食堂で
俺が待ち合わせ場所に着くとコウはもう来ていた。
「コウ!ごめん。待たせた?」
「いや、今来たところだよ。じゃあ、行こうか。」
「え?ナナは?」
「ああ。先に食堂行って席取っとくんだって。」
「そうか。何か悪いな。」
「気にしなくていいよ。あいつもしたい事があるらしいし。」
「へぇ。じゃあ、俺達も早く行くか。」
「そうだね。」
それからしばらくは色々と話しながら食堂に向かっていた。
「そういえば同室のやつどうだった?いいやつだったか?」
「同室者?うーん。何か色々な意味で強烈な奴だったな。」
「へぇ。どんな人だったの?」
「うーん。四葉 渚って言う奴なんだけど。」
「四葉 渚!?今、四葉 渚って言った?」
「え、うん。」
渚の名前を出すとコウは驚いたように聞き返してきた。あいつって本当に有名人だったのか!?
「なぁ、四葉 渚を知ってるのか?」
「そりゃあね。四葉 渚といえばこの学園のエースの一人にして、栄光七家を支える栄十六家の家の者だから。って、まさか知らなかったの?」
「え、うん。知らなかったけど。何かおかしいかな?」
「いや、この学園のパンフレット読んでないの?それに全部載ってるはずだけど。」
「はは、読んでないな。」
いや、読めないだろ。この学園のパンフレットってことはあいつらも載ってるんだろ?あんま見たくないんだよな。だから読んでないんだよ。まぁ、こんな事言えないけどな。
「へぇ。この学園のパンフレットって結構有名だけど一回も見たことないの?」
「ああ、ないな。というか、パンフレットが有名ってどういう事だ?」
「それも知らないのか。じゃあ、今から教えるな。この話は知っといた方が良いから。えーと、まず、この学園のパンフレットにはこの学園の情報がたくさん書いてあるんだ。その中でも、エリート生と呼ばれる方々のことが載っているページがある。エリート生っていうのは、この学院のトップ三十人に付いている称号みたいなものだよ。ここまで言えばわかるよな?その方々のほとんどが日本。もしくは外国の名家の家の人たちだ。そして、将来の世界王候補でもある。その方々の情報が詳しく載っているんだ。普通ならチェックするんだがな?」
「ああ、そうだな。そいうことが載ってるなら見とけばよかったかな。」
今の言葉はもちろん嘘だ。本当は見なくて良かったと思っている。ただ、これを聞けたことは良かった。こういう情報は早めに知っていて損はないからな。
「シン。着いたぞ。ナナを探そう。」
「あ、ああ。そうだな。」
俺が話に集中している間に食堂に着いていたらしい。今は取り敢えず考えるのは止めて、ナナを探して夕飯を食べるか。
お腹も空いたし。
✽✽✽
「あっ!コーウ!シーン!こっちだよ。こっち!」
俺達がナナを探して食堂を歩き回っているとナナの方が先に俺達を見つけて呼び寄せてきた。
若干だが、ナナの叫び声で周りから注目を集めている。何か恥ずかしいな。
「ナナ!食堂で叫ぶのはやめてくれ!恥ずかしいだろ!」
「はーい。ごめんなさーい。」
恥ずかしいと思ったのはコウも同じだったらしい。表情が変わらないから気にしてないのかと思ってたけど、隠してただけか。
というか。
「コウ。ここで言い争ったらもっと目立つから。一旦座ろうか。」
そう、何か俺がボーッとしている内に姉弟喧嘩に発展しそうになっていたのだ。危ない。危ない。
「そう、だな。」
「うんうん。私もお腹空いたし、早く食べよう。」
「はは、そうだね。」
俺はナナの代わり身の速さに苦笑しながら頷いた。
「私はカレーにするね。二人は何にする?」
「俺はカツ丼にする。コウはどうする?」
「俺?俺は牛丼にするよ。」
「オッケー。じゃあ、注文するね!」
その言葉に頷くと、俺とコウはナナが注文する様子を静かに眺めていた。
しばらくして、注文が終わったらしい。ナナが話しかけて来た。
「ねぇ、食堂の二階って何があるか知ってる?」
「二階?二階があるの?」
「そう!あそこなんだけど、何があるのか分かんないの。」
俺はナナが指さした方を見た。確かに階段がある。二階に何があるのか気になるな。
「ねぇ、君たちって外部生?」
俺が興味深く階段を見ていると、すぐ横から突然声が聞こえてきた。
反射的に振り返ると男のきれいな顔のドアップが目の前にあった。
「あれ、君。」
俺が驚いて固まっていると何を思ったのか、男が手を顔に伸ばしてきた。俺は体を反ってそれを避けるとコウの側まですぐに避難した。
「大丈夫か?」
「ああ。大丈夫だ。少し驚いたがな。」
「はは、だろうな。…で、貴方はどなたですか?」
コウは俺の時とは声音を百八十度変えて、男に聞いた。
「俺?俺は通りすがりのお節介さんさ。それと、君たちが疑問に思っていたここの二階だけどね。エリート生たちが利用する場所だよ。あ、教師かエリート生の許可なく入ったら謹慎処分になるから気をつけてね。」
へぇ、エリート生用の食卓なんかがあるのか。無駄に金かけるな。流石金持ち学校。
「じゃあ、エリート生もこの食堂を利用するんですか?」
「うん。その通りだよ。そして、そろそろ来ると思…」
「「「「「キャャャー」」」」」
「「「「「うぉぉぉー」」」」」
ナナと男が話していると食堂に叫び声が響き渡り、一気に騒がしくなった。
「あーあ、もう来ちゃったのか。じゃあ、俺は行くね。バイバイ」
男はそう言って颯爽と去って行った。何だったんだ。一体。
「ねぇ、あれってエリート生の人達じゃない?」
俺が男の去って行った方を見つめているとナナが呆然としたようにそう言った。
ナナが見つめている先には二階へ上がる階段がある。そこで何十名かの生徒がこちらを向いて立っていた。あれがエリート生達か。何か壮観だな。全員美形って舐めてるだろ完全に。
俺がそんなふうに妬みを込めて見つめていると数人の生徒が進み出て来た。
俺は、その生徒達を見て心臓がドキッと音を立てるのを確かに感じた。そこに居たのは俺の昔の友人達だった。
俺が半ば呆然と見つめていると、その中の一人が話しだした。
『皆さん。お久しぶりです。そして、外部生の方は初めまして。私はこの学園の生徒会第二副会長を努めている白宮 誠司といいます。以後お見知りおきを。今回、このような時間に私達が食堂に来た理由はただ一つ。外部生の皆さん。あなた方にはこれから私達と一緒に二階の特別食堂に来て頂きます。拒否権はありません。では、外部生の皆さん。立って、着いて来てください。』
俺は白宮第二副会長の話を聞いて先程の比ではないくらいの速さで心臓が音を立てているのを感じた。
第二副会長ってなんだ?というか、着いて来いって。二階に?あいつらが集まっているだろう二階に来いと?俺に?…無理だ。どうすればいいんだ。まだあいつらには気付かれる訳にはいかないのに。
「シン?どうしたの?早く行かないと皆様を待たせちゃうよ?って、顔色悪いけど大丈夫?」
ナナの言葉を聞いて、俺は周りを見渡した。確かに外部生で席に座ってるのは俺だけだ。俺が考え込んでいる間に皆移動を開始していたのだろう。
俺はそれに気付くと慌てて席を立った。ナナもコウも心配そうに見てくるが、俺は大丈夫だというふうに笑ってみせた。
まぁ、本当は全然大丈夫ではないのだがが今更怖気づいても仕方ない。この学園に入ると決めた時点でいつかあいつらと会う日が来るかもしれないことは予想していた。それに、俺は師匠に姿を変える魔法をかけてもらっている。俺の師匠はすごい人だ。俺は師匠以上の魔法使いを見た事はない。だから、気づかれるはずがない。
俺は自分にそう暗示をかけながら、二階の食堂と言う名の戦場にコウとナナと共に足を踏み入れたのだった。




