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30.休日当番

 久しぶりに太陽の日の当番が回ってきた。

 太陽の日は休日だけど、急ぎの修理依頼が入ることがあるため、研究所は完全な休みにはならない。休日の当番は基本的に2人で一組。

 まぁ、26人の所員がいて、2人で一組なんだから、単純計算で13週に1回の割合なワケだが。所長さんとご隠居様は免除されているらしいので、12週で1回の割合になる。

 ……あれ? ここって「副所長」さんって、いるのかな? ここに勤め始めて数ヶ月、今更の疑問に自分でもビックリしている。まぁ、今まで知らなくても支障なかったし、放置してもいい問題だな。


 さて、当番が1人だけだとトイレで席を外すとか、修理に必要なものを取りに行くとかして、研究所の作業場内に誰もいなくなることがあるので、それを避けるための2人一組。

 で、今日はソールさんと一緒の当番だ。


 ソールさんはいつもフードを目深に被っている人。だけど、下半身がすごく派手なので、とても分かりやすい。今日は赤の地に黄色とオレンジと緑の線が入ったチェック柄のベルボトムだ。じっと見ていると目がちかちかする。この前は青の地に色とりどりの花が散らばるカラフルなレギンスっぽい下衣だった。

 上半身は灰色ローブで地味なのになぁ……。つい派手さに負けて下半身を見ちゃうけど、目がちかちかして落ち着かないから見ないようにしないと! ……見たら負けだ。


 でもたぶん、ソールさんが普通の下衣を身につけて他の所員さんに紛れてたら、きっと見分けがつかないと思う……。


 ソ-ルさんと2人とは言っても、本日も勝手に作業場で作業しちゃってる人がいるんで、完全に2人きりってことはない。

 今日もポタモスさんやリムネーさん、他にも何人か出入りしていた。今日が休みだからって、徹夜で作業してこれから寝るって人もいたし。

 ホント、みんな魔道具とか魔法陣とかいじるの好きよね~。私も他人(ひと)のことは言えないけど。




 ところで前の当番の時はかーなーり暇だったのに、今日はなんだか忙しい。

 暇だったら、複合魔法陣に取りかかりたかったのに……。

 仕方ない。こういう日もあるさ、と思うことにした。


「これ、突然スイッチが入らなくなったんだって」

「こっちは冷風が出なくなったらしい。8月も終わりとは言え、まだまだ暑いから急いで欲しいんだと」

「そっちの大物は、氷屋の製氷機だって。今が商売の書き入れ時だから、すぐに直して欲しいってさ」


 次から次へと衛兵さんが現れて、どんどん魔道具が持ち込まれる。


 運んできてくれた衛兵さんに冷たい飲み物を出して労いつつ、壊れた状況などが書かれたメモを見て確認する。

 持ち込まれたのはスチームアイロンと冷風機に製氷機。


 スチームアイロンはおいといて、冷風機と製氷機は「至急!」の赤文字がメモに付けられているので、そちらから手をつけることにする。


「私が冷風機を担当するよ」


 ソールさんがそう言って下さったので、私は製氷機を担当することになった。


「……あ~、なんか修理するものない? 休日は暇で暇で仕方ないよ~」


 そう言ったのはアントスさん。研究所の中で一番背が高い。


「スチームアイロンなら……」

「おっ、貸して貸して!」


 嬉々として修理を請け負うアントスさんだが、この人もフードを目深に被ってるので、全然顔を見たことがない。棚の一番上まで手が届くくらい背が高いから、それでアントスさんだって分かるだけ。あと、顎の形……? 下から見上げると、フードを目深に被ってても、ちょっと割れた顎が見えちゃうの。特徴的な顎だなっていつも思う。


「じゃ、お願いします」


 スチームアイロンをアントスさんに渡し、私は製氷機の修理作業に入った。


 製氷機は強い水魔法で水を凍らせる魔道具。高級なものになると、水を生み出す魔法陣も組み込まれていて、水を入れなくても氷ができる便利なものになる。一般的には汲んできた水を製氷機に入れて凍らせるものだけど。


 分解してみると、製氷皿──皿と言うには深すぎるし大きい直方体だが──と言うべき金属部分の外側に書かれた水の魔法陣がボロボロになっていた。氷を作ったときについた霜が魔法陣の特殊顔料を少しずつ浸食していった結果らしい。

 何かおかしいと感じて研究所に保管されていた設計図を調べると、本来、製氷機の魔法陣は製氷皿部分ではなく、その外側を覆うカバー部分に書かれているべきものらしい。……少しでも霜の影響を減らすための措置だったと思われるのだが、誰かが間違って作ってしまったのだろう。型番から言っても、この設計図で間違いないのだから、どこかの職人さんがうっかりやっちまったってことなんだろうと推測した。……そういうの多すぎで脱力するよ、ホント。


 私はカバー部分の内側に魔法陣を書き、魔石から伸びる経路をつなぎ直した。……今は魔石は抜いてあるけど。

 薄い直方体のカバーはなんというか、羊羹を薄切りにしたような感じ。広い面2枚と細長い面2枚、それともっと細長い底面1枚でできている。側面の広い面には2つずつ、側面の細長い面に1つずつ、底面に1つで、合計7つの魔法陣を書いたから、ちょっと手間取ってしまったな……。

 経路を繋いでから、自分の魔力を流して無事に全部の魔法陣が起動することを確認。さらに組み立ててから、簡単な水魔法で生み出した水を製氷機に入れ、一応もう一度魔法陣を起動させ水を凍らせてみる。ちゃんと凍ることを確認し、氷を取り出した。

 取り出した氷は大きなタライに入れた。ひんやりした空気が辺りに漂うような気がする。

 衛兵さんが来たときに涼がとれるよう、氷の塊は受付の横に置いておこう。

 それから、製氷機を衛兵さんが持って行きやすい場所に運んで内部を乾かしつつ、修理記録を書いた。


 私が修理記録から顔を上げると、ソールさんは冷風機の修理を終えたところらしく、修理記録を書いているところだった。アントスさんは既に修理を終えて記録も書いてしまったらしく、自分の作業場所で何かの魔道具をいじっていた。


「ソールさん、それを書いたらお昼に行ってきて下さい」

「いや、良いんだ。メランは早めの昼食をとっておいでよ。私はまだお腹が空いてないから」

「えっ、でも……」

「たぶん、午後も修理が立て込みそうな気がするんだよね~。特に私が当番の太陽の日はそう(・・)だから」


 あー、ソールさんってお客を呼んじゃう体質とか、そういう感じの人ですか???

 とにかく忙しいことは確かだから、早めにお昼を食べて、午後に備えろと。


「……じゃあ、お言葉に甘えます」


 私は急いで朝の残りの野菜スープとパンで昼食をとり、ソールさんが一息つけるように冷たい飲み物を持って作業場に戻った。


「ソールさん、お昼お先でした~。冷たい飲み物、どうぞ」

「ありがとう。冷房が効いてるけど、やっぱり冷たい飲み物はうれしいね」

「あー、ソール、いいなぁ。メラン、私にはないの?」


 どっちつかずで無属性な人は体が小さいので、冷えすぎないように冷房は弱く設定されている。

 冷たい飲み物に反応したアントスさんが甘えたことを言ってくるので、「今日は当番のペアだけ対応でーす」と返事した。


「あ、でもさっき、オルトさんがアイスクリームを作ったって言ってたんで、上手くいけばありつけるかもしれませんよ」


と教えたら、それは良いことを聞いた~と食堂へスキップしていった。


「ソールさんもお昼どうぞ」

「うん、これを飲んだら食べてくるよ」


 なんて言ってる間に、また衛兵さんが現れ、次の依頼品が来た。


「あ、私がやっておきますから、ソールさんは先にお昼食べちゃって下さい」

「ごめんね。じゃあ、頼むね」


 ソールさんは申し訳なさそうに作業場を出て行った。


「この氷、良いね~。見た目も涼やか」


 受付の横に置いた氷が衛兵さんに好評なようです。

 衛兵さん達は体も大きいし、ここの冷房じゃ物足りないだろうからね。


「さっき修理した製氷機の試運転で作った氷なんですよ」

「そうか、なかなか気が利いてるな。涼しくてホッとするよ。……ところで、今日は忙しいだろ?」

「えぇ。太陽の日にしては珍しいですよね~」

「けど、あの派手なズボンの人が当番の時は、けっこう修理依頼が多いんだよ」

「へぇ~、そうなんですか」

「うん。太陽の日なのに珍しいな……って思うと、いっつもあの派手なズボンの人がいるんだ」

「フフフッ、面白いですね」

「まあな、名前が『お天道様(ソール)』ってだけはあるよな? 太陽の日だけに」


 おっちゃんが自分の言葉に上手いこと言っただろって感じで「ガッハッハ!」と笑った。


 そんな風に衛兵のおっちゃんと他愛もない話をしてから、修理依頼の話に移る。魔道具が故障した状況とか、そういったものが書かれたメモを見つつ確認。

 メモには書かれていないけど、依頼主が衛兵さんに言った言葉なんかを拾い出す。小さいことだけど、それが重要なポイントになることだってあるのだ。


「なんでも家の古い倉庫の奥から出てきたもので、古いせいだか何だか分からないけど、スイッチを入れても音が出ないらしい」


 それはオルガン。たぶん、風の魔方陣が効かなくなっているか、音を出す『笛』の部分に埃が詰まってしまって音が出なくなっているのだろう。


「メランー! 私1人で作ったアイスクリームだ! 味見して!」


 そこへ空気を読まない声が響く。

 ……オルトさんったら!


「おう、おっちゃんの分はないのかい?」

「あ、え? ……メランの分、今持ってくるから。お先にどうぞ!」


 にやにやしている衛兵のおっちゃんに言われて、オルトさんはやっと私が受付中だったことに気がついたようだ。慌ててアイスクリームの器とスプーンをおっちゃんに渡すと、私の分を取りに厨房へ走って行った。


「へぇ~、こりゃ冷たくて美味いな」

「すみません、落ち着きがなくて……」

「いやいや、いいさ。こんな美味いもんが食べられるんならな。この前のクッキーも美味かったし。……ご馳走さん。あの子にも美味かったって伝えといてくれ」

「あ、はい」


 おっちゃんはアイスクリームを堪能して戻っていった。


「メランー! お待たせ!」


 新しく盛りつけたアイスクリームを持ってきたオルトさんに、おっちゃんが美味しかったと言ってたことを伝えて、私もアイスクリームに手をつけた。

 オルトさんが1人で作ったアイスクリームは上出来で、本当に美味しかった。泡立て方が上手なのかもしれないと思う。アイスクリームは空気の入り加減が味を左右するから。

 私の感想を聞いて満足したオルトさんは、うれしそうに去っていった。それと入れ替わるようにソールさんが戻ってきた。


「オルガンが持ち込まれたんですけど、古い倉庫に長年置かれていたそうなんです」

「じゃあきっと、魔法陣がかすれてしまってるか、『笛』に埃か何かが詰まってるんだろうね」


 やっぱりソールさんも同じ見立てだった。そのことが何だかうれしい。少しは一人前に近づいているだろうか。


 オルガンを分解してみたら、やっぱり音を鳴らす「笛」に何かが詰まってた。虫が幼虫のゆりかごか巣にするために土を詰めたのかもしれない。

 笛の一つ一つをキレイに洗浄したいけれど、下手に濡らして音が狂ってもいけない。土魔法で固まった土を崩し、風魔法で吹き飛ばす。それから全体的に埃っぽかったのでよく拭いてキレイにした。見違えるようにきれいになったオルガンは、魔法陣も古くなっていたので書き直して完了。

 自分の魔力を流してみたら、ちゃんと音が出てうれしくなった。


 その後も次々と修理依頼が舞い込んで、いくつかの修理品は翌日以降に持ち越すこととなった。

 本当に、てんてこ舞いの休日当番だった。




 その日の夕飯は、なんちゃってタンドリーチキン、ショートパスタ入りの野菜たっぷりミネストローネ、サラダは大根とレタスとひよこ豆に角切りチーズ、デザートはオルトさん作のアイスクリーム! 主食が物足りない人のために、バゲットも少しだけ用意している。


 なんちゃってタンドリーチキンは、朝のうちからヨーグルトにつけ込んでおいた鶏もも肉にカレーの基本スパイスと塩こしょうをすり込んで、小麦粉を薄くはたいてオーブンで焼いただけ。

 ミネストローネはトマトベースにいろんな野菜とベーコンを細かく切って煮込み、ショートパスタを入れてある。


 休日当番が忙しすぎてけっこう時間がかかっちゃったから、今日はオルトさんがほとんど料理してくれていた。

 私はレタスを千切って大根とチーズを切っただけ~。

 ホント、オルトさんってば頼もしく育ったもんだ。私の中のおばちゃんが感動してるよ。


 たくさんお世話になってるな~と感じて、まだまだ先のことだけど、冬至祭にはオルトさんやハルスさん、研究所のみなさんに何かプレゼントしたいな~、なんて思いが頭をかすめる。

 冬至祭には、その年にお世話になった人にプレゼントする習わしがあるから、今から何か考えておこうかな、と思った。





読んでいただきまして、ありがとうございます。

また明日、朝5時に更新いたします。


補足:魔道具研究所のローブはずるずる引きずるほどには長くなく、パーカーの丈が少し長くなった程度のものを想定しています。物が多い研究所内では、あまり長いものを着ると物を引っかけてしまって危ないから、ご隠居様が短めに作らせるようになったのが始まりとか。

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