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未来の王は姿を隠す   作者: 水無月 霊華
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二階食堂で

 二階食堂は、まるで異世界のようだった。


 ・・・・いや、この世界がもう異世界だろ!とかいうツッコミはいらないからな!ただ言ってみただけだ。

 だが、確かに異世界、いや、もう別次元の空間だったんだ。

 だだっ広い部屋の天井にはシャンデリア。まぁ、これだけならもう見慣れたが(本当は見慣れたくなんてなかった)、部屋の中心には温室があった。

 そう。花や植物を育てたりする時に使うあの温室だ。


 俺達が温室に驚いている間も、エリート生の奴らは気にせず中に入っていく。

 どうやらこれぐらいは普通ということらしい。


「何してるんですか?早く入りなさい。」


 第二副会長に促されて、しばらくフリーズしていた俺達は正気に戻り、いそいそとエリート生に続いた。


 温室の中は丁度いい暖かさだった。

 勿論沢山の植物があったが、人に合わせて調節しているのだろう。


 そんな温室の中心には長い机があった。

 前世で言う、中世ヨーロッパの王様とかが食事で使いそうな食卓だ。

 上には多くの料理が乗っている。


「皆様はこちらにお座りください。」


 俺達がどうしたらいいか分からず、温室の入り口で立ち止まっていると、給仕の格好をした男が話しかけてきた。

 俺達はそれに促されて、指定された椅子に順に座った。


「では、皆さん。食事をどうぞ。」


 俺達が全員席に着いたのを確認すると、第二副会長はそう言った。

 どうやらエリート生の奴らと食事をする為だけに、俺達は呼ばれたらしい。が、ふざけんなよ!食事ぐらいゆっくりさせろや!と思ったのは俺だけではないはずだ。


 そして、俺が内心で悪態をついている間に食事会はスタートした。

 食事会は厳かな空気の中で進み、二階食堂には食器がこすれる音だけが響いていた。


 はっきり言って息苦しい。

 こんな経験がまったくない訳ではないが、あったとしても三年以上も前の話だ。

 しかも、今平民で、前世も平民の俺は礼儀作法なんかが元々苦手だった。

 だからなのか、三年以上も礼儀作法の世界から離れていた俺は、すっかり初心者のようにしか食事ができなくなっていた。


 まぁ、それ自体は別にいい。

 平民なのに礼儀作法が完璧っていうのは逆におかしいからな。

 それに外部生組はほとんど見た目だけ真似した礼儀作法だし。

 ただ、エリート生達の視線が痛い。

 礼儀作法ぐらいしっかり身につけろとでも言いたそうな視線だ。


 まぁ、それも俺は別に気にしないが、他の外部生は違う。

 俺みたいに昔のアイツらを知っているわけでも、会ったことがあるわけでもない。根っからの平民だ。

 ほとんどの奴は手が震えている。

 俺から見ても危なっかしい。こんな静かなところで大きな音をたてたら恥ずかしいだけじゃ済まないぞ。


 俺がそんな気持ちで、食事をしながらも周りをさり気なく見ていると、俺がそんなことを考えたのが悪かったのか、静かだった食堂に、突然、ガシャン!という大きな音が響き渡った。

 部屋の全員が、その音の発生源を一斉に見た。

 音の発生源は俺の右隣からだ。そこに誰が座っていたかなんて見なくてもわかる。ナナだ。


「っ、どう、しよう。」


 ナナは、青い顔で俺の方を向いてそう言った。

 聞かれた俺はというと、


「とりあえず、座って大人しくしとこう。変な事はしない方がいい。それに、今はコウに大丈夫だってこと知らせるのが先だ。」


 意外と冷静だった。

 さっきから、向かい側のコウが心配気な視線を送って来てたんで、ずっと気になってたんだ。

 ナナは俺の言葉に素直に頷くと、コウに大丈夫だと知らせた。何故か大きな声で。


「コウ!私は大丈夫だよ!心配しないで!」


 これを聞いて、俺は思った。全然大丈夫じゃなーい!と。

 どうやらナナは慌てすぎて気が動転してしまったらしい。

 俺はこのなんとも言えない空気を払拭するために、目立つのを覚悟で行動に出ることにした。


「第二副会長。この子は今、気が動転しているようでして。これ以上ご迷惑をかける訳には参りませんので、今日は失礼させて頂きたく思います。私が寮まで、しっかりと送らせて頂きますのでよろしいでしょうか?」

「ええ。分かりました。今日は許可しましょう。ですが、次はないと思いなさい。」


 割とあっさりと退室を許可してくれたが、釘を指すのは忘れないらしい。

 白宮家の人は、昔からこういう所があったな。と、内心懐かしく思いながらも、表情は真面目なままで返事をした。


「はい。心得ております。皆様、今日はお食事の席にお招き頂き、ありがとうございました。では、失礼させて頂きます。」


 俺は頭を下げて二階食堂を退室した。勿論ナナに頭を下げさせることも忘れなかった。

 そうして、俺は居心地の悪い空間から、見事脱出したのだった。目立ってしまったという、マイナスはつくが。


 一階の食堂に降りた俺達を待っていたのは、好奇心のつまった視線だった。

 なんだか面倒くさいことになりそうだと思った俺は、囲まれる前に食堂を早足で抜けて寮に向かった。


 途中でナナが二階食堂でのお礼を言ってきたが、自分のための行動でもあったため、「別にいいよ。」と、一言だけ言って、話を終わらせた。


 その後は、ナナと男子寮、女子寮への分かれ道に着くまで、色々な話をして盛り上がった。





 この時の俺は気付いていなかった。

 エリート生、しかも生徒会第二副会長に自分の意見をはっきりと言うことが、どれほど異例なのか。

 それにより、少なからず目をつけられてしまったという事にも、この時、ナナとの以外にも盛り上がった話に気を取られていた俺は、気付くことはなかった。








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