表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Heiland  作者: 奈尾七篠
11/11

■■■■■

 もしかしたら、揺り起こされたのかもしれない。

 微かに振動を続ける昇降機の中は相変わらずの暗がりに満たされ、時折、窓の外を非常灯の明かりばかりが点滅するように流れていく。

 生まれた場所に戻ってきたような闇だ。時折何かが瞬くのを感じるだけの、あてどもない深淵。

 ただ、今は膝の上にこじんまりと柔らかな銀糸の感触がある。


 あの後しばらくして、少女の肢体は糸の解けるように崩れ落ちた。

 今はもう数多の少女たちが静かな夢を見続けるばかりとなったあの霊廟にも、その時と同じ乾いた音色が幾度となく何処へともなく響いたのだろうか。


 少女の首を携えて、今、私はその道を往く。

 彼女が飛ぼうと願った空がこの先にあるものなのかは分からない。

 残された私の、ただのわがままなのかもしれない。

 だが、それを確かめるすべは失われた。少女は、もう夢以外のものを見ることはない。

 だとしても。


 徐々に増す加速を感じていた。

 螺旋の頂で産み落とされた時のように墜ちていくのにも似た不安と、けれどわずかばかりの希望とが、二重の螺旋を描きながら速さを増す明滅の中で交差する。

 近づいては離れ、離れてはまた近づき、互いに位相を変えながら巡り、巡り、何かが上りつめていく――――。


 振り切れるのを感じた。

 その一瞬で暗闇は赫と燃え上がる緋に満たされる。


 焼け付く空の下、崩れ去った古い都市の残骸が落とす影は、自身がたどり着けなかった高みへと、朽ちてもなお手を伸ばそうとするかのように濃く長く地を這い伸びていく。

 黄昏に染まる空と地平線の境目を彩る鮮やかな茜色の帯は、窓越しに正面から差込み、内部の壁を鈍い朱に染め上げた。

 窓を流れていく支柱の影の合間から差す強烈な赤色に思わず顔を顰める。


 太陽は沈みゆくものだと聞いたことを思い出していた。

 だが、暗闇に浸かり続けた目を焼くように映るそれは、むしろゆっくりと傾ぎながらも、その高度を上げていくようですらある。

 落ちる陽よりも早く、空を登っていく軌道。

 覚えず掻き抱いていた腕の中で、少女の髪の毛がくしゃりと鳴る。

 残された側の瞳は紅く染まり、茫漠とした夢よりも、もっと遠くを見つめているようだった。

 その冷たくなった頬を撫でるようにして、夕緋の粒が零れていく。

 亡骸となった少女のどこに、それだけの雫が残されていたものか。

 ただ次から次へと瞳の淵から溢れ出ては、誰かに手向けるかのようにいつまでも涙は零れ落ち続けた。


 見上げれば、ぼんやりとまどろむようだった天の光が、微かに瞬きはじめている。

 やがて冷えていく空の緋を刈るように、一筋の燃える軌跡が夜空の中を駆けた。

 本稿は以上ですが、彼女たちの物語に終わりはあるのでしょうか。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ