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13.魔石

じわじわとブックマークが増えていてうれしいです。

読んで下さっている皆様に感謝!

ありがとうございます!!

 ヴノさんが初めて料理をした日、夕食の片付け後に翌朝の下ごしらえも手伝ってもらった。

 ……片付けは残り物を食べやすいように小分けにして、夜に作業している人たちが食べやすいように置いておくのと、鍋などの洗い物などだ。生ゴミは下ごしらえの後にまとめる。

 ただ、ヴノさんに包丁を持たせるのが少し不安だったので、キノコの残りをスープに入れるために細かめに千切(ちぎ)ってもらった。

 私は温野菜用に皮をむいたり切ったりしたニンジンやキャベツが残っていたので、それらを小さめに切って野菜スープ用に加工して、大きな鍋に入れていく。他にも新しく何種類かの野菜を出して切ってから加えて、下ごしらえは終わり。


 朝食の準備があるので翌朝は早めに起きてきて下さいって言ったら、ヴノさんは眠そうな顔で頷いていた。


「起きる自信がないなら、朝、起こしましょうか?」


 そう言ったら、小さい声で「お願い」と聞こえた。今日はきっと、慣れない料理で疲れたんだろうなぁ……。




 翌朝、ヴノさんの部屋のドアを「ココココン!」とノックすると、何度目かで返事があった。

 2回目のノックの時、起きなかったらどうしようかと思ったよ。部屋に踏み込むのか? それとも今まで通り一人で料理するか? ……なんていろいろ想像しましたとも。とにかく起きてくれて良かった~。


 で、現在、スパニッシュオムレツ用にヴノさんに卵を割ってもらってるワケです、が。

 予想通りというか、なんというか。やはり卵を割ったことがないとか言われて、思わず遠くを見る目に……。やはりヴノさんのお家は上級貴族なんでしょうな。


 卵を割ったことがないというのは予想通りだったので、平らなところに卵を軽く打ち付けて、卵の殻にある程度ヒビを入れ、できたヒビに両手の親指をかけて割り広げるんですよってやって見せた。

 机の角で卵にヒビを入れても良いんだけど、力加減が分からないと黄身までつぶれて大惨事になっちゃうことがあるから、平らなところが無難なのよね~。

 それから、大きなボウルと小さいボウルを用意し、最初に小さいボウルに卵を割り入れ、殻などの異物が混入してないことを1個ずつ確認して、それから大きいボウルに入れて下さいとお願いした。


 ヴノさんが作業を開始してすぐ、グシャッと卵がつぶれてしまった音が聞こえたけど気にしない。殻に入れたヒビに親指を入れるときの力加減が分からなかったらしい。

 でも、そんなのは想定内。小さいザルを用意して、これで殻を漉せば良いから大丈夫と、漉すところもやって見せる。今朝はスパニッシュオムレツだから最終的には卵をほぐすわけで、黄身がつぶれてても問題ないし。少しずつ上手になればいいのさ。


 ヴノさんが卵を割っている間に、私は野菜スープの鍋を火にかけ、スパニッシュオムレツ用のタマネギをみじん切りにし、ジャガイモの皮をむいてサイの目に切っていった。


 しばらくすると出してあった卵を全部割り終えたとヴノさんが言うので、レタスを洗って千切(ちぎ)ってもらうことにする。「包丁で切らないのか?」と聞かれたので、レタスは包丁で切ると金気に反応して変色するんですよって教えた。

 よっぽど、包丁を使いたいんだねぇ~。ご隠居様との賭けがあるから、焦るのも分かるけど。


「そういうものなのか……」


 私の返答が思いもよらなかったようで、ヴノさんは目を丸くしていた。


 うん、レタスに含まれるポリフェノールが、鋼などの金属と反応して酸化しちゃうとか、黒ずんじゃうとか前世で聞いた覚えがあるのよ。


 レタスの処理もお手本を見せてから作業を任せる。


 ヴノさんが作業を始めたのを確認して、私は切り終えたタマネギを煮るような勢いでフライパンに油を注ぎ加熱。少ししてからジャガイモを投入して弱火にし、フタをする。ときどきかき混ぜて、均等に火が通るように気をつける。フライパンは複数個を同時に調理だから、気を抜けない。もちろん、野菜スープのあくもとりつつの同時進行だ。

 フライパンのジャガイモに火が通ったくらいのところで、塩こしょうで濃いめに味をつけ、良くかき混ぜた卵を投入、再びフタをして火を通した。


 途中、焼きたてパンが届いて、良い香りが漂う。

 ぐぐ~っとヴノさんのお腹が鳴ったので、「1個だけですよ」と言って、まだ温かいパンを千切ってヴノさんの口に放り込む。……と私のお腹もぐぐ~っと鳴って、あまりのタイミングに2人で顔を見合わせてふき出してしまった。


「半分はヒューレーが食べたら良いよ」

「……はい」


 私は真っ赤になりながら残りのパンを口に放り込んだ。


 レタスをちぎり終えたヴノさんに、バナナを皮ごと半分に切ってもらうよう指示を出す。

 バナナを切ってもらっている間に野菜スープに細切りにしたベーコンを入れて、調味料で味を調えた。

 ベーコンを早いうちから入れると旨味が出て良い出汁になるけど、煮込んだベーコンから味が抜けちゃうような気がして、個人的に好きじゃないの。


 初心者の対応におっかなびっくりだったけど、なんとか朝食も無事に準備できてホッとした。




 朝食の席、所長さんが困った顔でご隠居様と話をしていた。


 なんでも前日の御前会議で、魔道具研究所の改装にお金がかかりすぎたと財務の方からちょっとしたイヤミを言われたらしい。あと、魔道具の修理や開発などで研究所の上げる利益が最近は減ってるとかなんとか。

 その上、食事は王城の食堂で食べれば済むことだろう、研究所独自で食堂だなんて贅沢だ、食材の代金は自分たちで出せと言われたらしい。


 自分たちで食べる分だから、食材の代金は自分たちで出しても良いと思うよ。

 なんならちゃんと帳簿もつけてるから、今までの分もみんなで割り勘できますよ。……そういえば、所長さんから「当面の食費」って言われて、たっぷりといただいたお金もまだ残ってますけど、あれって所長さんのポケットマネーじゃないよね???

 今は研究所から業者さんに食材の代金を払う形になってるから、現金は市場での食材探しの時に使うようにしていて、もちろん所長さんに了承も得ている。それがポケットマネーかどうかなんてことまでは確かめてないけど。


 それにしても、そんなイヤミを言う財務の方は、どっちつかずで無属性な私たちに何の含みもない人なのかどうか、意地悪するためだけにいちゃもんをつけようとしてるんじゃないかって心配になる。

 研究所のみんなは王城の食堂に行きづらいから、とりあえず適当な食事でお腹を満たし、栄養失調で入院したりしてる人だっているのに。そういう現状を分かっているのか、甚だ疑問なんだもの。


「食材の代金は、みんなの給料から少しずつ出し合っても良いとは思うのですが、なにせ、上級貴族達からの風当たりが強くて……」

「私たちが研究所(こちら)で食べる分、王城の食堂の予算を減らせばトントンになるはずでしょうに……。とにかく何か口実が欲しかったとしか思えませんね」


 財務長官だか誰だかの言葉を聞いて、勢いを得たらしく。日頃からどっちつかずな私たちを不快に思っている他の役職のお貴族様からも、やいのやいのと言われたらしい。

 金ばかりかかって特にめざましい貢献もできないのであれば、研究所を取り潰したらどうかという話まで出たとのこと。

 ……前世で言うと、某アニメキャラに向かって「○○○のくせに生意気だぞー」って言うあの雰囲気らしく、所長さんが何を言っても聞く耳はないって感じだったようだ。

 まあねえ、お貴族様から見れば忌み嫌ってる「どっちつかず代表」の所長さんなんでしょうから。こっちの話を聞くはずないよね~。

 それでも国王様のとりなしがあって、少し猶予をもらえたので助かった……と所長さん。


「困りましたね」

「そうなんですよ」


 どうにかして利益を上げないと……と、弱り切った顔で所長さんが額に手を当てる。


「魔石の魔力補充でもして、少し貢献しますか」


 ご隠居様が涼しい顔でおっしゃった。


「王城で使う魔石は大量ですからね。その大半を研究所の所員で補充できれば、魔石を購入する予算が浮きます」


 ご隠居様が言うには、魔石は鉱山で掘り出されるのだが、最近は国内の魔石産出量が減ってきていて、魔石が高騰してきているんだって。

 で、隣の国から魔石の輸入も始めたんだけど、隣の国が「魔石が欲しいならウチの国を優遇しろよな」的な感じでだんだん態度が大きくなりつつあり、国の上層部は困ったなぁって思い始めたところなんだとか。


 ……てか、ご隠居様ってどこからそんな情報を入手されてるんでしょうか。


 けど、そういう事情なら、研究所が国に貢献できることは間違いない。

 その手があったか……! って感じだよ、ご隠居様!


「それならいけそうですね。ただ、所員の了承を得ないといけませんが」


 その日の朝の打ち合わせで、所長さんは前日の御前会議の内容と魔石の魔力補充の件を簡単に説明し、みんなから了承を得た。その後、「今日の御前会議で提案して、財務の鼻をあかしてやる!」と意気込んで出かけていった。




 そんなわけで、所員は毎日、普通サイズの魔石10個の魔力補充がノルマとなった。

 たまに大きいサイズや小さいサイズの魔石が混じってる。


「余裕がある人は、もう少しがんばってくれてもいいんですよ」


 にこやかに所長さんが言うので、私は1日当たり小さいサイズ10個と普通サイズ30個、大きいサイズ3個を自分のノルマにしてみた。魔術学校に入る前の経験から言って、そのくらいは大丈夫だと思うんだよね~。


 毎日、空になった魔石が運ばれてきて、みんなで修理作業の合間に魔力補充をして、夕方には回収されていく。

 魔石の運搬をするのは、もちろん私たちのようなどっちつかずにも普通に接してくれる衛兵さんたち。


 衛兵さん達は騎士様と違って平民出身の人が多いそうで、お貴族様達のように私たちを蔑むこともないから、食堂のおばちゃん達の次に癒やされる。普通に接してもらえるだけで、本当にうれしくなるんだ。

 今度、クッキーでも焼いて差し入れしよう、そうしよう。




 その数日後、入院していたという所員さん2人が職場復帰して、私とヴノさんが作った食事に感動したり、魔石の魔力補充ノルマの話にビックリしたりしていた。


 ヴノさんは少しずつ調理の腕前を上げている。卵はつぶさずに割れるようになったし、野菜の皮むきもだいぶ手慣れて、手際よくできるようになったきた。包丁で食材を切るのも慣れてきたようだ。

 ちょっと指を切ってしまっても、少しだけ治癒魔法が使えるから、小さい傷くらいなら大丈夫って笑ってたし。ホント、治癒魔法があるなら安心だわ。

 今度、大根のかつらむきを練習してもらおうかな?




 ところで、魔石の魔力補充がうまく回るようになったら、財務がそれで儲けを出すことを考えたらしい。

 王城の魔石が潤ってきたので、余った分をお貴族様にも売り出すことにしたそうだ。空になった魔石と交換なら少し割引きするとか、そういう感じで。まっさらの魔石を買うより安価なので、お家の財政が苦しめの下級貴族(貴族同士のおつきあいで見栄を張ってお金がかかるから)の皆様には好評とか。


 下級貴族でも、子どもが多いお家なら自力で魔石の再生ができそうだなって思ったんだけど、あんまり個数が多いと子どもの負担になっちゃうらしい。それに10歳になると、みんな魔術学校の寮に入っちゃうから、家にいなくなっちゃうし。




 ……ちょっと不安になったのでハルスさんに聞いたら、私の魔力の大きさは異常らしく、普通の下級貴族で魔石10個の魔力補充で少し余裕がある程度なんだって。上級貴族なら魔石18個から20個を少し超えるくらいが普通らしい。

 聞くんじゃなかった……。自分が異常だとは思わなかったなぁ。




 話は戻って。

 もう少し再生した魔石が行き渡って余裕ができたら、平民にも売り出そうかって話も出てるそうだ。


 魔石の高騰については、国では補助金を出して値段を抑え、一般家庭の皆様に影響がないよう努力しているという。再生魔石が出回れば、今出している国の補助金も要らなくなるから、国としては再生魔石様々! と喜ばれているそうな。


 ちなみに、上級貴族の方々は「できそこないが触ったものなんて、とんでもない!」みたいなところがあって、再生魔石には手を出さないって話は余計かな。


 それでも再生魔石はけっこうな利益を生み出すらしく、最初の最初にイヤミを言ってきた財務長官が謝罪してくれたとか。


「これで財務から文句を言われなくなりましたし、肩身の狭い思いをしなくて済むようになりましたよ」


 所長さんが明るい顔でご隠居様に報告する。

 下手すると研究所の経費が削減されて、所員の給料が大幅に減らされるところだったんだって!


 ……危ね~。給料が大幅カットされたら、私の老後計画が頓挫するところだったよ!


 そんなわけで、魔石の再生で王城に貢献できるようになって、研究所を取り潰せなんて言ってた人たちも何も言えなくなったらしい。


 そうそう、実は財務長官は所長さんの幼馴染みだそうで、お貴族様には珍しく、どっちつかずで無属性な人間に対する偏見があまりない人なんだそうだ。


 ……あ、所長さんもお貴族様のお家出身でしたか。しかも財務長官と幼馴染みとか。いかにも上級貴族っぽいですよね~。はぁ、そうですか。


 やっぱり、所員の中でも平民出身は私くらいのものなのかなぁ……。





読んでいただきまして、ありがとうございます。

また明後日、朝5時に更新いたします。

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