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光の中には何が見えるのだろうか。
何も見えないに違いない。
夢のようなものだ。
ただ仰向けに寝転がったまま、時折、高みの光源を、伸ばした両腕の先、手のひらに包もうとでもするかのような仕草で、少女はひとり無為な手遊びを続ける。未だ眠る狼の彼の柔らかな体毛を枕代わりにして、螺旋を昇りはじめてから何度目かの休憩から目覚めた直後だった。
時の経過と共に、頭上の光源はその輝きの強さを移ろわせる。
あの部屋の明かりに比べれば冷えびえとして、ひどく碧がかったようにも見える明らかに作り物の光は、時に影を落とすほど強く、また足元のおぼつかぬほど暗くを、ほぼ一定の周期で繰り返した。
『オハヨーハヨー! 今日も元気に歩き通し登り通しがんばりましょー!』
伸ばした指先の上に止まった目玉の彼は、明るくなりはじめた光を遮り変わりなく能天気に愉快げに羽音をじぃと響かせた。投影されただけの翼でどう宙を舞うものかはわからないが、金属の鈍く擦れるのにも似た微かな振動が周囲の空気を喧しく震わせる。
「おはよ、っ!?」
声にならない悲鳴に鈍い打撲音が続いた。
目玉の羽音に眠りを妨げられたものか、少女の頭の下から器用にするりと抜け出た狼の彼は、後頭部を押さえ悶える少女を尻目にその四肢を長く伸ばしていた。
枕がなくなれば、その下には硬い地面しかない。
寝ぼけ眼の少女と、いつもどおりの目玉との最悪の組み合わせが、いつにも増してとりとめもない言葉のやり取りを始めては叶わないとでも彼は思ったのかもしれない。
乱暴な手段の甲斐あって、完全に覚醒した少女は当然のごとく狼の彼に食って掛かる。
その抗議も適当な素振りで聞き流し、欠伸までしてみせた彼の鼻先が、ついと上方の一点を凝視し、止まった。
「――――――――――――――――糸?」
冷めやらぬ不服に眉を顰めながらも、狼の彼の示すところを仰ぎ見た少女は自分の見たままをぽつりとそう形容する。反射した光の加減でか細くちらちらと瞬く一条の糸には、さまざまな種類と大きさの塊がいくつもくくり付けられていた。
ひょう、と構造物の隙間で風が鳴った。
足場の縁から覗き込んだとしても、この高さからそれを確かめられはしないのだが、ゆらゆらと垂らされた糸の一端が、遥か下の湖面の、そのさらに深くまで届いて、獲物を待ちながらたゆとうている様を幻視するのはそう難しいことではなかったろう。
糸の周りを興味深げにくるくると飛び回っていた目玉の彼もやがて少女のもとに戻ってくる。
『えさ? 餌なんてついてなかったよ。おなか減った! ごはんごはん! どこー?』




