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31.からくり

いつもありがとうございます(〃▽〃)


今回、機械や魔道具の仕組みの説明が多めです。

機械に関しては一応調べて書いてますが、なんちゃって設定のお話ですので、そんなものか~っていう雰囲気だけ伝われば良いかと思っております。

そういうわけで、なんとなく雰囲気で暈かして書いている部分があります。

すみません(>_<)

 この前の休日当番の時に依頼された修理品の中に、タイプライターが入っていた。


 魔法陣を使うタイプの物ではなかったため、本来は魔道具研究所で修理するべき物ではないのだけれど、あの日の午後、次から次へと持ってこられる依頼品のあまりの多さに、ついうっかり引き受けてしまったのだ。

 で、受付してしまった私の責任で、なんとかするようにと所長さんから言われた。


 あー、失敗したなぁ~。

 けど、何事も経験だ! ちゃんと調べて修理しよう。

 そう決心して、タイプライターの修理に取りかかったのだが、魔道具と違って機械物は機構が複雑だ。魔法陣を使わずにからくりだけで動くわけだから、自然とそうなってしまうのだろう。


 こういう機械物に強い人は誰かとハルスさんに尋ねたら、アントスさんだという。

 私はアントスさんに教えてもらって、タイプライターを修理することにした。


「タイプライターの故障は大概、同時に複数のキーを押してしまって、アームが絡んでしまっていることが多いんだ」


 そう言いながら、アントスさんはタイプライターを分解して説明してくれる。

 中を見れば、凄い数のアームが半円の放射状に並んでいて、見たところ、その中から飛び出した4~5本のアームが絡まって動かなくなっているようだった。


「このアームなんだけど、こっちのキーを押すと梃子の原理でこれが押し上げられ、それがここに伝わって引っ張り上げられ、さらにこちらが引っ張られて、このアームが押し出されるようになってる」


 タイプライターさんは、なかなか複雑な仕組みでいらっしゃる。


「それで、このキーの途中の部分にバネがついていて、これで押されたキーが元に戻るようになってて。で、元に戻るときの動きがここのところに伝わって、これがこう回転すると、次の文字を打つために、少しだけ紙が横にスライドするようになってるんだ。……このスライドさせるところを魔法陣で動かすタイプのタイプライターも出てるから、それで勘違いして持ち込まれたんだろうねぇ~」


 へぇ~! 縦の動きが横の動きに変わる仕組みなんて、とても興味深いし面白い。「機械物と言えばアントスさん」と言われるだけあって、アントスさんはとても詳しい。さすがです!


 実は、こういう魔法陣を必要としない機械物を作る工房というものが少なからず存在していて、大概はもう少し単純な機構の機械を作っている。ステープラーとか、ナンバリングのスタンプとかね。

 けど、中にはこんな複雑な物を開発するマニアックな工房があるんだそうだ。

 そこの工房の開発する物は、ちゃんと売れ筋もあるけど、だいたいは採算度外視の趣味的な感じのものだと言う。売れ筋以外は完全に道楽なんだろう。そこの工房主は、アントスさんとは魔術学校の寮で同室だったんだって。今でも交流があって、たま~に会いに行っては機械物や魔道具について熱く語り合っているとか。


 そんな話をしながら、タイプライターの複雑な機構をアントスさんに解説してもらって、なんとかアームの絡んだのを直し、私はやっとのことで修理を終えたのだった。




 ☆ ☆ ☆




 ある休日のこと。

 その日は朝から複合魔法陣の出力Cの方をいじっていた。

 その時は後で入力側の番号を入れようと思ってその場所を空白にしておいて。先に違うことをしていたら、すっかりそのことを忘れていた。

 作業を終えて、じゃあ確認……と思って入力Aの魔法陣から出力の魔法陣に繋げたら、空白の場所に入力Aの番号が光の文字となって現れた。


 え? 自動で番号が投影された……?


 見間違いかと思って、もう一回、今度は入力Bから繋げてみたら、やっぱり空白の場所に入力Bの番号が光の文字になって出てきた!


 この光の文字──番号だけど──に土魔法で特殊顔料の粉を集めればいいんじゃないか!?


 そこで、壁を修復するときの土の魔方陣と特殊顔料の粉を用意し、同じように実験すると、なんと光の文字の通りに顔料が集まって固まった!

 ……本当は固まらずに、また粉に戻って欲しいところだけど、そこはこれからの改良次第。


 一歩前進できたことに、大きな喜びを感じた。




 問題は、どうやって入力の魔法陣に繋げたい出力先の魔法陣の番号を入れるか……ということ。


 さっきみたいに自動で投影ってワケにはいかないし。

 番号を入力して、それを魔法陣に投影できればいいんだけど。それともダイアル式とか???


 ああでもない、こうでもない、と頭の中で考えをこねくり回す。

 番号をボタンでプッシュすることにしたとしても、それを魔法陣に上手く入れられるのか分からない。

 まさかタイプライターみたいに印字してしまうわけにはいかないし……。

 あ! 粘土のようなものにタイプライター式に数字をプッシュして、それを光の魔法陣で投影したらどうだろう? タイプライターの動きのように、複合魔法陣の同心円に沿った曲線になるように粘土を動かして。ハルスさんの光魔法のように、地面に書いた線が光の線になるくらいだもの、きっとできるに違いない!

 あとは通話が終わるか、通話のために番号を入力する前に、粘土を平らに(なら)すように定規かヘラのような物の下で回転させれば、また新しく番号を入力できるだろうし。そこは手動でもいいかもしれない。外側からハンドルのような物でクルッと回せば上手くいきそうな気がする。


 よし! とにかく自分が考えたからくりを形にしてみよう。




 ☆ ☆ ☆




 あれこれ試行錯誤して、まずは光の線に顔料を集める土の魔法陣の改良ができた。

 魔法陣上に集めた顔料の粉を固めないで、その場に留めておくだけの魔法だ。顔料は粉のままだから、これで違う番号にもかけることができる。


 それから、番号をプッシュして、一文字ごとに粘土板を動かすタイプライター式のからくりもできた。粘土は油粘土なので乾燥には強いと思う。

 ただ、プッシュした数字の活字? に粘土がくっついてこないようにする材質とかコーティングとか、そういったものが難しくて試行錯誤したけど……。様々なものを試して、耐水魔法も駆使して、最終的にはキレイに印字して、サラッと剥がれる感じにすることができた。

 まぁ、でも、粘土より適した素材があれば、将来的にはそれに変更するのが良いかもしれないと考える。とりあえずはこれでGOだ!


 粘土に押された数字を魔法陣に投影する光の魔法陣も上手くできたし、番号を打つための粘土を平らに均す為のハンドルのからくりもできた。


 次に、文字を転写する光の魔法陣を探して、それを応用した。

 出力の魔法陣に相手の番号が光ったら、その番号が入力の魔法陣に転写されるようにしたのだ。


 これで通話がかかってくると、出力の魔法陣にかけてきた先の番号が光って、その番号が入力の魔法陣に転写されて光る。そうすると、どちらの魔法陣の番号も光っているので、そこに顔料が集まることになるわけだ。

 同じ原理で、かけた方に相手先から出力の魔法陣に番号が出るので、そこでも顔料が集まって、双方で会話を成り立たせることができるようになった。


 ……う~ん、説明がややこしいかな?


 例えば、オルトさんがハルスさんに通話しようとした場合。


 1.オルトさんが番号を打つと、粘土に打ち出された数字が入力の魔法陣に投影される。

 2.土魔法によって、その投影された数字の光に特殊顔料が集まり、発信される。

 3.ハルスさんの通話器内で出力の魔法陣にオルトさんの番号が光って出てくる。

 4.ハルスさんが通話器に出ると魔力が流れ、土魔法が発動し特殊顔料が集まる。

 5.4と同時に3の番号をハルスさんの通話器内の入力の魔法陣に転写。

 6.土魔法でハルスさんの通話器内にある入力の魔法陣に特殊顔料が集まり、通話が始まる。

 7.オルトさんの通話器内にある出力の魔法陣に番号が光って出て来る。

 8.土魔法によって、オルトさんの出力の魔法陣にも特殊顔料が集まり、通話可能になる。


 こんな感じで、お互いの出力と入力の魔法陣に番号が出て、顔料の粉が集められるようになったけど、説明が複雑で人に伝えるのが難しいかも~。




 さぁこれで完成か!? と思ったけど、1つ落とし穴があった。


 失念していたけれど、相手からかかってきたときに、それが分からないと出られないじゃない?

 着信音が欲しいってことを忘れてた!


 慌てて、出力の魔法陣が光ったら音が鳴るように風の魔法陣を配置して、これで問題はないはず。きっと、たぶん……。

 かかってきた側も、かけた側も、出力の魔法陣の数字部分が光る瞬間がある。だから、そのときに音が出てかかってきたことや繋がったことが分かるはず。

 魔石も配置して、出力の魔法陣と音が鳴る風の魔方陣は経路を別にした。かかってきたときに動かないと困るからね。




 そうやってできた通話器は、前世のダイアル式固定電話くらいの大きさになりそうだったので、最終的に出力と入力の複合魔法陣2つを通話器本体に内蔵させ、受話器の耳に当てる部分を独立させることにした。耳に当てる部分には風の魔方陣で本体の複合魔法陣から声を運ぶようにしたのだ。

 口に当てる部分は本体にくっついているので、あれだ、前世で見た某アニメの女の子が近所の家で大黒柱にくっついている電話を借りるシーンがあるけど、あの電話に近い感じになった。


 つまり、私は初期の電話を開発した感じ……なのかもしれない。




 さて、あとはこれで上手くいくかどうかが肝心だ。

 近いところだけじゃなく、だいぶ遠くの場所でも通話可能かどうか、実験の必要がある。もちろん、これは試作品だからね。


 うーん。それにしても、携帯電話くらいのものができれば……と思ったけど、私の今の技術ではこれが精一杯。今後、これをコンパクトにしてくれる人が出てきてくれることを期待しよう。




 気がつけば、いつの間にか季節は9月下旬。

 開発に没頭して、試行錯誤していた日々が走馬燈のように()ぎる。

 感慨深く思いつつ、試作品が完成した翌日の夕食時に、私の開発した魔道具の実験をしたい旨をハルスさんとオルトさんに伝えた。


 その日の夕飯は鮭の親子丼。はらこ飯とも言うのかな?

 王都の川にも鮭がのぼってきたの! 生筋子も手に入ったから、ぬるま湯で洗いながらほぐして、醤油や酒などに漬ける。イクラの醤油漬けだ。

 イクラは10月に入るとちょっと粒の皮が固い感じになっちゃう気がして、9月中に漬けたかったのよね~。間に合って良かった。

 鮭は塩を振って臭みをとってから、グリルで焼いた。焼いた鮭はほぐして、イクラと一緒に炊きたてご飯の上にのせれば、鮭の親子丼の完成~!

 味噌汁はキノコと野菜たっぷりにして。サラダ代わりの小鉢は、ナメコと大根おろしの和え物。デザートは梨8等分を2切れ。


 みんなスプーンで食べてたけど、私とオルトさんとハルスさんはお箸で堪能。

 ハルスさんもだいぶお箸が上手になりました。


 やっぱり鮭の親子丼、最高だわ!

 この国の人はあまりイクラを食べないんだって。もったいない。


「この赤いツブツブは魚の卵なのか?」


 あ、やっぱり「お父様」出現。ニクス様もいる。うん。ある程度は予想してたよ……。


「なかなか面白い食感で、美味いな」


 レシピ、要ります? あ、要るんですね、そうですか。

 でも、生筋子のほぐし方は実地の必要があるかも。……と言うわけで、今度またニクス様が習いに来るって話を取り付けて、食事を完食した「お父様」とニクス様は帰って行かれました。




 あ、また話が逸れちゃった。

 実験の話だったわー。




「実験なんですが、遠くでも繋がるのか試したいので、広い草原のようなところがいいかと思ってます」

「それなら、王都の東側に草原が広がる場所があったはずだよ」

「あぁ、あそこなら馬で小一時間も走れば……」

「私、馬に乗れません……」


 オルトさんとハルスさんは、貴族のたしなみ(男になったときのため)として、乗馬のご経験がおありだそうで。

 平民の私にはそんな経験はないので、じゃあ小さい貸し馬車を借りて出かけようという話になった。


「お弁当を作って持って行きましょう」

「ピクニックのようだね」

「私の魔道具ももうすぐ完成というところまで来てるから、その日に間に合えば披露したいなぁ」

「良いですね。楽しみです。サンドイッチを何種類か作りますね。具材のリクエストはありますか?」

「再来週の太陽の日は3人とも休みだったと思うから、その日にしようか。サンドイッチはゆで卵の刻んだのが入ってるとうれしいな」

「再来週なら間に合うかもしれない。……私はハムとレタスとチーズがいい! 鶏の照り焼きも好きだ」


 ワイワイと賑やかに予定を話し合う。

 楽しみが未来(さき)に待ってるって良いなぁ。


 こんな風に、穏やかで楽しい時間が好きだな……と思った。

 男でも女でもない、どっちつかずの無属性だけど、こんな風に仲間がいて、何の変哲もない毎日が過ぎていくのが楽しい。

 幸せって、こういうことを言うのかな、と考えた。


 まだちょっぴり、どっちつかずでいることに悔しさや悲しさを覚えることもあるけれど、それでも、ここの仲間達と、この穏やかな日々があるのなら、どっちつかずのままでもいいと、今は素直に思えた。





読んでいただきまして、ありがとうございます。

また明日、朝5時に更新いたします。

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