怪話篇 第十話 雪国
1
「何を見てるんですか?」
「えっ。ああ、雪。雪ですよ」
「毎日よく降りますねえ」
「そうですね。でも……」
「でも……、何ですか?」
「雪はこうやって、絶えず降り積るってゆうのに、私達のやった事といったら」
「感傷的ですね」
「そうでしょうか。そうなのかも知れませんね」
「取敢えずは、ココは安全地帯ですから」
「安全地帯? 地球に安全な処なんてあるんでしょうか」
「まあ、そうですけど。ココには天使は、入り込んでませんし」
「代わりに雪が降り続くだけ」
「ですね」
2
「よく降りますねえ」
「全く。ここ2~3年で、極端に降るようになりましたねえ」
「それに、色が……」
「そうなんですよ。……こんな色をした雪なんてねえ」
「観測センターの見解じゃ、やっぱり汚染の所為だそうですよ」
「やっぱりそうでしょうね。海だけじゃなく、大気も土地も汚染され尽くしているんでしょうね」
「ココにこうやって私達が生きている事だけでも、奇跡に近いんですから」
「この雪が降らなくなった時が、……」
「そう、その時がやってこないように祈りましょうよ。」
3
「今年の雪は、とても少ない様ですが」
「その様ですね」
「もう限界が、近いんじゃないですか?」
「そうかも知れません」
「でも、観測センターの予測では、もう少し先の事ではなかったでしょうか?」
「新聞には、確かにそんな風に表示してありましたが」
「あれは、あてになりませんから」
「政治的配慮もあるでしょうね」
「多分」
「この都市を司る、市長がもう駄目だなんて言っていたら、本当にもう駄目になってしまいますよ」
「どのみち、このドームも、外の汚染に耐えられなくなって来てますから」
「ドームを閉じて、150年ですか」
「当初の予測では、300~400年は耐つとの事でしたが」
「まあ、理論値ですから。実際とは違いますよ」
「まあ、人類は、と言うよりも、地球はもう終わりでしょうね」
「核戦争後に、ミュータントが生き残る様なSF小説がありましたが、嘘でしたね」
「まあ、起こってみないと、現実は判らん物ですから」
「水圧がここまでドームに疲労を与えるなんて事は、作った当時は計算外だったんですしねえ」
「沢山降っていた、雪さえ降らなくなるなんて。もう海には、プランクトンさえも住めないんですよ」
「『マリン・スノー』が降り止むのと、この海底ドームが壊れるのと、はたしてどちらが先か」
eof.
初出:こむ 7号(1987年9月)