別れと出会い
撫子が危篤状態ときかされた響音は撫子に会うため病院へ急ぐ。病室に着いた響音が目にした現実は…。
私は周りの音など全くきこえないくらい必死に走った。頬を流れる涙も、汗も、私自身の存在さえも忘れるくらい撫子のことを思ってただただ走り続けた。
病院に着き病室のドアを開くとそこには泣きながら撫子の手を握る撫子の母親とその目の前で横たわる撫子の姿が見えた。横には点滴とモニターがあった。1歩、2歩と近づくにつれ、撫子の姿がはっきり見えてきた。
口には酸素マスクをつけてまるで眠っているかのような表情で横たわる撫子。
ようやく私の姿に気づいた撫子の母親は
「ことねさん…ありがとう。撫子の手、握ってあげて」
「初めまして。こちらこそ教えてくれてありがとうございます。」
そう返事をして手を握り話しかけた。
「なこちゃん…会いに来たよ…?てか、なこちゃんの嘘つき。二学期も元気に学校行くよ!って言ったじゃん…。なのに…なのになんでこんなところで寝てるの?目を開けて?…起きて沢山話そうよ!…遊ぼう?」
そう言いながら私は泣いていた…。
すると握っていた撫子の指が少し動いたのを感じた。すかさず顔を見ると、目は閉じたままだったが撫子の頬に涙がこぼれていた。
それに気づいた直後、今まで安定したリズムでなっていた機械音がゆっくりになり、赤い光とともに警告するかのようにアラームがなった。
直ぐに撫子の母親はナースコールを押して助けを求めていたがみるみる数字が下がっていった。先生と看護師さんが病室に来た頃には数字は10台まで下がっていた。それを見て先生は
「このまま見送りますか?延命しますか?」
と撫子の母親に聞いていたが撫子の母親は泣きながら
「ここまで頑張ってくれました。ゆっくりさせてあげます。」
そう言い終わると、数字は一桁になりすぐに0になった。
病室にはピーという機械音と撫子の母親と私の泣き声が響きわたった。
「午後4時23分。ご臨終です。」
と告げると先生と看護師さんは退室していった。
それから10分~20分くらい経ってからでしょうか、無理矢理気持ちを落ち着かせた撫子の母親が
「ことねさん、入学してから今まで撫子と仲良くしてくれてありがとね。…ほんとに高校に入学してからの撫子が1番キラキラしてて楽しそうだった。そんな撫子をみせてくれたことねさんは、私にとっても、大事な人よ。」
私はその言葉にまた涙があふれた。
「なこちゃんママ、ありがとうございます。私もなこちゃんに出会えてすごく毎日が楽しかったです。」
そう会話を交わして最後にもう一度撫子の手を握り
「なこちゃん…お疲れ様。私となこちゃんは友達じゃない。もう、親友以上だよ!私と仲良くしてくれてありがとう。」
そう言って別れを告げ私は帰宅した。その夜は、まだ携帯に着信やメールがくる気がしてずっと携帯を握りしめていた…。
時は過ぎ、入学してから1年がたった今日、私はあの日のことを思い出し、校門で1人校舎をながめていた。
すると肩をポンポンとされ振り向くと、もういるはずのない撫子が立っていた。あの時と変わらない姿や喋り方に私は目を疑った。その子が
「あっ…あの…。……新入生…ですか?」
その声もそっくりだった。
とうとう私は撫子のいない生活を受け入れられなくなって幻覚が起きてるんだと思い始めた。
「…あの…私…今日から2年生です…。」
抜け殻になったかのような口調でそう答えた。
「え?!…あっ……あの…すみません…。」
そう言ってすごい速さでその子は走って行った。