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41.二人旅

 ニクス様がオレストさんの首根っこをつかんで王都へ帰って行った日から1ヶ月。

 今月もそろそろニクス様がいらっしゃる頃だな~と思ってたら、ニクス様の他にオレストさんとテレサ先輩も一緒にいらっしゃった。


「テレサ先輩! お久しぶりです!」


 懐かしい顔にテンションが上がって、両手で握手してしまった。


「本当に久しぶり! いや~、いい男になっちゃって、ビックリしたわ~」


と言った後に、私にだけ聞こえるような小さい声で「本当に良く化けたこと」とニヤリと笑う。


 テレサ先輩は私が女に変化したばかりの頃、ストレッチや筋トレに付き合ってくれた女性騎士で当時は見習いだった。

 今はちゃんとした騎士様になって、王妃様付きになったそうだ。


「テレサ先輩にお姫様抱っこされてた頃が懐かしいですね」


なんて言えば、


「あはは! そんなこともあったわね~」


と明るく返してくれる。


 テレサ先輩とクロエは顔見知りらしく、簡単な挨拶をしていた。


「それにしても、こんなに大人数でどうしたんです?」

「遠距離通話の東西の分は終わったが、南北の分と王都の裏山周辺はまだだっただろう? それで、今回は2人一組(ペア)で動けって団長命令なんだ」


 オレストさんがサラッと説明してくれるが、クエスチョンマークが私の頭の中に溢れている。

 んん????? つまり、どういうこと???




 ここで補足しておくと、王都は山にへばり付くようにして作られた街だ。

 王城は一番山側で王都の中で一番高いところにある。……と言っても、王都の中は緩やかな斜面になっている程度で、王城は山の麓に位置しているから、そんなに標高が高い場所というわけでもないのだが。




 とにかく、王城の裏山──と気軽に言っていいのかどうか分からない、けっこうな高さの山──が通話の障害となるのかどうか確かめないとならない。

 王都のある裏山の南側はそうでもないが、裏山の北や西側には急に谷になっている場所があり、険しい道が続くので2人一組で行動するのがいいだろう……と判断したそうだ。

 そこで今回は、最初に裏山の周りで通話実験をし、その後南北に別れて遠距離通話の実験をするということになったらしい。


 この国で南北の一番距離があるところは、王都の西側。その南北の真ん中は王都の南西にある草原だ。イメージ的には、この国の形は東側がとがった卵形になる。

 裏山の周りで実験した後、その草原に集合して、そこから南北に別れて実験するという段取りになった。


 それで実験のためのペアはどう分けるのかと問えば、


「ん? クロエとテレサが女性ペアで、フィリスは私とペアで問題ないだろう?」

「……それは裏山の周りで通話実験をするときだけですか?」

「いや。そのまま南北の実験も同じペアでかまわないと思うが」


と涼しい顔でオレストさん。


 ……え? いや、そりゃ一応、私とオレストさんで「男性ペア」ってことなんだろうけど、どうなのそれ!?

 そう思ってニクス様を見れば、うんうんと頷いている。……何故だ。


 いや、このペアで行動するとなれば、もちろん宿も一緒に泊まるってことで。そうなると、個室があればいいけど、混んでる宿なら同室ってこともあるわけで。下手すると大部屋で雑魚寝ってこともありうるんじゃないの!?

 私としては、同室になるならクロエかテレサ先輩が良いんだけど、今は見た目が男だからな~。

 それに決まったお相手がいるオレストさんが、女性とペアを組むのも拙いんだろうし……。


「はぁ~、仕方ありませんね」

「え? 何? 私とのペアでは不満なのか?」


 ため息をついて渋々了承した私に、オレストさんが拗ねたようだ。


「オレストさんと一緒だと(せわ)しない旅になりそうだなって思っただけで、別に嫌なワケではありませんよ?」

「……本当に?」

「えぇ。男同士、旅の間に旧交を温めましょうか」


 そう良いながら微笑めば、嬉しそうな顔で「ヨロシクな!」と背中をたたいてくる。

 振りちぎれんばかりのしっぽの幻影が見える気がする。……昔から思ってたけど、本当にわんこだよな、この人。




 ニクス様に組み上げた通話器や魔力を補充した魔石を渡した後、通話器などの荷物を積んだ馬車に乗り込み、みんなで王都まで移動した。

 その後、女性ペアは裏山の東側、私たちは裏山の西側に移動し、そこから時計回りに一定の間隔で通話の実験を試みることになった。


 女性ペアは2人とも馬に乗れる。貴族のたしなみってヤツだ。

 男になったときのために、お貴族様は小さい頃から乗馬なんかもやるからなぁ。私は平民なので乗馬の経験はないし、もちろん馬には乗れない。


「フィリスは私の馬に乗ればいい。山の周りは馬車では通れない場所もあるからな」


 オレストさんの言葉に目をむく。それは一緒に乗るって意味だろうか……?


「え、いや、私は馬に乗り慣れてませんし、馬にも負担が……」

「私がついているから大丈夫だよ」

「これは団長命令だ。フィリスはオレストの前に乗るように」


 オレストさんは一緒に乗る気満々だ。

 ってか、ニクス様が言い添えた「団長命令」って!!

 はいぃ!? 私は騎士団員じゃないんですけど!?


「それにフィリスは男にしては華奢な方だし、この馬は力持ちで持久力もある種類(タイプ)だから大丈夫」


 そこまで言われてしまうと、反対のしようがない。

 けど、けど、オレストさんの後ろとかじゃなくて前!? 抱きかかえられる感じになっちゃうじゃん! 恥ずかしい~。

 あ、でも、後ろに乗って、オレストさんにしがみついたら胸が当たってしまうかも……。一応、胸当てでぎゅっと押さえてはあるけど、女だってバレる可能性は否定できない。

 ……これは、男装がバレないようにっていう意味での「団長命令」なんだろうか???


「じゃあ、行こうか」


 オレストさんが先に馬に乗り、私を馬上へ引っ張り上げた。


 ぎゃー! オレストさんに抱きかかえられる感じって、私の心臓が持たない気がする~。

 助けてー! という気持ちでニクス様を見れば、にこやかに手を振っている……!?

 ニクス様、面白がってませんか!?


 私の内心の叫びをよそに、通話実験は始まったのだった。




 ☆ ☆ ☆




 ううううう……。

 背中にオレストさんの体温を感じる……。風向きによってはオレストさんの匂いも……。

 どうしよう。オレストさんに触れてる背中が、凄く熱い気がする。意識しすぎてるのかも。

 このドキドキしてる私の心臓の音に、どうかオレストさんが気づきませんように……。


「フィリス、緊張してる……?」


 え? 気づかれた!?


「フィリスが馬に乗り慣れないから緊張するのは分かるけど、大丈夫だよ?」


 あ、そっち? そうそう、このドキドキはオレストさんのせいじゃなくて、慣れない乗馬の所為……ってことにしておこう。


「……はい」


 緊張したまま、なんとか返事をする。

 本当ならオレストさんは私となんかじゃなく、指輪のお相手とこんな風に乗馬したいんだろうな~なんて考えて、キュッと胸が締め付けられるようだった。

 その考えが()ぎった途端、スーッと私の中の熱が冷め、少し冷静になったみたいで、心臓が落ち着いてくれて助かった。


 さて、地図によると、そろそろ最初のポイントに近づいたようだ。


 リリリリ リリリリ ……と通話器が鳴り始める。


「はい、もしもし。フィリスです」


 通話器のスイッチを入れて呼びかける。


『もしもし、クロエです。ポイントに着いたところです』

「こちらもそろそろポイントだから、今から実験開始と言うことで、次のポイントでまたお願い」

『はい、分かりました』


 そう言って通話を切り、次のポイントまで移動する。

 今度はポイントについて少し待つことになった。私たちの方が道が悪いだろうと、ちょっと気を遣ってくれたらしい。

 確かに3番目のポイントに着くまではすぐ横が崖という狭い道を通らなければいけなかったり、4番目のポイントに着くまでには谷底まで下りなければいけなかったり、その後も大変な道のりが続いた。それでも6番目のポイントを過ぎるとなだらかな地形が続くようになり、だいぶ楽に進めるようになった。


 なんとか最後のポイントまで辿り着き、次は南北の遠距離通話実験のために集合場所に向かう。


「フィリス、慣れない乗馬で疲れてないか?」

「少し……。でも大丈夫ですよ」


 途中で「休憩をとろうか?」と言われたけれど、私たちの現在地の方がクロエたちより集合場所から遠いので、先を急ぐことにする。

 案の定、クロエたちの方が集合場所に先に着いていた。


 集合場所にはニクス様もいたので、裏山周りの通話実験は滞りなく終わったことを告げる。

 やはり闇の魔法陣による転移は、ワープに近い進み方をするのだと推測した。


 ワープは空間をねじ曲げて、点と点をぐいっと強引に繋げちゃう技だからね。

 きっと途中に何があろうと大丈夫なんだろうな……と思った。




 この前の東西は片道6日だったけれど、今回の南北は片道5日だとのこと。

 前と同じように、それぞれ街道沿いに1日進んで、夜9時に通話実験をすることになった。ただし今日は時間がないので、王都近くの街まで行って、そこでそれぞれ休むことになるが。

 私たちは北へ、クロエたちは南へ進む。


 さぁ、ここからは正真正銘オレストさんと2人きり。宿屋でも2人きり。気合いを入れて、女だってバレないようにしなくっちゃ!




 ☆ ☆ ☆




 最初の宿泊場所は運良く()いていて、個室を2つとることができた。

 宿屋が混んでたら個室に簡易ベッドを持ち込んで、無理矢理2人部屋にされることもあるって聞いてたから、本当に空いてて良かった~と安堵した。割安な大部屋も宿によってはあるけれど、さすがに元王族のオレストさんにそれはどうかと思うし。

 まぁ、王室の騎士団御用達の宿屋ともなると、個室にシャワーくらいはついてて、お風呂の心配もないのが良い。

 それから、さすがに1日24時間中ずっと風魔法で声を低くしてるのはしんどいから、個室で寝るときくらいは魔法を解きたい。鍵をかけてしまえば、寝間着に着替えて薄着になっても安心ってものだ。


 乗馬で移動した初日は、お尻がヒリヒリしてとても痛かった。最近、弱い治癒魔法を覚えたので、軽く治癒しておく。明日は何か布でもお尻の下に敷かせてもらおう。


 2つめの街でも、3つめの街でも宿が空いていて、無事に個室に寝られて事無きを得た。




 ただ、旅の3日目は生憎の雨で、オレストさんの雨避けの外套に一緒に入れられてしまって、すっごいドキドキした。


「フィリスは男にしては華奢だから、すっぽり入ってしまうな」


なんてオレストさんが意地悪く笑う。

 あっ貴方は男同士で一緒に外套に(くる)まるのは平気なんですか!?


「フィリスは『親友』だし、何も問題ないと思うぞ?」


 ……そういう問題じゃない気がする。

 オレストさんの中で「親友」ってどの辺を指すのか分からなくなってしまった。

 女同士の親友なら、こういうシチュエーションもありだとは思うよ。まぁ間違いなく、私の考える「男同士の親友」と違うんだろうなってことは確かだな。

 オレストさんの中では、私は研究所時代の印象のまま「どっちつかず同士の関係」って感じなのかもしれない。

 うん。本当に恋愛以前の話だね。……まぁ、オレストさんには指輪の相手がいるから、当たり前のことだけど。




 4つめの街では2人部屋しか()いてなくて、ちょっとドキドキだったけど、オレストさんは疲れてたみたいで夜も早々に寝てしまった。これ幸いと起こさないように静かにシャワーを浴びたり、着替えたりしてバレずに済んだのはラッキーだった。

 ただ、翌朝になって起き出したオレストさんが「シャワーを浴びる」と言った後、全裸で部屋をうろうろしたので目のやり場に困ってしまった。腹筋が思ったより割れてるなって目に入ってしまうんだもん。慌ててイカンイカンと目を逸らした。

 オレストさん、男同士だから平気だって思ったんだろうな~。

 どっちつかず時代は一緒にお風呂に入った仲だもん、そうなるのも分かるけどさ~。


 なんか、本気で「親友」ポジションなんだな~って思ったら、心の奥底に封じ込めたはずの私の恋心が叩きのめされた気がした。




 通話実験は順調に進み、北の国境近くの街まで到着した。ここが最後の通話ポイントである。

 宿はちょっと混んでいて、2人部屋しか取れなかった。

 なんでも今、工場だか何だかの建設中らしく、宿を取る職人さんが増えているらしい。


「夕飯はどうする? 宿で食べてもいいが、酒場でこの街の名物料理を食べるのもいいぞ」

「そうですね、今夜の実験まで少し時間もありますし。でも、酒場で食べて、それから宿に移動となるとギリギリかなぁ……。その名物料理は、宿では出していないんですか?」


 まだまだ時間はあるけれど、万が一実験の時間に遅れると拙いので、宿で食べられるならその方がいいかと思って聞いてみた。


「あー、酒場の名物がこの街の名物になったらしくて、宿では出してなかったはずだ」

「そうなんですね。……それにしても詳しいですね?」


 オレストさんは、この街に来たことがあるんだろうか?


「北の砦へ視察に行ったとき、この辺りの領地に知り合いがいたから、一度寄ったことがあるんだ。……魔術学校時代の話だ」


 ええっと、それは今は疎遠になってしまった方……ということかな。


「ほら、前に研究所で砂糖をもらったことがあっただろう? あの知り合いだ」


 あぁ、やっぱり。

 魔術学校時代に取り巻きだった人たちは、どっちつかずになったオレストさんから離れていったと聞いた。

 そして男になった今でも、その頃の取り巻きだった人たちのことは信用できなくて、連絡を取っていないのだという。


「ここの領主の息子で、けっこう仲が良かったんだがな……」


 オレストさんが苦笑する。

 辛そうな表情(かお)ではない分だけ、今は少し吹っ切れたのかもしれない。


「とにかく、その名物料理を食べに行きましょう!」


 気持ちを切り替えるように、私はことさら明るい声を出してオレストさんに話しかける。


「そうだな。魔術学校時代は未成年だったから、当然酒場には入れなくて話だけだったんだ。今度こそ食べないと損だ!」


 オレストさんもニカッと笑って応じてくれた。

 領主様の息子さんなら、こんな街中の酒場まではわざわざ来ないだろうし、きっと遭遇することもないだろう。


 ……と思ったのだが。


「……殿下?」


 移動を始めたら、声をかける人がいた。


「え? ヒューレー? 髪の色が違うけど、ヒューレーだよね!?」


 私の方を見てそう言ったのは、明るい茶色の髪に琥珀色の瞳の男の人。


「あぁ、目の色はそのまま黒だ。やっぱり見間違いじゃなかった!」


 それは魔術学校の寮で同室だったクラウス先輩だった。





読んでいただきまして、ありがとうございます。

また明日、朝5時に更新いたします。

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