視点になります。
翌日、俺が登校すると、昨日の食堂でのことは全校生徒に広まっていた。
「昨日のはどういうことですの!?貴方達、外部生ごときがあの方々と食事をともにするなんて、ありえませんわ!」
「そうです。そうです。ありえません!」
「中で何があったのか、洗いざらい話しなさい!」
俺は教室に入った途端に、女子達に囲まれた。周りに視線を送っても、目をそらされるか、逆に睨まれるかだけ。これは助けは期待できそうにないな。
「ねぇ、貴方。聞いていますの?平民ごときが私を無視するとはいい度胸ですわね?」
・・・ヤバイ。何か俺、今一瞬で追い詰められたんじゃないか?
仕方ないな。ここは下手に出て、穏便に済ませるか。
「いいえ。無視などと、赤宮様に対して、その様な無礼な振る舞いをする訳がございませんでしょう?」
「あら、私の名前を知っていたの?」
食い付くのはそこかよ。まぁ、話を反らせたから良かったのか?
「はい。私は外部生ですので、この学園に早く馴染みたいと思いまして、このクラスの方々の名前は全て覚えております。」
「そうなの。随分記憶力が良いのね?一日で全員の名前を覚えるなど。」
「いえいえ。私の記憶力はそこまで良くありません。ですので、昨日の夜、必死に覚えたのですよ。」
これは嘘ではない。確かに、おれは昨日のあの自己紹介だけで、全員の名前を覚えることは出来た。だが、夜も確かにクラスの名簿表を眺めていたのだ。だからこれは嘘にはならない。はずだ。
「あらそう。随分熱心なことで。でもね、そんなに必死に覚えたところで、貴方のような平民と、友好関係を持とうなどという人は、このクラスにいるかしらね?ねぇ?皆様?どう思いまして?」
「ふふ。赤宮様。酷いですよ。そのような現実を突きつけては。平民君が泣いてしまいますわ。」
「あら、そうかしら?それはごめんなさいね?平民君?」
クスクスクスクス
教室内に一斉に笑い声が広まった。
これは完全に馬鹿にされてるな。まぁ、何か言い返すつもりはないけど。こんなガキみたいなイジメに付き合ってやる義理はないし。
俺は一応、目の前の赤宮サマに頭を下げて、自分の席に座った。
これで無礼だ何だとは言えないだろう。
しばらくして、俺をいじめる事に飽きたのか、クラスのミナサマは、グループで雑談をしはじめた。
これで一先ず落ち着けるな。
というか、さっきのは何だったんだ?昨日の食堂でのことを聞きたかっんじゃないのか?何で俺をイジめる会がスタートしたんだ?おかしいだろ。
・・・まぁ、いいか。考えるの面倒くさいし。昨日の食堂での事を聞かれなかったと言うことで、今回は良しとしよう。
「おーい。お前ら席に着けー。」
俺が一人、うんうんと頷きながら自分を納得させていると、ホスト教師と結月先生が教室に入ってき。え?もうそんな時間か?余裕を持って来たつもりだったんだけど。・・・・あ、さっきのか。あのイジメで時間取られたのか。もう、最悪だな。
「あー。今日は欠席はいないな。よし。じゃあ、ホームルーム始めるぞー。」
「「「「「はーい!!!」」」」」
なんていい子のお返事。さっきと違いすぎて怖いよ。何なのこのクラス。
「じゃあ、まずはクラス委員を決める。例年通り、入試の成績上位二名の者になってもらうが、一人はもう決まってるな。学級委員長は黒宮 怜斗。引き受けてくれるよな?」
「ああ。」
えっ!?怜斗!?怜斗がクラスの成績一位なのか!?へー。成長したなー。あの泣き虫だった怜斗が学級委員長か。何か感慨深いものがあるな。
「じゃあ、あともう一人の学級委員だが………。」
ああ。そうか。もう一人いるのか。怜斗と一緒なら、出来れば優しいやつがいいな。怜斗がクラスで孤立しないように一緒にいてくれるようなやつ。って、今の怜斗には必要ないか。何か、昔基準で考えちゃうな俺。駄目だな。俺の中の皆は、三年前で止まってるみたいだ。昨日の食堂でも感じたけど、皆三年前とは全然違うのに。この癖は直さないとな。
「河野 慎哉。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
・・・ヤバイ。何か幻聴が聞こえたぞ。
この流れで俺の名前が呼ばれたのだとしたら、これは俺に副委員長をしろと言ってるということになる。そんなことあり得る訳がないのにな。
「河野 慎哉。無視とはいい度胸だな?」
幻聴じゃなかったー!ヤバイ。どうすればいいんだこの状況。今のは完全に俺が無視したと思われたよな。まぁ、確かにそのとおりだけれども!でも、仕方ないだろ。幻聴だと思ったんだから!
「ハイ。ナンデショウカ?センセイ。」
・・・片言になったー!緊張しすぎて片言になっちゃったー!先生からの視線が痛い。
「河野 慎哉。副委員長。なってくれるよな?」
あ、片言はスルーするのね。それはありがたい。
でも、その笑顔は怖いよ。ここで笑うなよ。しかもこの雰囲気。俺、断れないじゃん。もう、嫌だー!
「はい。お引き受けします。」
俺は投げやりな気持ちで返事をした。もうどうとでもなれ!
こうして俺は、一年C組、副委員長になったのだった。
もう、この学園辞めたい。
✽✽✽
「海鮮パスタとジェラートを一つお願いします。」
「私も海鮮パスタと蜂蜜ヨーグルトを。」
「俺はトマトピザとショコラケーキを一つ。」
俺は今、食堂にいる。
あの後、副委員長になった俺は、クラス中から睨まれながら、授業を受け、昼休みに入ると一番に教室を出て、食堂に来た。そこで待ち合わせをしていたコウとナナと合流して、今、昼食を食べはじめている。と言う状況だ。
ちなみにこの事を二人に話すと、
「副委員長?でも黒宮様と一緒でしょう?ならいいじゃない。頑張って!」
「頑張れ。シン。」
なんとも軽い返しだった。
「酷いな。もう少し心配してくれてもいいのでは?」
「そうだねー。でも私達が心配しても何も変わらないし、するだけ無駄じゃない?あ、でも、相談にはのるから何かあったら絶対言ってね!」
確かにそのとおりだけど。ナナ。俺は今、悲しいよ。マジで少しくらい心配してくれても良いんじゃない?
「・・・・・。」
コウ。無言で肩に手を乗せるのはやめてほしいな。逆に悲しくなるから。
はぁー。俺の友人達は何でこんなに酷い奴らなんだ。
「「「「キャー!!!!!」」」
「「「「「ウォー!!!!!」」」」」
俺が絶望に打ちひしがれていると、昨日と同じような悲鳴が入り口付近から聞こえてきた。
声の発生源で何があったのかなんてもう見なくても分かる。
エリート生達が来たのだろう。
俺はシリアスな雰囲気を台無しにされて少し怒りながらも、未だ続く悲鳴をうんざりしたように聞いていた。
「ねぇ。俺はもう教室に戻るけど、二人はどうする?」
丁度昼食も食べ終わったので、いいタイミングだと思い、俺は食堂から出ることにした。
「私はもう少しここにいるね。まだデザートも食べてないし。」
「俺もここにいるな。こいつ一人だと心配だし。」
二人共まだここに残るらしい。
一応理由を言ってはいるが、それは嘘だろう。本当の理由はエリート生達を見るためだと思う。さっきから目線がずっと入り口にいってるし。間違いない。
昨日のアレのせいで今日の朝から大変だったって言うのに、憧れというのは変わらないらしい。
まぁ、その気持ちは分かる。
俺にも憧れの人はいるからな。
「じゃあ、俺はもう行くね。二人はゆっくりしてきなよ。」
「うん!じぁね〜。」
「ああ。また放課後な。」
俺は二人と言葉を交わして、食堂をあとにした。
◆◇◆◇
俺は食堂から出ていくシンの背中を黙って見送った。
あ、今躓きそうになった。危ないな。
「何ニヤニヤしてるの?気持ち悪い。」
俺がシンの後ろ姿を見ていると、妹のナナが辛辣な事を言ってきた。
「気持ち悪いって酷いな。俺はただシンを見送ってるだけなんだが?」
「それが気持ち悪いのよ。シンがそんなに気に入ったの?」
「ああ。そうだな。気に入ったよ。でも、それはお前もじゃないのか?」
「そりゃあね。気に入ってるわよ。シンは総受けに出来ると思うからね!」
「………そうか。」
出た。ナナの腐女子発言。
ナナは昔から生粋のオタクで腐女子だ。家の母と父の影響を受けたのだろう。母と父もオタクだからな。
そして、ナナは妄想が行き過ぎてよく暴走するから、その度に俺が尻拭いをしている。いい迷惑だ。
「ナナ。あまりシンをそういう対象として見るのはどうかと思うぞ。バレて絶交されたらどうすんだよ。」
「それなら大丈夫よ。バレないようにすればいいんだから。」
「…………そうかよ。」
ナナのこの自信は一体何処から来るんだよ。まったく。
「おい。お前達。」
俺がナナに色々と諦めてため息をついていると、誰かに声をかけられた。
「はい?なんですか?…………………せ、生徒会長、様。」
俺が声の方に振り返ると、我が学園生徒会長様が腕を組んで立っていらっしゃった。
え、何でここにいらっしゃるんだ?そして何で俺達は話しかけられてるんだ?
「生徒会長様!な、何の御用でございましゅ、しょうかぁ!?」
俺が考え込んでる間にも、ナナが話しを聞いていた。張り切って声を出したわりには噛んでるな。
「ああ。お前達に聞きたい事がある。」
あ、噛んだことはスルーするのか。そうか。
「聞きたい事でございましょうか!?」
ナナ。緊張しすぎだ。声が裏返ってるぞ。聞いてるこっちが恥ずかしい。
「昨日、お前達と共にいた外部生の男はどこにいる。」
「外部生の男?……………あ、シンの事ですか?」
「シン?」
生徒会長様は誰だそれはというふうに首をかしげた。
そうだよな。シンじゃ誰だか分からないよな。でも、これはヤバイんじゃないか?このままシンの本名言ったら、この方々は絶対シンに会いに行くだろうし。そんなことになったらシンは全校生徒の注目の的になる。これは本名を話すわけにはいかないな。
「シンって言うのは、河「シンの本名は私達二人共知らないんです!お役に立てずにすみません!」………えっ?」
俺はシンの本名を言おうとしたナナの言葉を遮って、生徒会長様にそう言った。ヤバイ。勢いだけで嘘をついてしまった。ナナが簡単に本名を言おうとするから。
「本名を知らない?」
「はい。そうです。一応、初対面の時に聞いたのですが、愛称で呼ぶようになってから忘れてしまって。お役に立てずに申し訳ございません。」
俺は頭を下げた。これでいい。ここまでしたなら嘘だとは怪しまれない筈だ。多分。
「そうか。」
生徒会長様は、納得したように頷くと、この場を去って行こうとした。だが。
「待って待って〜!」
そんな生徒会長様の足を止めたのは、昨日食堂で話しかけて来た先輩だった。
「何だ。彰。もうこいつ等に用はないだろ。」
「うん。そうなんだけどね。多分俺、昨日シンっていう子と話してるから聞いてみたくて。だからちょっと待ってよ蓮。」
どうやら昨日の先輩は彰様というらしい。しかも、生徒会長様と名前で呼び合う間柄でもあるらしい。
ごめん。シン。俺、お前をかばいきれないみたいだ。
「ねぇ。昨日一緒に座ってた子だよね?シンって。」
「えっと、はい。そうですけど。」
「あー。やっぱりそっかー。あの子がシン。確か、本名は河野 慎哉君、だったよね?」
昨日の先輩、改め、彰様はそう聞いてきた。何故か俺を見ながら。
・・・あー、これバレてるな。さっきのが嘘だって言うこと。笑顔なのに目が笑ってないし。この方は逆らっちゃ駄目な人種の人間だ。ごめん。シン。俺はお前を売るよ。
「えーと、確かそんな名前だったような気がします。すみません。よく覚えてなくて。あ、でも、エリート生の四葉 渚様と同室だったって言ってました。」
「そうなのか。……………渚!いるか!?」
「………はい?何ですかー?彰先輩。」
彰様が声をかけると、後ろの集団の中から、男子生徒が一人出てきた。
うわー。この方が四葉様か。写真では見たけど、やっぱり実物はもっと可愛いな。見た目は完全に女子だし。声でしか見分けつかないな。
「渚、お前河野 慎哉と同室だって?」
「河野 慎哉?誰ですかそれ。」
シン。お前、名前すら覚えられてないぞ。
まぁ、お前も四葉様を知らなかったからお互い様か?
「あー、そうか。お前は名前覚えるのが苦手だったな。」
「なっ。違います!覚える必要がないだけです!覚えようと思えば一度で覚えられます!」
「そうか。そうだな。で、話を戻すけど、お前の同室者は外部生で、茶髪茶眼の男子生徒?」
「同室者?…………………あー。あの平凡顔のことですか?なら僕の同室者ですよ。僕は認めてませんけどねっ。」
四葉様は一気に不機嫌になり、怒ったように顔をそむけた。
シン。お前は何をしたんだ。一体。
「じゃあ、河野 慎哉で決定だね。ねぇ、二人共。俺達を河野 慎哉の所まで案内してくれないかな?」
彰様。一応疑問系ですが、それは俺達に選択権はありませんよね?
「分かりました!お任せください!」
俺が返答に困っていると、ナナが何の迷いもなく引き受けた。
(おい!ナナ!何でそんな簡単に了承するんだよ!)
(別にいいじゃない!どうせ断れないんだし!それに、こんな美味しいシチュエーション見逃せないわよ!)
どうやらナナは腐女子の血が騒ぎ出したから引き受けたらしい。これはまた俺が尻拭いをする羽目になりそうだ。
「それでは、シンの元まで案内いたします!」
俺は異様に張り切っているナナのあとを、ため息をはいて、大人しくついて行ったのだった。




