23.黒歴史の予感
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7月に入った頃のこと。
久しぶりにハルスさんとオルトさんと私の3人で王城の食堂へ昼食に行き、お貴族様から蔑みの視線やお言葉をちょっぴりいただきつつ、食堂のおばちゃん達の笑顔に癒やされた。やっぱり、たまにはおばちゃん達に会わないとね。
「久しぶり! 元気だったかい?」
「えぇ。おばちゃん達もお元気そうで」
「あんた達の顔を見られたから、今日は余計に元気になったよ!」
おばちゃんがそう言って、ちょっとだけ大盛りにしてくれた昼の日替わり定食は、なんでかカレーライス。
「あぁ、それ、見慣れない料理だろ? 国王様がどこかから教えてもらったそうで、ものすごく気に入ったから、城でも出せって料理人が覚えさせられたみたいでね。騎士様方や侍従さん達、侍女さん達にも好評なんだよ」
はぁ、国王様が……。オルトさんの「お父様」から教わったのかな? 国王様とそんなお話ができるなんて、「お父様」って本当に身分の高い上級貴族なんだね~。
話が曇の上過ぎて、私のような平民には想像がつかない……。
食堂のおばちゃんのお言葉に驚きつつ、カレーライスを食す。
「私はメランが作ったものの方が好きかな」
「これは辛味をおさえてるんだね」
オルトさんは私の味がインプットされちゃってるからな~。ハルスさんは辛い方がお好みですか。
「私は、これもまろやかで好きですよ~」
前世、部活の合宿所で食べたカレーがものすごくまろやかで、辛さをどこかに忘れてきたような味だった。まぁ、あそこのカレーは大鍋にベロンっと昆布が泳いで出汁を出しまくってるヤツだったからなぁ~。あのカレーの中を泳ぐ昆布のインパクトはなかなかのものがあったよ。大鍋を横断する昆布だからねぇ。……うん。私は、そういう旨味がきいたのも嫌いじゃない。
「美味しかったです! また来ますね~」
「待ってるよ!」
おばちゃん達に挨拶して、私たちは研究所に戻った。
研究所に戻る道すがら、ハルスさんとオルトさんに少し実験に付き合って欲しいとお願いした。
2人が快諾してくれたので、準備ができたら声かけますねと言ったところで研究所に着いた。
昨日までにあれこれ試行錯誤して、対になる「風と闇の複合魔法陣」を書いてみた。入力の魔法陣と出力の魔法陣を対にする方法が分かってきたから、それで正しいのか確かめたい。
参考になる転移魔法陣を解析した結果、私が考えた方法は次の通り。
まずそれぞれの魔法陣に番号を割り振って、その番号を魔法陣の真ん中に書く。あとは、入力の魔法陣に出力先の番号を同心円の指定の場所に書けば、もうその番号にしか繋がらない……はず。
あ、補足しておくと、魔法陣はいくつかの同心円でできていて、単純で規模が小さい魔法ほど同心円の数は少なくなる。大規模で複雑な魔法の魔方陣は同心円の数も何重にもなって、凄く大きくなるのだ。
出力の魔法陣の方は、そういう指定の番号を書く場所がないようだった。真ん中に自身の番号を書くのは同じなんだけど……。そんな状態で、どの入力の魔法陣から来ても繋がるものなのか、その辺もちゃんと実験したい。
私が試しに書いた対になる複合魔法陣を、ハルスさんと2人で実験してみた。オルトさんは作業が立て込んでて、ちょっと手が離せないって状態だったから。
用意した魔法陣は入力A:番号は1111、入力B:番号は1112、出力C:番号は2222。
入力Aも入力Bも出力先の指定は出力Cの番号を書き込んだ。
私が入力Aに話してハルスさんが出力Cで聞く。魔法陣を交換して、ハルスさんが入力Aで話して私が出力Cで聞く。
それから、ハルスさんが入力Bで話して私が聞く。魔法陣を交換して、私が入力Bで話してハルスさんが聞く……をやった。
うん。これは完璧。
距離が近くても遠くても、壁で隔てられてても、どっちの入力の魔法陣からでも、ちゃんと出力の魔法陣に声が届いてる。
ハルスさんに「ご協力ありがとうございました~」とお礼を言って、それぞれの定位置に戻る。
作業場には自分の作業台とでも言うべき場所があるのだ。
さて、問題はどうやって通話したい番号の出力先に繋げるようにするか。
入力先の魔法陣に出力先の番号を書き込む場所はあるけど、そこに番号を書いちゃったら、その番号にしか繋がらなくなってしまう。
理想は、通話したいときにそこに番号を入力して、通話が終わったらその番号を消せる……ってことなんだけど。
通話器の外側に魔法陣を配置して、そこに番号を書いてもらって、終わったら消してもらう??? いちいちそれって大変じゃね? 消せるようにするって、何でその番号を書けば良い? あと、字が下手な人だったら、番号を認識しないって心配もあるんじゃね?
……考え始めると、問題は次から次へと湧いて出てくる。
難題だな~と頭を痛めつつ、時間になったので夕食準備に向かった。
その日の夕食はミートローフ、温野菜、コーンスープ、主食はパンで、デザート代わりの果物はプルーンだった。
ミートローフはみじん切りにした野菜をひき肉に混ぜて、オーブンでじっくり焼いた。ついでにキノコも一緒に焼いてみた。ミートローフは厚めに切って1人当たり2切れを皿に盛り、横にキノコを添えトマトソースをかける。トマトソースはたまに休日になると大量に作り置きしているもの。
温野菜は旬の野菜を蒸して、自家製のなんちゃってポン酢(醤油に柑橘の絞り汁を入れただけ)でいただく。暑いからポン酢はさっぱりして口当たりが良かった。
トウモロコシが出始めたので、コーンスープに挑戦。
コーンスープなんて前世の高校の調理実習以来だから、ちょっと自信なかったけど、なかなか上手くできたと思う。前世ではコーンスープなんて、たまにインスタントか、ちょっと良いお店が出してる缶とかレトルトをいただいたときに食べるくらいだったんだもん。
そういえばこっちの世界の学校って、調理実習とかないな~。平民だとお手伝いが普通のことだから必要ないんだろうな~。
お貴族様は使用人がやってくれるんだろうし。……下級貴族はその限りじゃないけど。
上級貴族も少しは簡単な料理くらい覚えたら良いのに。そうすればどっちつかずな研究所の所員さん達が、栄養不足で困ったことになるとかなかったのにな~。……あ、調理実習しても、オルトさんが何もさせてもらえなかったみたいに、周囲が刃物を取り上げるとかしてたら意味ないよな~。
とりとめもなく私の脳内思考がただただ流れていく。
閑話休題。
私はミートローフとコーンスープを担当し、オルトさんにはプルーンを洗うのと、なんちゃってポン酢(主に柑橘を搾る)と温野菜を全面的にお任せした。
そうそう、オルトさんの髪の毛は当たり前だけど前より伸びて、一度ツインテールにする必要はなくなり、ちゃんとハーフアップができるくらいになった。それと、首の後ろが暑いから……と項のところでも髪の毛を括っている。
え? まだ私が毎朝結ってあげてますけど、何か?
仕方ないんだよー。髪ゴムがないから、括り紐じゃ一人では結べないみたいなんだもん。
もっと髪の毛が伸びて、三つ編みで2本か1本にまとまるようになれば、体の前の方に持ってきて括れるんだから、そうしたら自力で何とかしてもらうよー。
それはさておき、もっと暑くなったら、さっぱりしたメニューがもう少し欲しいよね。ツナ缶があればな~、大根をせん切りにしてシソと一緒に大根サラダにするのにな~。夏はシソ風味がさっぱりして好きなのよね~。そういえば、海の魚って王都には入ってこないのかな~内陸だしな~なんて、とりとめもなく考える。
「メランのおかげでキノコとか野菜とか、よく食べるようになったよね~」
「オルトも良くやってくれてるよ」
「最近、食事のおかげか体調が良い気がする」
「そうそう、なんだか目の見え方も良いんだよ」
「そういえば、前は夕方に薄暗くなると『ものがよく見えない』って言ってたけど、そう言うこともなくなったね~」
「私も! それに最近、ものがよく見えるんだ」
食事を食べながらの所員さん達の会話が聞こえる。
うん。お役に立てて良かったです。
前世の友人は、毎日ニンジンスティック食べて視力が上がったって言ってたから、緑黄色野菜は舐めちゃいけないと思っている。
「そういえば、オルトさんは開発の方は順調ですか? 私は行き詰まってるんですよね~」
「私も行き詰まってるよ。……でも、メランは今日、考えたアイディアを実験してたんじゃなかった?」
「そうなんですけど、次から次へと問題が出てきてしまって……」
「オルトはどんなのを考えてるの?」
ハルスさんが会話に加わる。
若手3人衆って感じの私たちは、けっこう近くに座って食事をすることが多い。……他の所員さんが所長さんとご隠居様に遠慮して遠巻きにするから、結局私たち若手が空いてる所長さんやご隠居様の近くの席に座ることになるってのは余談です。
「ハルスさんのも教えて下さいね」
「もちろん、いいよ」
「私はハルスさんと実験した複合魔法陣で、糸のない糸電話みたいなのを考えてます」
「……糸電話、あぁ、小さい頃作ったことがあるよ。なるほどね」
ハルスさんは私と実験した複合魔法陣に思い至ったらしく、深く頷いていた。そして「オルトは?」と話を振る。
「私は火事や洪水など、人々に危険を知らせて『どこに逃げろ』と言うようなことが広く伝えられる魔道具を考えている」
「……それはメランと同「オルトッ! お前がそんなことを考えるようになるとは!! お父様はうれしいっ!!!」」
ハルスさんが話している途中で、割り込んだ声はけっこうな声量だった。
また例のあの人が来たんですね……。
いや、いいんですよ? 料理は余分に作ってますから。
「お父様の仕事の助けになれば……と思ってくれたのだろう!?」
……えーっと、感極まっている「お父様」とは対照的に、オルトさんはとても冷ややかだ。
うん、たぶん「お父様」のためじゃなくて、純粋に領民とか国民のことを考えての発想だと思う。
「それにしても、今日はあまり珍しいものは食べられなかったが、オルトのそういう発言が聞けて良かった。来た甲斐は充分にあったな。……ところで、このソースは暑い時期にさっぱりして良いものだな」
すみませんねぇ、いつでも珍しいものばっかり作ってるわけじゃないんですよ~。
あ、なんちゃってポン酢がお気に召しましたか。そうですか。
「父上、本日のご用件は?」
「あぁ、そうだ。オルトの発言に感激して忘れていたよ。……コホン。実は妹のところのペンタ(第5子)が最終学年なんだが、来年は研究所に世話になりそうでな。夏の休暇中に、見学も兼ねて研究所にしばらく滞在したいというのだ」
「……叔母上のところのペンタと言うと、海ですか?」
「そうだ。……まぁ、9割方はお前に会いたいということなんだろうが。よろしく頼む」
そう言うと、ものすごい早さで食事を平らげた「お父様」は、強面騎士様──ニクス様──を連れて颯爽と去って行った。「お父様」、あまり早食いすると体に良くないですよ~。
あ、そうそう。先日の太陽の日、無事にニクス様にアイスクリームを伝授できました。
アイスクリームを冷やしている間、ちょっと手持ち無沙汰だったんで、クッキー・キャラメル・プリンなどもついでに伝授しちゃいましたよ。
甘党なニクス様は真剣に取り組み、しっかり覚えて行かれました。途中、コツや注意事項をメモする様子にニクス様の本気っぷりを垣間見ました。カレーのレシピなんかよりも、ものすごい食いついてたし……。
そして甘味の試食タイムは終始にこやかでした。えぇ、はい、もう、すごく良い笑顔でしたよ。
それはさておき。
オルトさんのいとこさんが来るんだね。
……っていうか、最終学年ってことは、まだ14歳か15歳でしょ? 卒業までに変化する可能性だってあるんだし、何もわざわざ研究所に見学に来なくてもいいと思うんだけど。
見学に来ておいて、卒業までに変化しちゃったら黒歴史になりそうな予感だってあるよね~。いやホント、早まるなーッ! と言いたい。できることなら、強く言ってあげたい。知り合いじゃないから無理だけど。
そういえばオルトさんに会いたいようだって「お父様」がチラッと言ってたな。いとこだし、オルトさんに懐いてるのかも。
どんな人なんだろ。やっぱり、上級貴族なんだろうな。オルトさんみたいに筋金入りの「箱入り」さんだったりするのかな?
海って呼び名がついているところを見ると、瞳が海の色なんだろうか。
いつもの癖で、私が次から次へととりとめもなく脳内思考をしていると、所長さんが話しかけてきた。
「私もご隠居様も既に了承した件ですので、オルトには見学者の世話をお願いします」
「お父様」の言葉を受けてなのだろう所長さんの話に、オルトさんは渋い表情になる。
「年長者として、若輩者の成長を手助けするのは当然のことだからね」
さらにご隠居様からの追い打ち。……駄目押しともいう。
オルトさんはさらに苦虫をかみつぶしたような表情だ。
「部屋はオルトの隣の空き部屋を割り当てる予定だから。……問題ないよね?」
にこやかなはずの所長さんの顔が、何故か怖い。
あ、目が笑ってないんだ。
「ちゃんと学校の寮で生活してれば大丈夫なはずだけど、もし万が一のときは1人でも大丈夫なように、洗濯や掃除なんかを教えてあげて」
「……………………はい」
すっごい逡巡したあとに、絞り出すようなオルトさんの声。
あー、やっぱりそういう「箱入り」さんなところがありそうで心配ではあるんですね。
どんな子が来るんだろう……。
オルトさんの様子を見て、私は不安を感じずにいられないのだった。
結局、その日は「お父様」のおかげでオルトさんが押し黙ってしまい、お通夜のような夕飯になってしまった。下手に声をかけられる雰囲気でもなかったし。そのまま最後まで無言で片付けて、朝食の下ごしらえをして終わりになった。
あ、ハルスさんが考えてる新しい魔道具って何なのか、聞くの忘れちゃった~……。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
また明日、朝5時に更新いたします。




