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19.バニラの香り

「あー、お砂糖がもっと安くなればな~」


 現在、無性にプリンが食べたくて仕方ない私です。

 とりあえず、茶碗蒸しを作って自分を誤魔化そうとしてみたものの、体は正直で騙されてくれませんでした……自分の体の正直さに、思わず遠くを見る目に。


 だってさー、カラメルのないプリンなんてプリンじゃないしさー、カラメルなんて砂糖と水だけでつくるしさー、プリン本体にだって砂糖使うしさー、自分だけ食べてハイ終わりってワケにいかないだろうしさー、そうなれば砂糖がどんだけ必要でいくらかかるかって話なワケですよ。

 この前のクッキーは干した果物やナッツの風味で甘さ控えめを補ってたから、砂糖は少なめだったの。


 普段の料理には、砂糖はそんなにたくさん使わないし。


 あ、ちなみに茶碗蒸しは口当たりが良いとご隠居様が特に喜んでおられました。所員さん達も「食感が面白い~」とか言って嬉々として食べてたし。

 うん、茶碗蒸しを作ったことは無駄ではなかったな。


「お砂糖……? またお菓子でも作るの?」


 私の呟きを聞き拾ったオルトさんが、不思議そうな表情をしている。


「食べたいお菓子があるんですけど、けっこうな量のお砂糖が必要で……。個人的に食べたいものだし、でも一人で食べるのは気が引けるからみなさんの分も作りたいし、そうなるとお小遣いの予算に収まらないなーって悩んでるんです」

「へぇ~」


 市場を見て回ったけど、甘いものは値が張る。蜂蜜もけっこうなお値段よね。砂糖を使うものは大概高くて、ジャムも高いの。

 まぁ、その前の市場巡りでバニラビーンズを発見してしまい、それでプリンが食べたい病にかかってしまったワケだけど。できれば、カスタードプリン希望!! でも、この際プリンなら何でもいい!!


 いや、もちろん王都にもプリンを出すお店はあるのよ? けど、街でプリンを食べさせるようなお店って、お貴族様御用達のところばっかりで入りづらいのよね~。

 それなら自分で作るしかないけど、お砂糖がねぇ……。


「この国の砂糖って、南の方から運んできてるから高いですよね~。寒い地方でも育つカブに似た野菜で、砂糖が作れるのがあったと思うんです。それを大規模栽培して砂糖を安くしてもらえたら助かるのに……とか考えちゃいますよね~」


 お砂糖を気軽に使うとか、夢物語よね~。


「あるよ」

「へ?」

「そのカブみたいな野菜。サトウダイコンか甜菜って言ったかな? 確かどこかの領地で、多くはないけど、いくらか栽培されていたと思う」

「……えぇっ!? どこですか!?」


 あまりの私の食いつきにオルトさんが引いている。


「知り合いの領地なんだけど……。父上にお願いしてみるよ」

「……良いんですか?」


 オルトさんの知り合いってことは、今は疎遠になっているだろう上級貴族だと思われる。直接はお願いしづらいから、お父様を介して……ってことなのかな。

 オルトさん、本当はそういう伝手を使いたくないんだろうけど……。


「メランは気にしなくて良いよ。大丈夫」


 天使様が笑います。




 前世で、私の悪いところは、誰かの気持ちを先回りして決めつけてしまうことだって言われた。

 頭だけで考えて、ちゃんとその人に確かめないのが良くないんだって。


 オルトさんの気持ちはオルトさんのもの。

 私が想像しているだけで、本当のところはオルトさんにしか分からないし、私の想像が正しいとは限らない。

 ちゃんと話をして、きちんと確かめて。


 そういうことを忘れて、こうなんだろうな、ああなんだろうなって決めつけて動くのがダメなんだそうだ。

 自分だって「可哀想」とか「ああやって悲しんでるんだ」なんて決めつけられるのは腹が立つくせに。




「オルトさんは、それで辛くはないですか?」


 だから、ちゃんと訊いてみた。


「うん、大丈夫。研究所(ここ)に来ることになって疎遠になった知り合いだし、その人に直接私が言うのはキツいけど、父上には言えると思う」


 オルトさんの儚げな笑顔。それを見て、私が情けない顔になっていたらしい。


「父上にお願いしたら『お前のおねだりは珍しいから、なんでも叶えるぞ! 遠慮しないでいいからな! もっとおねだりはないのか?』って、五月蠅(うるさ)いくらいだと思うけどね」


 お父様の口まねをし、オルトさんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 私もお父様の強引な物言いが想像できて、思わず笑った。


 うん。ちゃんと訊くって大事だね。




 さて、それから数日経って。

 ある日突然、研究所に大きな砂糖の袋が10袋届いた。

 えーっと、前世で言うところの「農協に出す紙袋入りのお米(約30kg)」の袋くらいのヤツが10袋ね。


 けっこうな量ですがな! 上級貴族の権力、半端ない……。

 え? これ、研究所の食堂で使うだけじゃなく、オルトさんのお父様とかにもお礼しないとダメな感じじゃね???


 プリンだけでは日保ちしないので、前に所員さん達からリクエストされてたクッキーがいいかな。

 あと、キャラメルとかどうだろう??? 紙に耐水魔法をかければキレイに包めるし、プリンより日保ちするし、いけると思う。

 そういえば、耐水魔法をかけた紙(前世でいうところのクッキン○シートみたいなの)は雑貨屋さんでも売られてたっけ、と思い出し、そこは楽をさせてもらうことにする。


 そして、残りの砂糖は大事に、大事に、使わせてもらうのだ。


 とにかく勤務日には無理だから、次の休日を決戦と決めた! お砂糖祭開催だー!!




 朝食が終わって、所員のみなさんが()けてから、厨房で作業を開始。


 たまたま、オルトさんも「太陽の日」以外の休日だったので、作業を手伝ってもらった。

 

 最初にクッキー。朝食前にバターを室温にするべく出しておいたので、ちょうど良くなってた。

 クッキーはオルトさんも2回目だし、最初はこの前と同じ手順ってことでお任せ。私は小麦粉をふるっておく。粉を入れて混ぜるだけになったところで、最初のはバニラビーンズを一緒に混ぜてプレーン、2回目はオレンジピール入り、3回目はレーズン入り、4回目はナッツ入り……と4回同じ作業をして、4種類の生地を作った。


 クッキーを焼いている間にプリンに取りかかる。今回は焼きプリンだ。

 砂糖と水をフライパンに入れて焦がし、煮詰めていって、最後に水でゆるめにしてカラメルのできあがり。ココット型に少しずつ入れていく。30個くらいあれば、失敗してもみんなに行き渡るかなぁ~。

 次に牛乳に砂糖を入れてかき混ぜながら温め、卵液を投入。卵液はオルトさんに作ってもらった。ここで煮立たせてはいけない。温める程度だ。バニラビーンズも忘れずに混ぜる。良く混ざったらココット型に静かに流し込んでいく。

 オーブンから焼き上がったクッキーを取り出して、天板に水を張ってココット型を並べ、オーブンで蒸し焼きにする。時間は30分くらいかなぁ。


 プリンを焼いている間にキャラメルを作る。

 フライパンにバターと砂糖を入れ、弱めの中火で温める。よく溶けたら、牛乳を少しずつ入れる。ふつふつしたら次を入れる……という感じで3回くらいに分けて入れ、そこから煮詰めていく。

 もう一つフライパンを用意して、オルトさんにも隣で同じようにやってもらった。

 煮詰まり加減を確かめるのに、ちょっぴり取って何か器に入れ、上から水を垂らす。水に溶けない程度になればOK。

 オルトさんのはそのままで、私のにはナッツを砕いて入れてみた。

 煮詰まったら、耐水魔法がかかった紙を敷いたバットに広げて冷ます。熱があらかた取れたら、冷蔵庫で冷やす。冷え切って固くなる前に一口大に切り込みを入れて、もう一回冷蔵庫に入れてしっかり冷やし固める。


 プリンが焼き上がったら、水魔法で少し冷ましてから冷蔵庫でしっかり冷やす。昼食のデザートにしてもらおう。


 できあがったキャラメルを、紙で包む前に2人で2種類を1個ずつ味見。

 うふふ、香ばしい甘さにオルトさんと2人、つい顔がにま~っとなっちゃいます。


 クッキーは、前に作らなかったプレーンのだけ味見。うん、甘さ控えめが嬉しいかも。甘みがもっと必要なら、ジャムとか載せて食べても良いなぁ。

 あ、今度、旬の果物でジャムを作り置きしておくのもいいかもね~。せっかく砂糖をいただいたんだし! 有効活用しなくちゃ。


 次にプリンを味見。


「見た目、この前の茶碗蒸しに似てたけど、味は全然違うね! この下の方のほろ苦くて甘いのが良いと思う」


 プリンはカラメルが大成功だったみたい。

 私も一口食べて「ん~、これこれ!」と久しぶりの味に大満足。

 そうそう、味見のプリンはオルトさんと私で半分こしたの。前世の女友達以来の感じがして懐かしかった~。


 それからキャラメルを1個1個2人で包んだ。無言の作業が心地良い。

 区別がつくように、プレーンは前世の市販のキャラメルみたいに、ナッツ入りのは両端を丸めてキャンディみたいに包んだの。


 あぁー、作った作った。達成感半端ないわ~! 味もまぁまぁ。前世のプロには及ばないけど、自分的には充分満足。これでみんなにも喜んでもらえたら、本当に言うことない!




「なんか、甘い匂いがする~」


 昼になって、所長さんが食堂に一番乗りしてきた。


「今日の昼食はデザート付きですよ」


 今朝の残りの野菜スープを温めてお出しする。プリンとキャラメル2種を載せた皿も用意した!

 他のみなさんも、先日の茶碗蒸しとは違う料理に興味津々。


「クッキーも焼いておいたので、あとでお茶の時間に食べて下さいね」


 クッキーは紙を敷いたカゴに入れておいた。


 所員さん達は各自トレーに野菜スープの深皿とカゴに山積みにした中からパンをとって、デザートの皿を受け取り、(おのおの)昼食を食べ始める。

 プリンに手をつけた所長さんが「甘くて美味しい!」と歓声を上げる。甘味は貴重ですもんね。

 キャラメルは手作りってことにビックリしてて、「お店じゃないとできないと思ってた~」なんて感心してる人が多かった。


 気がついたら、いつの間にかオルトさんのお父様も混じってて、プリンとクッキーとキャラメルを食べてました。野菜スープとパンを食べた形跡もある……。


 この人は、どこでこういうイベント的な出来事の匂いを嗅ぎつけてくるのだろうか。

 研究所のどっかに、隠密でも隠れてるんじゃあるまいな?


 あ、それから今日は強面の騎士様にも強制的に食べていただきます! 甘いものがあるのに、威圧感を放たれては楽しめないから!!!

 強面に甘ったるいスイーツは似合わない気もするけど、私の関与するところではありません!!!

 ……なんて言ってたんだけど、騎士様、実は甘党だったようで、嬉しそうに弛んだお顔でスイーツを平らげておりました。


「たくさんの砂糖をありがとうございました」


 騎士様の様子にあっけにとられたけど、私が気を取り直して「お父様」にお礼を言ったら、オルトさんも小さい声で「ありがとう」って言ってる。

 ツンデレの匂いがするわ~。


「こちらこそご馳走様。……プリンは下の方の苦いのがいいね。全体を引き締めてくれる」

「はい。甘いものが苦手でも、これくらいなら……という感じにしてみました」


 さすが親子。カラメルを気に入っちゃうところが同じだわ~。感心しちゃう。


「あと、ナッツ入りのキャラメルは初めてだけど、けっこう良いね」

「何も入ってないのも良いですが、ナッツの香ばしさがまた良いですよね。けど食べ過ぎると太るので注意が必要です。雪山で遭難しかかったときなんか、キャラメルを食べて救助が来るまで飢えをしのぐ人もいるらしいですから。この小ささでも2つ3つあるだけで、だいぶ違うとか」

「……ふむ。子どもの食べ物と侮らないで、行軍の時の非常食に検討するのもいいかもしれないな」

「糧食として採用もありかもしれませんね。しかし、それなら甜菜の栽培を大々的に始めませんと……」


 あれ?

 甘味の話が、なんでか軍隊の話になっていったぞ……???


「なかなか興味深かった。ありがとう」


 しばらく騎士様と軍隊の話をしていたお父様は、話の切れが良いところで私たちにお礼を言って帰っていった。


 喜んでもらえたのかしら???




 後日、軍隊の糧食を作るために甜菜畑が拡大され、砂糖工場とキャラメル工場ができた。

 そして数年後、お砂糖が平民にも手に入りやすいお値段になったのは、また別の話。





読んでいただきまして、ありがとうございます。

また明後日、朝5時に更新いたします。


次回は魔道具のお話。

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