最期の再会
街はひどい状態だった。
そこらじゅうに瓦礫が散乱し、アスファルトはひび割れ、建物という建物から火の手が上がっている。
人々は逃げ惑い、この惨状を作り出したモノから逃れようと必死だ。
そんな惨状を作り出したのは、たった一つの存在だった。
――ドラゴン。
この世界で最も巨大で、最も偉大な空の王者。
その灰色の翼は、どこまでも広がっているのではないかと錯覚するほどの大きさだ。
鋼のような尻尾は建物をなぎ倒し、その口から放たれる炎のブレスは人々を焼き払う。
まるで、悪夢に出てくる怪物を体現したかのような姿。
そのドラゴンが今、俺の目の前にいる。
対峙して初めてわかった。
その、圧倒的なまでの力量差というものが。
「こいつを殺るのは俺だ。お前らは引っ込んでろ」
近くにいる部下たちにそう命令する。
「で、でも隊長……」
「いいから行け!」
俺が静かに怒鳴ると、部下たちはしぶしぶと撤退を始めた。
……それでいい。
無駄な死人を出す必要はない。
息を整え、静かに剣を構えた。
ドラゴンは強大だ。
人間一人の力で、太刀打ちできる相手ではない。
だが、だからなんだというのか。
俺はこいつを斬ると決めたのだ。
……この街を、仲間を、これ以上こいつに奪わせはしないと決めたのだ。
ならば、他に何も考える必要はない。
ただ、いかにして奴の息の根を止めるのかということだけを考えれば、それでいい。
「冗談じゃないわ。何勝手に決めてんのよ」
「――――」
懐かしい少女の声が、そんな俺の思考を遮った。
……そんなはずはない。
彼女が、ここにいるはずが――
「あいつを殺るのはあたしよ。あんたこそ引っ込んでなさい」
だが、それは幻聴などではなかった。
視線を横に向ける。
そこには、美しく成長した幼馴染の姿があった。
美しいだけではない。
彼女は、俺と同じように剣を握っている。
それは、つまり。
「……はっ」
こいつは昔からこうだ。
俺といつも張り合う、頑固な少女。
何も変わらない。
「死ぬなよ?」
「誰に向かって言ってんのよ」
俺たちの戦意を感じたのか、ドラゴンが咆哮を上げる。
「行くわよ!」
「おう!」
不思議と、負ける気はしなかった。