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1.マジですか

 物心つく頃には、自分には前世らしき記憶があった。


 前世の自分は、日本在住の専業主婦のアラフィフのおばちゃんで、子どもができなかったせいか、ダンナとは万年恋人か永久新婚夫婦って言われるような感じだったのを覚えている。ただし、記憶はおぼろげだ。

 自分の名前もダンナの名前も覚えてないし、なんで死んでしまったのかも分からない。

 ただ、子どもができなくて枕を濡らした夜があったとか、姑から「子どもはまだ?」と聞かれて困った事もあったけど、結局ダンナが小学校高学年で熱病にかかったせいで子種がなくなったんじゃないかって姑から謝罪されるとかすったもんだがあって、仕方ないか~ってあきらめがついたのが40代半ばだったかな……って感じ。


 そんなこんなで前世の記憶があったせいか、自分は今世では「男」になったんだと思ってた。……だって、小さいながらについて(・・・)たから。

 それが勘違いだったと気がついたのは、兄弟みんなで祖母ちゃんに絵本を読んでもらっていたとき。



「赤髪のペンタ(主人公)は、自分は絶対に男になるんだと思っていました。

 近所の同じ年頃の子ども達の中でも、ペンタは一番身体(からだ)が大きく、力も強かったからです。

 だから『お手伝いしなさい』と言われても、女の人がするような料理や洗い物・縫い物などは全然しませんでしたし、言葉遣いなどはお父さんをまねして乱暴な口をきいていました。

 その代わり、薪割りや畑仕事など、男の人がするような力が要るお手伝いはどんどんやりました。

 今日も家の手伝いが終わると近所の子ども達を引き連れて、川で魚獲りをしたり、森に罠をしかけてウサギを捕ったり。外で暴れ回る事が大好きでした。

 ところが年頃になったとき、ペンタは男ではなく女になってしまったのです。

 男になった幼馴染み達はペンタの背を追い越し、どんどん力も強くなっていきます。それに引き替えペンタは男のように大きくなれないし、力も子どもの頃のままで強くなりませんでした。

 それはそうです、ペンタは女なんですから。

 ペンタは困りました。男の人がやるようなお手伝いばかりしていたので、お料理はできないし、縫い物だってできないし、言葉遣いは乱暴です。これではお嫁さんにもらってくれる人はいそうもありません。

 困ったペンタはお母さんに相談しました……」



 衝撃だった。


 どうやらこの世界の人は、小さいときには性別がなくて、ある程度成長するとどっちかになるようだった。

 あまりの衝撃にしばらく呆然とした後、正気に返って祖母ちゃんに質問していくと、性別が決まるのは早い子だと9歳くらい。遅くても15歳くらいまでにはどっちかになる。そして男になるときは申し訳程度についているアレが育つし、女になるときはアレが縮んでいくのだと説明された。


 あと、前世と違ってこの世界の人は多かれ少なかれみんな魔力を持っている。子どものうちはニュートラルというか、属性がなかった魔力も、男なら大概「火」か「風」、女なら「水」か「土」の属性を帯びるらしい。それで性別が決まったと分かる場合も有るそうだ。

 稀に「光」とか「闇」、男でも「水」や「土」の属性だったり、女でも「火」や「風」の属性になることもあるにはある。そういう特殊な場合は、普通と違って強力な魔法が使えるようになるらしいから、それはそれで恥ずかしがる事ではないらしい。


 ……と言っても、お貴族様ならいざ知らず、私たちのような平民は小さな魔法が使える程度の魔力しかない人がほとんどだそうだ。つまり、貴族や王族は大きな魔法が使えるほどの魔力があって普通みたい。たまに、平民でも貴族に並ぶような魔力を持ってる人もいることはいるらしい。

 言われてみれば、前世で電化製品と言われていた物は、今世のこの世界では魔道具だった。魔法が電気の代わりをしているようだ。


 それから、どちらかの性別になると、子どもを授かる準備ができたということで、「大人」になったお祝いをして名前をもらう。男らしい名前、女らしい名前がつくのはそのとき。それまでは「モノ(第1子)」「ジ(第2子)」「トリ(第3子)」……に家名をくっつけて区別するのが通例。目の色とか髪の色であだ名がつく事もあるけれど。まぁ、家族の間では似たような色合いになるから、モノ・ジ・トリ……が定番のようだった。


 性別が決まって「大人」になったお祝いって、前世で言えば「月のもの」が来てお赤飯炊くような感覚か!?




 ……しかし。

 なんてこった。「今世は男か~」と信じ込んでいて、前世の弟たちみたいに新雪の上で「おしっこの飛ばしっこ」とか、夏は全裸になって川で泳ぐとか、女じゃできなかった事をしようと思って、いろいろ楽しみにしていたのに。女の子になる可能性があるなら、黒歴史になりそうな事は避けて置いた方がいいんじゃなかろうか。


 まあよく考えてみれば、確かについてるものが小さめか? とは思ったよ。前世の弟たちと小さい頃は一緒にお風呂に入ってたから、それと比べても小さいなぁと。でも周りの兄弟も同じような大きさだったから、そんなもんなんだろうって思ってた……のに。

 ショックが大きすぎる。自分はまだ、男でも女でもなかったのだ。



 そして数年後、1番上の兄弟が11歳で「兄さん」になって、「アレックス」って名前をもらって。

 そのまた数年後、2番目の兄弟が10歳で「姉さん」になって、「マリー」って名前をもらった。

 「姉さん」が「姉さん」になった頃、まだ7歳だった私も、いつかどっちかになって名前をもらって、将来は好きな人ができて、結婚するんだろうな……とまだ見ぬ未来を思い描いた。


 前世の記憶は50歳に手が届くかという専業主婦で、子どもがいなかったのが心残りだったから、今世こそはかわいい子どもが授かりますようにって神様に祈った。


 けど、どっちになるかは、なってみないと分からないから、言葉遣いはどっちになっても良いように丁寧に話すよう心がけて、髪だって男だったら短く切れば良いからと伸ばしておいた。

 お手伝いも、男になっても女になっても困らないように、力仕事もあれば、炊事洗濯、なんでもやるのがこの世界の常識だった。

 男になったらヒゲが伸びるし声変わりがある……とか、女になったら胸が膨らんで月のものがある……なんて初等学校で習って心構えをして。

 自分は大人になったらどっちになるんだろう? なんだかとてもワクワクした。




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