□□□□□
眼前に倒れ付した身体の、赤く染まりゆくその背中から生えた切っ先が、少しづつ沈むようにしてその内に呑まれてゆく。
自ずから柄は手のひらを離れ、意外にもほとんど音を立てることも、床の上をはねることもなく、ただことりと慎ましやかに傍らに零れ落ちる。
失われた。
欠け折れた、その重さすら支えられないほどに。
今や、肉を抉った感触だけが生々しく残るばかりのこの両手は、いったい誰のものなのだろう。
見上げればただ、光が注ぐ。作り物ではない本物の光だった。
だが、これでは同じではないか。
掴もうと伸ばしたか細い腕にはいくつもの配線がのたうちながら這い上がり伝い、それこそ蛇の喰らいつくように皮膚を抉った。立ち上がろうとした脚もまた縫いとめられ、蠢く管に埋もれ呑まれてゆく。
天窓に遮られた空には果てがない。
それは同じことではないのか。届かないのであれば。触れられないのであれば。その先に何もないのであれば。
得られぬのであればそれは、同じことではないのか。
目の前に横たわるのは、それでも何かを望んでしまった成れの果て。
一度だけ宙を掴んだ手のひらは、やがて糸の切れるようにしなだれ落ちる。
衣を染めきった朱色は、刻々と黒く転じた。
やがて、靄のようにあたりに染み出したそれは、名もない肢体を覆いつくすと、そのまま影の溶け込むように、もろとも地の底へと沈み、染みひとつ残さずに消えた。




