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2015年/短編まとめ

自己満足でも愛は愛でしょう?

作者: 文崎 美生

基本的に一日の時間の使い方は決まっている。

小説を書く、本を読む、ネタ集め、睡眠。

この四つで私の生活は成り立っている。

だからこそ、こういうのは面倒だ。


「じゃあ、別れましょっか」


私の言葉に目の前の彼は「は?」と間抜けな声を漏らす。

貴重な昼休みに部室から引きずり出されたと思ったら、聞きたくもない台詞第一位を聞かされたのだ。

冷たく言い放っても仕方がない。


作業中には結い上げていた髪を解いて、ガシガシと適当に乱す。

彼は口と目を開けて私を見ていた。


付き合ってくれと言い出したのは向こうの方から。

当然気のない私は断ったけれど、お試しでと食い下がってきたのは向こうの方。

私何もしないよ、と言ったのにそれでもいいと言ったのは向こう。

だから私は悪くない。


「だって構って欲しいんですよね?だったら、私じゃなくても大丈夫です」


だから戻っていいですか?と私。

そんな私に驚いて何も言えなくなる彼。

俺の事好き?とか何でデートとかしてくれないの?とかそんな台詞を求めているわけじゃない。

ましてや「俺と小説、どっちが大切なの」とかそんなの決まっているじゃない。


「私は小説の方が大切なので」


それでは、と頭を一つ下げて長めのスカートを翻す。

恋だ愛だなんて騒ぐのはしょうに合わない。

ただ心地いい人間関係に身を委ねるだけでいい。

それが出来ないならその人は要らないし、多分分り合うことは一生ないだろう。




***




「ってことで別れたんだ」


カタカタとパソコンに文字を打ち込んでいく。

何度も何度もキーボードを叩いてるうちに、自然と手元を見ないでも打てるようになった。

ワードの画面が文字で埋め尽くされる快感に酔いながら、今日あったことを幼馴染みに話す。


幼馴染みは部活で使う道具の手入れをしながら、ふーんとか適当に頷きながら私の話を聞いていた。

運動部の幼馴染みは、今日は自主練だけだったと言って私の部屋に上がり込んできて、私の部屋で道具の手入れをする。

正直理解出来ない。


「そもそも、付き合ってたって言えるのか?」


彼の言葉に漢字の変換をミスした。

カタカタと漢字を直しながら「さぁ?」と答える。

付き合うの定義なんて人それぞれだろう。

友達の定義が人それぞれなように、恋人の形にだって人それぞれ定義があるはずだ。


私にはその定義はないし、そもそも付き合うという言葉を、私の辞書に入れることはない。

あくまでも小説的な意味合いでしか必要ない。

後は買い物に付き合うとか。


「……つーか、お前と付き合える人間なんていないだろ」


今日の分の本文を打ち終わって、取り敢えず保存。

保存してメモリにも入れて二重で保存。

何かあった時に困るのは自分だから。

それから印刷ボタンを押して、書き上げた原稿用紙を印刷する。


その間に彼の失礼極まりない言葉に、一応形だけの反論をしておく。

そんなことないよ、と。

すると彼は道具の手入れを止めて、顔を上げて私を見た。


年々視力が悪くなっている私は基本的に眼鏡。

と言うよりは最早眼鏡がないと殆ど何も見えないのだけれど。

パソコンの画面の光で乾く目を、何度か瞬きして無理矢理涙を出す。


目が潤い始めたところで、彼がのんびりと口を開く。

男にしては細く薄い形のいい唇から溢れた言葉に、私は瞬きを忘れてしまいまた目が乾く。


「俺と付き合えばいいんだよ」


ケロリとした様子でいう彼。

幼馴染みながらこういう時に何を考えているのか分からないのは、男女の差だろうか。

それとも私が彼について考えることがないから。


適当に結い上げていた髪とその髪を束ねているシュシュ。

そのシュシュに指を絡めて解けば、小さく髪が揺れて彼の視線がそちらに向く。


「それって、つまり、私に似合うのは俺だけだからって自惚れ?」


原稿の印刷が終わる。

ホカホカ刷り上がりの原稿用紙が、私の手に収まるのを待っていた。

だけど彼は自信ありげに、嫌味ったらしく笑いながら「違うの?」とほざく。


明日は文芸部部誌の締切日だけど、添削は明日でも間に合うのかな。

そんなことを考えながら、彼に手を伸ばした。

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