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饒舌だった首が飛び、描く放物線を綺麗だと思った。
すっぽりと腕の中におさまったそれは、使えなくなった音声機構を側頭部から伸びた触角灯の明滅に切り替えて、チカチカと興奮した様子で先ほどまでの会話を引き継ぐ。
『そう、彼だよ彼、いや、彼女かな? まぁどっちでもいいや、ね、言ったとおりでしょ。全身真っ黒。しかも人型! ね、珍しいでしょ!』
褒めて褒めてと無邪気な感情を点滅させる首に答えず踵を返して駆け出す。一拍遅れて、足元の瓦礫が爆ぜた。
複雑に乱立し絡み合う構造物の中を駆け抜ける。時折縺れそうになる足を、ただひたすらに動かした。腕の中の首は、そんな状況を理解しているのかいないのか、していてこそか、ひどく楽しげな色彩でもって飄々と言葉を瞬かせる。
『オッケー! そのままでまーっすぐ大丈夫! 後方に敵影を確認。全力でいかないと追いつかれるよー』
その誘導自体は極めて適切だ。
硬質素材の管を捻じ切り、壁一面ごとを引き剥がすような追撃によって破砕していく通路の破片を全身に浴びながらも、傷らしい傷も負わずに済んでいる予知演算の精度は奇跡的ですらある。
通路の奥に小さく光が見えた。
瓦礫の砂塵にまみれた空気の質が明確に変わっていくのを感じるままに、その光の中に飛び込む。
投げ出された感覚が地面を踏みしめることはなかった。
眩んだ視界の先にあったのは、どこまでも深い奈落。
遥か下方から吹き上げた風に誘われたかのような浮遊感の中で、金色の糸の房がきらきらとひどく緩慢に宙に散っていく。
綺麗だと思った。
景色はひどくゆるりと回転し、逆さまに巡る。
覚えのある白衣がそれを遮るように、棒立ちになってはためいているのが見えた。
その身体には首がない。私がここにいるのだから当然だった。
『おそろいだね! おそろいだね! おそろいだね!』
いまだ腕の中に抱きとめられていた機械の首は、ケラケラと先ほどよりもさらにうれしげに明滅を繰り返す。そして、
『おそろいだね! おそろ』
傾ぎはじめた胴体と共に、背後から真っ黒な凶器に貫かれた首の笑い声が止む。
沈むように落ちていく最中、耳の奥で渦巻く風の音をひどく遠くに聞きながら、暗がりに佇む影の中、こちらを覗き込むように穿たれたふたつの深遠を垣間見た気がした。




