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2.魔力

 私が今世で生まれ落ちたこの国は、西洋風の見た目をした人々が暮らしている土地だ。

 そんな中で、私は東の国出身の祖母ちゃん譲りで髪も目も黒かった。顔立ちは普通だと思う。

 私としては前世で見慣れた色だったし違和感はなかったのだけど、この国ではあまりない色らしく、初対面の人にはよく「珍しい」と言われた。

 ……そういえば、祖母ちゃんと私と兄と父さん以外の家族は、普通に茶色の目と髪の毛だった。

 うん。この国では茶色が一般的な色みたい。濃淡の差はあるけどね。


 あ、そうそう。

 祖母ちゃんが東の国の出身というだけあって、我が家では味噌汁とか米飯とか普通に食卓に上がってた。

 前世で食べ慣れたものが食べられるって、ホントうれしい。

 味噌も醤油も米も、ちょっと探せばこの国でも手に入るレベルには流通してるそうだ。

 鰹節とか昆布とか海苔とか、そういうのは東の国からの行商人が来ないと手に入らないから貴重なんだよって祖母ちゃんが料理しながら教えてくれた。

 だから、普段の味噌汁の出汁は小魚を干したのとかキノコを干したのでとってるんだって。

 近所で東の国出身者が豆腐屋さんをしてるから、お豆腐やおからはいつでも手に入るんだけど。

 だから我が家では、ちゃんと出汁を取った「だし巻き卵」とか海苔巻きや手巻き寿司なんて、誰かの誕生日でもないと出てこない。本当に特別な食べ物だった。


 実は祖母ちゃんのような東の国出身の人は、この国にはけっこういるらしい。……と言っても東の国の人でも濃い茶色の髪と目の人が多くて、黒目黒髪って人はごくわずかなんだって。




 私が9歳になった頃、妙に体が熱っぽい事が続いた。

 最初は風邪かと思った体調不良も、お医者様の見立てでは風邪ではないという。どうやら私が持っている魔力が通常より大きくて、体にたまった魔力が発散されずに体内で渦巻いている所為だろうとのこと。


 その時は、とりあえずお医者様が私の額に手を当てて魔力を吸い出してくれ、体の方は楽になった。でもこのまま魔力の制御を覚えないでいると、最終的には魔力が暴走して大変な事になると言われた。

 それで、王都にある魔術学校に入る事になった。

 そこになら優秀な先生達がいて、魔力を暴走させないよう制御することも学べるし、万が一暴走しても受け止められる大人が揃っているから安心だというのだ。


 平民が通う初等学校は7歳から通うけど、魔術学校は10歳から通うものらしい。

 大きな魔力を持っているのはお貴族様に多くて、お貴族様は魔術学校に入るまでは各ご家庭に教師を呼んで勉強するんだそうだ。……家庭教師ってヤツですな。


 とりあえず10歳になるまでは、空になった魔石に魔力を吸い取らせて急場をしのぐ事になった。

 お医者様の指導で、魔力を指先に集めて魔石に流し込む方法をなんとか覚えた。


 この世界では電化製品代わりの魔道具に前世の電池のように魔石をはめ込んで使うのだが、魔力が空になると白く濁ってしまう。その空になった魔石に自分の魔力を吸い取らせて、体の中で渦巻く魔力を減らすという対処療法。魔力を補充すると、魔石は透明になるのだ。


 魔道具に使う魔石は、電池みたいに単1・単2・単3的な大中小の大きさがあって、属性のついてないものが推奨されている。大人だと魔力に属性がついてるから、魔石に魔力を補充しても魔道具に使えないんだそうだ。

 例えば冷蔵庫みたいな魔道具に火属性の魔石を使うと、火の性質が邪魔をしてよく冷えないからダメなんだって。その点、無属性の魔石なら、どの魔道具に使っても大丈夫ってワケ。


 ちなみに、火属性の魔力を魔石に入れると透き通った赤になる。風属性だと透き通った緑、水属性なら透き通った青、土属性だと透き通った茶色になっちゃうんだ。……土属性の魔石を最初に見たとき、ビール瓶の色を薄めたような感じって思ったのは内緒。


 私が空の魔石に魔力を入れれば、前世で言う電池の代わりである魔力満タンの魔石を買いに行く必要もなくて、私の不調も直してくれる。なんていうか、正直、一石二鳥じゃね? と思った。

 でも一石二鳥だ~なんて浮かれて順調だったのは最初の1ヶ月ちょっと。すぐに吸い出さなきゃいけない魔力の量が多くなりすぎて、空の魔石が追いつかなくなってしまった。



 お医者様も「これは下手な上級貴族より魔力が大きいかもしれないな」と驚いていた。

 実は私を診て下さってたお医者様は、下級貴族の家の人で魔術学校の出身。家督は上の兄弟が継いだし、治癒魔法が使えるからお医者様になったんだって。


 そうか。貴族がみんな魔力持ちなら、みんなこんな風に苦しんでるのかと思ってたけど、私の魔力が大きすぎただけだったんだ……。


 後で知ったんだけど、医者という職業も国家資格というか、そういうものが必要なんだって。国からいくらかの給料が出て、僻地へ行けば行くほど給料が上がるとか。あとは患者さんからもらう診療報酬(ちゃんと国で規定があって、守らないと罰せられる)で生計を立てるんだそうだ。

 僻地に行くほど人が少なくて診療報酬も少なくなるから、うまくできていると言えばそれまでだけど。まぁ、なんというか、お医者様も国の指示で動いていて、前世で言うところの公務員のようなものって感じがした。




 話は戻って。


 家の中では冷蔵庫に使う魔石が一番大きいのだけど、それだって毎日補充が必要なわけじゃない。買い置きの電池みたいに予備の魔石を用意して補充しても、まだまだ魔力が余ってしまう。家で使う魔道具の魔石だけでは足りなくなったので、隣近所の魔石を借りてきて魔力を吸い取らせるとかした。

 あのときの私は、前世で言うなら「人間充電器」って感じだったね。


 本当に、吸い出しても吸い出しても、体に渦巻いた魔力で体が熱っぽいまま。自分の魔力はどれだけ大きくなってしまったのか……。この熱がたまっていったら、いつか自分が爆発してしまうんじゃないかって恐ろしくなった。

 これは早く魔術学校へ行かなくちゃって、本気で危機感を持った。


 それと、魔力の大きい子は将来的に国に仕えてもらうことが決まっているようなものだから、学校の費用のほとんどは国で負担していて、個人でかかる費用はわずかだという。お貴族様が自分の家の財力を示そうと、こぞって寄付してるってのもあるみたいだけど。

 魔術学校は、国中の魔力が大きい子ども達が集められるだけあって、全寮制になっていた。魔力を律するにはまず生活から。自分のことは自分でできるようにってのが教育方針らしい。

 お金持ちにありがちな箱入りさんでは、甘えが出るからダメなんだとか。


 私も家族と離れるのは寂しかったけれど、大きすぎる魔力に不安を覚えたのもあって、魔術学校へ入る事を決意した。




 魔術学校がある王都に出発する前の晩は、私の好きな料理をこれでもかってくらい作ってもらった。

 寮に入ったら、しばらく家のご飯は食べられないから。


 だし巻きに豚汁、きんぴら、グラタン、肉じゃが、ハンバーグ、太巻き寿司。……てか、私の好きなものだけじゃなく父さんが好きな料理も混じってる! なんて大騒ぎをしてみんなで笑って、家族全員が揃った賑やかな夕飯だった。


「体に気をつけるんだよ」

「……うん」

「辛い事とか、がんばれなくなったときとか、何かあったら戻っておいで。ここはお前の家なんだから」

「うん」


 翌朝、家族みんなとハグと別れの挨拶をして、私は乗り合い馬車に乗り込んだ。

 1年ほど前から寝込むことが増えて、近所の幼馴染み達と遊ぶことも減っていたから、見送りは家族だけだった。

 朝早く、人の往来が少ない時間帯。王都までは父さんと一緒に行く。馬車で5日ほどかかるそうだ。

 これからの生活に不安と期待を抱きつつ、馬車の窓から家族の姿が見えなくなるまで、私はずっと手を振りつづけた。




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