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17.基本スパイス3種

 オルトさんの勝負メニューに悩む。

 いや、悩んでる時間が惜しいし、本気で時間ないんですけど!


 オルトさんが一人で作れるものかぁ……。


 悩みながらトントントンとフライパンを持つ手をたたいて、オムレツをくるくるっとひっくり返す。


「それ、覚えたい。できるようになりたい」


 急に現実に引き戻されて驚いた。

 え? オルトさん、何ですか? オムレツをひっくり返す技のこと?

 いや、まぁ、失敗したら濡れ布巾で押さえて形を直せるから、挑戦したいならしてもらいましょうか。

 直せないレベルのは自分たちで食べるのが前提ですけどね。


「バターを溶かしたフライパンに卵液を流し入れて、最初は菜箸でシャカシャカーっと半熟くらいまで混ぜて。固まってきたらフライパンの遠い方へ集めて、後は菜箸を置いといて、フライパンを持ってる方の手首を反対の手でトントントンっとたたくと、少しずつ卵がひっくり返っていくんです。焦らずに少しずつひっくり返すのがコツですよ」


 なんて言いながら、オムレツをもう一つ焼いて見せた。

 卵を2個使って、塩こしょうを軽く振ってミルクをちょっぴり入れた卵液も作って見せる。

 バターの塊が溶けきる前に卵液を入れるのがポイント。


 本当は卵3個使った方が作りやすいんだけど、ここの人たち食が細いからな~。男でも女でもなくて、体が小さめの人が多いから仕方ないんだよね~。謂わば体が大人になりきれないままなんだろうなぁ……。


 卵が少なめなので、フライパンは少し小さめのがちょうど良い。


「あと、菜箸は置かなくても、たたく方の手に握りしめても大丈夫ですよ」


 そう言って菜箸を2本まとめて握りしめ、フライパンを持った手をたたく様子をエアーフライパンで再現した。


「分かった」


 オルトさんは緊張した面持ちで、言われたようにバターをフライパンに落としてから、自分で作った卵液を流し込む。

 言われたようにやっているつもりなんだろうけど、半熟具合の見極めが難しいらしく、最初は固くなりすぎたり、柔らかいままで上手くひっくり返らなかったり、強くたたきすぎてオムレツがあらぬ方向へ飛んでいきそうになったりした。いや、一応お皿でなんとか受け止めましたけどね。


 そういえば菜箸の扱いはけっこう上手になっている。努力したんだね~と私の中のおばちゃんが涙を流しているよ。


 20個ほどのオムレツを焼き終える頃には、オムレツをひっくり返すのもだいぶ上手になってきた。額は汗びっしょりだったけど。


「上手くひっくり返せるようになりましたね。形もキレイ」


と言ったら、花が咲くように笑った。

 うん、良い笑顔ですね、天使様。私の中にある前世のおばちゃん魂が癒やされるわー。


 オムレツは最初の方に焼いたのは冷めちゃったから、弱い火魔法でほんのり温めてお出しする。電子レンジ要らずで便利よね。

 オムレツの他にはポテトサラダとスープ。ポテトサラダには彩りでサラダ菜も添えて。


 ちなみにジャガイモをきれいに洗ってから皮に切り込みを入れて皮ごと茹でて、茹で上がってから皮をむくと簡単にするんっと皮がむける。作れる料理は限定されるけど、初心者にはオススメ。

 そうやって皮をむいたジャガイモをつぶして自家製マヨネーズと塩こしょうで味付けし、ニンジンのスライスを茹でたのや、キュウリ、タマネギの薄切り、豆などを加えてポテトサラダにした。


 それから、どうしても食べたくなって、カレー風味のスープを作った。本当ならただの野菜スープのはずだったんだけど、私の我が儘で変更しちゃった、えへ。


 この前、市場でスパイスを売ってるのを見つけたのよ!

 コリアンダーとクミンとターメリックがあれば、基本的なカレーの風味になるから。前世でカレー粉の袋の原材料名を見たら、その順番で書いてあったの。ちなみに原材料名の順番は、使用量が多い順に書かれてるらしいよ。

 あ、スパイスだけだと塩味とか旨味はないから、塩で味付けするのと出汁で旨味をきかせるのを忘れずに。あと唐辛子とこしょうなんかで辛味を足して。本当は他にもカルダモンとかナツメグとかシナモンとか、隠し味になるスパイスがあればあるほどいい。見つけたスパイスは何種類か買っておいた。


 スープの具には鶏もも肉とタマネギ、にんじん、ブロッコリー、素揚げしたナスやカボチャなんかを入れて、なんていうか、スープカレー的なヤツに仕上げた。

 作ってる間、カレーの匂いが気になって仕方なさそうだったオルトさんに味見させたら、初めての味だったらしく驚いてたけど「美味しい!」って喜んでいたし、所員のみなさんにも好評だった。


「このスープ、スパイスがきいてて食欲がかき立てられるね」


 所長さんの感想に、隣でご隠居様も頷いております。

 受け入れてもらえるかちょっと不安なところもあったけど、作ってよかった~。


 とりあえずカレーを食べたいという私の衝動はおさまったけど、その日はパンが主食だったので不完全燃焼。できれば白いご飯にとろみをつけたカレーをかけて食べたいな~と切実に思った。凄く辛いスープカレーでも可! とにかくご飯に合わせたい。汗を拭き拭き食べるの。

 今度、絶対にカレーライスを作ってやる!!!




 さて、それはさておき、問題は勝負メニューですよ。


 夜、浴場に行ったらハルスさんと一緒になったので、ハルスさんに相談してみた。

 ちなみに、いい歳になっても子どもが作れる「大人」の体じゃないから、どっちつかずの人たちは脇も下も毛がないつるんつるん……。どうでもいい情報でした、すみません。


「勝負メニューねぇ……」

「ご隠居様の満足できるものって、何でしょうね~。しかもオルトさん一人で作れるもので」

「……メランはさ、オルトにどうなって欲しいの?」


 一緒に湯船に浸かりながら、勝負メニューのことを考えていると、思いもよらぬ言葉が聞こえた。

 え? ハルスさんは何を言ってるんだろう。

 広々とした湯船で手足を伸ばしてリラックスしていたのだけれど、頭が疑問符だらけになって首を(かし)げたら一緒に手足も縮こまってしまった。湯船の中で体育座りになっちゃったよ。


「だからね、オルトが賭けに勝ったら、研究所からいなくなっちゃうでしょ?」

「はい」

「……せっかく仲良くなったのに、メランはそれでいいのかなって」


 んんん?

 確かに仲良くはなったけど、毎日顔を合わせてずっと一緒にいたいって思うほどじゃないし、離れても手紙でだってやりとりできるんだし。

 研究所からオルトさんがいなくなっても、私の毎日には何も支障がないような気がする。


 私が思った通りに答えたら、ハルスさんは「そっか」と小さく呟いた。


「せっかく仲良くなったからこそ、オルトさんがご隠居様との賭けに勝って自由をつかみたいと言うなら応援しますよ! 友人として」

「うん。研究所の仲間だしね。私も応援するよ」


 そうそう、仲間ですもんね。仲間の希望を叶えるために、自分ができることはやっておきたいってのは自然な気持ちの流れだと思う。


 ……と言うわけで、勝負メニューですよ。


「オルト一人でできるものが条件なんでしょ? 今できる精一杯を尽くすのが良いんじゃないかなぁ」


 はい、後悔しないよう精一杯の力を出してやり尽くすって大事ですよね。

 終わってから、あれをしておけば良かった、これをしておけば良かった……って、それじゃダメだもん。


「仮にだけど、背伸びして、見た目の良い印象的な料理に決めたとする。それで、練習で何度か作って上手くできても、作り慣れてなくて手順が難しかったり、技術的に難しいところがあったりすれば、本番で緊張して失敗する可能性だってあるよね」


 確かにそれはある。緊張すれば、頭が真っ白になることだってあるもの。


 そうか! いつも作っていて、慣れているからこそ緊張しても失敗しない、そういうメニューが良いってことですね!?


「ハルスさん、ありがとうございます! そういう方向で考えてみます!」


 明日、さっそくオルトさんと相談しなきゃ!


「いや~、ハルスさんに相談してよかったです! さすが先輩!」

「ふふ、お役に立てたみたいでうれしいよ」


 穏やかに笑うハルスさん。整ったお顔で微笑まれると、ホントにもう眼福眼福。

 今夜は良い気分で眠れそうです。




 で、次の日。


「私が失敗なく作れるって自信があるのは、ご飯を炊いておにぎり、野菜スープ、カボチャの煮物とにんじんのグラッセ、それからスクランブルエッグとオムレツ、カリカリベーコン、レタスサラダくらいかなぁ?」

「よし、それで行きましょう」


 私はGOサインを出す。


「え? 地味じゃない? ご隠居様を満足させられるだろうか?」

「大事なのは見た目より味ですよ。それと、相手に美味しく食べてもらいたいって気持ち。これを食べたら笑顔になるだろうなって、相手の顔を想像しながら作るのって、大切なことだと思うんですよ」


 よそ行きの格好つけたお料理じゃなく、作り慣れてて食べ慣れてる、家庭の味・おふくろの味って感じの方が満足してもらえる気がするんだよね。


「ある程度メニューの選定は必要だと思うんですが、見た目が良い格好つけた料理じゃなく、いつも作り慣れてる料理を作った方が失敗は少ないでしょう。それに、ご隠居様が食べやすいようにって心を尽くせば、それは伝わるんじゃないかと思うんです。例えばご隠居様の得手不得手を考えるとか。……油っこいものは苦手そうでしたよね」


 ご年配の方は歯が弱くなっているから柔らかい方が食べやすいとか、飲み込みやすいようにとろみをつけるとか、いろいろ考えられることはある。……まぁ、ご隠居様を見る限り、そういう必要はなさそうだけど。


「うん。分かる気がする」


 オルトさんも納得したようだ。


 ご隠居様の好物ばかりを出すって手もあるけど、それだと媚びを売っているようでいただけない。

 あくまでもオルトさんが作れるものの中から、ご隠居様が食べやすくて好みに合うようなものを選ぶことが前提だ。


 あとの問題は、オルトさん一人で、各料理を同時進行させながら上手く作れるかってこと。

 理想なのはお出しする直前に、全部の料理が完成するってこと。どれかを早く作りすぎて冷めちゃうなんてのは、ちょっといただけないし。……まぁ、冷やしてお出しする料理なら、それでもいいんだけど。

 理想を実現するのは無理でも、限りなく理想に近づけることはできる。そうするには時間配分と手順の組み立て、それから練習が必要だろう。


 ご隠居様には、オルトさんに一人分の料理を作ってもらって判定するってことで確認をとってある。

 本番までに何度でも、できるだけ練習しますよ、オルトさん! さぁ特訓だー!!!





読んでいただきまして、ありがとうございます。

また明後日、朝5時に更新いたします。

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