表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/49

32.異変

後半、恋愛要素がちょっぴり入ります。←やっとか!

 やっと通話器の試作品が完成した。

 大きさや形に少し不満はあったものの、これが今の私にできる精一杯だと思えば、完成した物も可愛く思えてくる。


 これが上手くいけば、ゆくゆくは家族との通話も可能になるかもしれない。

 どっちつかずで実家に帰ることもできない私だけど、祖母ちゃんや両親、兄弟の声が聞けたら、それだけでもうれしい。


 そのためにも、まずは実験だ。

 とりあえず、同じ物を3台作り、オルトさんとハルスさんと私の3人で、王都の東にあるという草原まで出かけた。太陽の日で、3人みんながお休みの日。

 昼食用のサンドイッチと果物などをバスケットに詰め、貸し馬車を借りて。御者はハルスさんとオルトさんが代わる代わる務めることになった。

 あと、出かける前に夕食の下ごしらえもしてきたから、少しくらい遅くなっても大丈夫。


 サンドイッチの具は2人のリクエスト通り、ゆで卵の刻んだのとキュウリで1種類、レタスとハムとチーズで1種類、レタスと照り焼きチキンで1種類。それから私の好きなイチゴの生クリーム和えはデザート的な感じで。

 果物も何種類か持ってきたし、お茶の準備もしてきたから、楽しいピクニックになりそうだ。

 ……実験もするけど。




 草原に着くと、ちょうど良さそうな木がぽつんとあったので、馬車から馬をはずして木に繋いで休ませた。小さい馬車だったから、馬は一頭。

 秋の空は晴れ上がって、澄み渡っていた。


「メランは馬の汗を拭いてやって」


 オルトさんがそう言って、馬車に積まれていた桶に水魔法で水を入れ、馬に飲ませ始める。

 私がおっかなびっくり布で馬の汗を拭いていると、ハルスさんが「こうやるんだよ」と言って、お手本を見せながら少し手伝ってくれた。


 お二人とも貴族のたしなみで、自分が乗る馬の世話くらいはしたことがあるのだという。

 ……やっぱりお貴族様はひと味違うぜ。


 今日はそれぞれが開発した魔道具を披露し合って、ちょっと実験をしようということになっていた。


 ハルスさんのは階段のある場所でないと意味がないので、後で研究所に戻ってから見せてもらうことになっている。


 オルトさんが「先にメランのが見たい」と言うので、私の通話器から披露することになった。


「ハルスさんのが10-1111で、オルトさんのが10-2222。私のが10-3333です」


 それぞれの通話器の番号と使い方を説明する。それぞれの通話器の番号は、数字のボタンの下に書いておいた。


「最初に横のハンドルを回して、この糸電話の先みたいなの、受話器と言うんですが、これを耳に当てて、番号を押して下さい」


 まず私がハルスさんの番号にかけてみせる。

 すると「リリリリ リリリリ ……」とハルスさんの通話器から音がして、2人はビックリした顔をする。


「受話器を持ち上げて、耳に当てて下さい」


 受話器を持ち上げると、自動的に魔石から魔力が経路に回るようになっているのだ。

 そして、私の方の通話器は、ハルスさんが受話器を持ち上げる──つまり繋がる──と、少しの間だけ「リリリリ」と音が鳴る。私の方の出力の魔法陣にハルスさんの番号が出たからだ。

 少しの間だけなのは、光に反応して顔料が集まって光が覆われてしまうから。風の魔方陣は出力の魔法陣の光に反応するように設定されているからね。


「もしもし」


 ハルスさんが受話器を当てたのを見計らって私がそう言うと、


「えー? 凄い! 耳元で声が聞こえる!」


とハルスさんは目を丸くした。


 私は受話器を下ろして、


「こんな感じで話ができるんですよ」


と説明して、実際に使わせて、使い方を確認してもらった。


「これが遠くでも繋がるかどうか、確かめたいんです」


と私が言うと、オルトさんは「よし、わかった!」と言って、面白がって遠くまで走って行った。

 ……わんこ体質だろうか?


 ハルスさんはオルトさんの様子を苦笑しながら見送り、自分も離れた場所に移動していった。


 さんざん実験して、だいぶ遠くまで大丈夫そうなことが分かった。

 とにかくオルトさんが面白がって、ハルスさんにも私にもかけまくった。「私のにもかけてよ!」とちょっと怒って通話器で言うのだけど、かける暇がないほど通話しまくってる人が何言ってるの! と思わずツッコんでしまった。


 だいぶ遠くまで……と言っても、今は目に見える範囲で草原の遠くの方というレベルだ。これが違う街ほど離れても大丈夫なのか、それはまだ分からないけど、王城内で連絡を取る分には充分だと言うことが分かったのでよしとする。


「これ、面白いね!」

「えぇ。これで実家の祖母ちゃんと話ができたらな~って思って作ったんですよ。……まだ、そんなに遠くまで繋がる物なのかは分からないですけど」

「うん。いつかこれがたくさん世に広まって、みんなが気軽に声を聞けるようになったらいいね」


 本当にそう思う。どんどん世に広まって、どんどん改良されて、私が作ったものよりもっと品質が良くてコンパクトな物ができれば、きっとそれは夢じゃなくなる。

 とにかく、これが採用されたらうれしいな……。


「じゃあ、次は私の番だね」


 オルトさんがそう言って、小さいバケツのようなものに、厚紙を円錐状に巻き付けた。即席のスピーカーだろうか?

 そのスピーカーから100mほど離れた場所に立って、オルトさんが説明してくれる。


「こっちに話しかけるとね、そっちから大きな声になって聞こえるはずなんだ」


 そう言って、自分が持っている小さなマイクのような物に「聞こえるか~?」と話しかけると、思いのほか大音量で即席スピーカーのような物から「聞こえるか~?」と聞こえた。


「!!」

「わ、ビックリした!」


 そう思ったのは人間だけではないようで、木に繋いでいた馬が驚いて竿立ちになった。

 しかも、繋ぎ方がゆるかったのか、竿立ちになった弾みで縄が木から外れてしまう。そして、物凄いスピードでオルトさんの方へ走ってきた。

 本当なら大きな音がしたところとは反対の方へ走り出すのだろうけど、生憎そちらには馬車があって、それを避けたためにオルトさんをめがけるような感じになったらしい。


 驚いた馬のスピードはかなりなもの。


 危ない!


 そう思ったときには体が動いていた。


「メラン! メラン! 大丈夫か!?」


 凄い衝撃があって、私は少し気を失っていたらしい。

 青い顔をしたオルトさんが、私を覗き込んで必死に声をかけていた。


「……だいじょ……ぶ」


 大丈夫ですよって普通にしゃべろうと思ったのに、背中が痛くて息が上手く吸えなくて、声もちゃんと出せなくて。

 でも、この天使様のようなキレイな人が無事で良かった……と思いながら、私は意識を手放した。




 ☆ ☆ ☆




 気がついたら、研究所の自室で、ベッドの上だった。

 いつもは仰向けに寝てるのに、どうして今日はうつぶせなんだろう……?


 不思議に思いながらも、のどが渇いたので起き上がろうとした。けど、背中が酷く痛んで、息が詰まった。痛みに体が固まる。あぁ、それに、なんだか熱を出したときのように体の節々が痛くて怠い。


 私はどうしたんだろう? 王都の外の草原で通話器の実験をして、オルトさんの即席スピーカーのような魔道具を見せてもらって……。


 あ、私は馬に蹴られるか何かしたんだっけ。


 そんなことを回らない頭でぼんやりと考えていたら、近くに人の気配がした。


「メラン! 気がついたのか!?」


 目線を声の方に送ると、オルトさんだった。

 あぁ、やっぱり無事だった。……よかった、オルトさんに怪我がなくて。


 そう思ってたら、うつぶせのまま、ぎゅーっと抱きしめられた。


「良かった……! 3日も高熱を出して、意識が戻らなくて、凄く心配した……!」


 心配かけちゃったんだ……と思った。けど、痛い痛い! ぎゅーっとし過ぎです、オルトさん!

 本人は肩に腕を回してを抱きしめようとしたみたい。でも、私がうつぶせてるから失敗したようで、背中、背中が……!


「……っ!」


 あまりの痛さに息を呑むと、オルトさんが「何処か痛むのか?」と言って、腕を緩めてくれた。

 たぶん背中を馬に蹴られるか何かしたんだと思うんですけど、非っ常~に痛い!

 それにしてもオルトさん、背中にのしかかるように抱きしめるなんて、背中に怪我をしたって本当に分かってるんですよね!?


「ごめん、怪我したんだから、痛いのは当たり前だよね。……お医者様(せんせい)を呼んでくる」


 少し回り出した脳内でいろいろ考えてたら、オルトさんはそう言って部屋を出て行った。……お水って訴える暇もなかったなぁ。




 オルトさんが呼んできたのは所長さんとお医者様らしき人だった。


「……お……み、ず」


 なんとか声が出て、途切れ途切れにそう言ったら、所長さんが吸い飲みで水を飲ませてくれた。


 水を飲んで一息つくと、お医者様が背中の様子を診て下さった。


「足は動かせますか? 動かしてみて下さい」


 言われた通り、両足を動かす。


「手は動きますか?」


 両手も動かしてみせる。


「どうやら背骨に損傷はないようなので、しばらく安静にしていれば治るでしょう」


 手足のあちこちを触られたけど、変な麻痺もなかったようで、ちゃんと触られてるって分かった。

 着ていた寝間着は、背中の様子が診やすいように、背中側が開くようになっている専用のもので、最後に先生がそうっと丁寧に閉じてくれた。


 あのとき、オルトさんがすぐに弱い治癒魔法で外側の怪我のある程度は治してくれたらしい。

 でも弱い治癒魔法では、外側の怪我も全部キレイに……とはいかず、それに体の内側のダメージまでは治しきれなかったそうだ。慌てて王城に戻ろうとしたけど、興奮した馬を連れ戻して宥めるのに手間取ってしまったらしい。それでも、できるだけ急いで王城に戻り、お医者様の手配をしてくれたんだって。

 怪我をしてから少し時間が経ち過ぎてしまったので、すっかりキレイに治ったとは言えないし大きなアザも残っている。それでも、表面的にはだいぶ良くなってはいるらしい。……体の内側の方は不明だったようで、さっきの動きや触診で、背骨や神経がおかしくなってないか確認したとのこと。


「本当は入院させたかったんですけど、オルトが『自分の所為だ』と言って貴方から離れないので、仕方なく研究所の方へお医者様に来ていただくことになってしまって……」


 所長さんが申し訳なさそうに言う。

 あぁ、オルトさんがいたら、落ち着いて休養とかできない感じがしますもんね、分かります。周りの患者さんに迷惑がかかりそうですもん。

 話題のオルトさんは部屋のどこかにいるらしく、恥ずかしそうなうめき声が聞こえた。

 うつぶせだから、視線が思うようにならない。


「貴方の新しい魔道具は受理しましたから、安心してゆっくり怪我を治して下さい。……オルト、怪我人に無理をさせてはいけませんよ!」


 そう言ってオルトさんを威嚇したらしい所長さんは、お医者様を連れて出て行った。


 オルトさんが近くによってきて、私が見やすい場所に来てくれたのだけど、なんだか叱られた犬のようにしゅんとしていた。ちょっと可愛い、なんて思ってしまった。……態度が分かりやすいというか。

 オルトさんは書き物机のところにあった椅子を持ってきて、私の枕元に座った。


「メランの目が覚めたって?」


 そう言って部屋に入ってきた人がいる。「お父様」の声。うつぶせなので、視界はあまり広くない。


「……うちの子を助けてくれてありがとう。でも、あんまり無茶はするなよ。助けられた方は、お前さんの意識が戻らない間、随分と気に病んでいたからな」


 そう言って苦笑する「お父様」から、「何か食べられそうか?」と聞かれたので、首をかすかに振る。あまりお腹は空いていない。


「そうか。……食べられそうになったらオルトに合図するといい」

「……あ、い」

「無理してしゃべらなくていいぞ。怪我で大変なことは分かっているから」


 ゆっくり休めと言って、「お父様」は出て行った。


「これなら食べられるかと思って……」


 そう言って「お父様」と入れ替わるように入ってきたのは、声からしてハルスさんかな?

 見える位置に来たハルスさんが手に持つ器には、すり下ろしたリンゴが入っているらしい。

 あ、それなら少しは口に入りそう。水分も含まれているから、うれしいかも。


「私の下の兄弟達が熱を出すと、よくこれを食べさせてたんだ」


 ハルスさんはオルトさんにすり下ろしリンゴの入った器とスプーンを渡す。私がオルトさんから1口食べさせてもらうのを見届けてから、静かに部屋を出て行った。


 うつぶせなので顔は少し横向きにしたけど、ちょっと食べづらい。でも起き上がることもできないし、リンゴをこぼしたら大変だな……と思って、顔をもう少し横向きにしようとしたとき、胸に痛みを感じた。


 え?


 頭が真っ白になる。この痛みには覚えがあるからだ。

 前世、小学校の高学年の頃に……。


 まさか。どうして、今ごろ。


 ……気のせいだよね?


 血の気が引く。確かめたいけれど、体は上手く動かない。


 なんで? どうして今、胸が膨らむときの、あの特有の痛みが来るの???


 この天使のような見た目のオルトさんが女の子になるならまだしも、どうして私が女に?


 誰か、気のせいだと言って。怪我の所為で胸の方まで痛いんだって、そう言って!


 確かに、どっちつかずじゃなく、ちゃんと大人になりたいって思ったけど、でも、今はどっちつかずのままでもいいと思っているのに。

 もし本当に女になったのなら、私はもう無属性ではなくなって、研究所(ここ)にはいられない。もう、ここのみんなと一緒にいられないんだ。


 私の脳内思考は止めどなく回転して、まだそうと決まったわけでもないのに、決まったような気になっている。


 もう、研究所にいられない……そう思ったら、涙が出てきた。


「メラン! どうした!? やっぱりまだ辛いのか?」


 オルトさんが慌てて私の顔を覗き込む。髪の毛を自分で括ったようで、何処かいびつだ。

 しばらく髪を結ってあげられないなぁ……なんて、とりとめもなく考えて、ふと、つい最近までこの人と一緒にお風呂に入ってたんだなって思ったら、顔からボッと火が出た。


「メランの顔が真っ赤だ! また熱が出たのか!?」


 どうしよう。

 オルトさんの顔が、まともに見られない……。

 うそ……、今まで平気だったのに。




 トリ・ヒューレー、16歳。

 今更ながら、女に変化した予感。





読んでいただきまして、ありがとうございます。

また明日、朝5時に更新いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ