目覚め 03
「こんなときにね。直だったらこう、すぅっと出てきそうなのよね。
『こんにちは~』
ってそう、そんな感じで。
どうしようもなくなったらなぜかいるって、、、!!」
え・・・、あの、ちょっと。
今、私の独り言に、なんか違う声が混じってた、よね・・・?
「ユーリ、今起きたばっかりなんでしょ。
のど渇いたんじゃない?」
声を追い、見渡せば。続きの間から、手押し台を押しながら現れた人影が、そう言った。
「あ・・の、ねえ・・・。l
部屋はきちんとノックして入ってきなさいって、いつもいってるでしょうがぁ!!」
そこには侍女服を身にまとった一人の女の姿があった。彼女こそ、先ほどガネーシャ・トライフォーンが探しにいった、ユーレリアの幼馴染、ナユタ・オルギアスその人である。
「まあまあ、おちついて。そんなことはよくあるから」
手押し車を押しつつ、何事もないように近づくナユタにむかっ腹が立つのはいつものことで。
「よくあるじゃないでしょっ! 少しは態度を改めるとか、反省しなさいっていっているの!!」
いつものように一気に怒鳴りつけてからハタと気付いた。
「うん。それから、のど、渇いた。お茶、ください。」
「よろしい」
小さな小卓の上に、用意された茶托が2膳。お茶請けに塩漬けの甘茶鶴。甘いものを持ってこないあたりが、ナユタらしいというか。
「で、どうしたわけ?」
侍女の格好はしつつも、給仕などせず一緒にお茶を飲むのもいつもどおり。けれど考える間をくれたのだろう、一息入れたあたりで、ナユタが問いかける。
「う~ん。そう、ね。ナユタはどこから聞いていたのかしら?」
何から話せばいいのやら・・・。まあ、この子のことだから、結構はじめから潜んでいそうな気はするけれど。
「『私は殿下付侍女、ルシア・ソレイゾ、で・・・』ってあたりからかな。」
合いの手を入れるナユタは興味津々。
「なんというか・・・結構最初から、ね。それなら、私の記憶に混乱があることもわかっているということでいいかしら。
トライフォーンも行ってしまったことだし、説明から入るのも面倒なのですけど。
今の私の記憶は、15歳前後で止まってしまっているのよ。お姉様が神殿に行き、お母様が亡くなられたあたりで記憶が途切れている、といったところ。あの子・・・ルシアとか、ガネーシャは一応見知ってはいるけど、侍女とか、侍医とか、いつなったのかしら、といった感じね。
だからナユタ。
あなたに助けてほしいの。」
トンットンッと中指で小卓をたたきながら、考え考え百合子は口を開いた。
「とはいっても。その後傍にいなかったよ。ルミリエ后様が亡くなられた後、留学してた。で、戻ってきたのは1ヶ月くらい前。
まあ、今のところあの二人、結構傍にいるんだし。ぶっちゃけちゃって、協力してもらえばいいんじゃないかな?」
たいしたことないでしょ、そう表情が語っている。
「それは・・・どうしようかと。なぜかすごくなついてくれてるのに、私が解っていないことがかわいそうで。ね。傍においておくと、ものすごく傷つけそうよ。」
ちょっと目を泳がせ、百合子は言った。
「まった、まった。いつものかわいそう癖が出てる。
それやって、あなたいつも失敗してるでしょ。とくに、ユーリの近しい人らしいから、これからも近くにいると思うわよ。急に遠ざけるほうがかわいそうだよ。きちんと話をしたほうがいいよ、絶対」
はあ、またこの人は・・・。ため息とともに言葉を吐き出す。
「そうですか・・・やっぱりそうですか・・・。
でもね、そうなんだけどね。・・・ねえ、直。わたし、百合なのよ」
ちょっと、意を決して。百合子は言った。
「ユーリはユーリでしょ、なにいってるの・・・・
う・・・。
ま、まった、あなた、ユーリじゃなくて・・・百合、なわけ?」
目をパシパシさせながら、ナユタが聞き返す。
「・・・そう。残念ながら、百合、なわけです」
ため息とともに、百合子は言葉を吐き出した。
「いや、だって、どうして・・・。
じゃあ、ユーリは今どうしてるのさ」
「そうなのです。どうしてるのかが問題でもあるんですけど。でも、ですね。
状況から見ると、終わって気が抜けてしまって、逃げてしまった感じもしているわけでしてね。
あまりに大変で。終わるまでは気が張って何とか持ったけれど、終わったと聞いてしまってぷつり、と。
まあ、あの時と同じ、ですよね」
「・・・・」
「どうしましょう、ね・・・」
固まってしまったナユタを前に、百合子はもう一度お茶を淹れ直した。あの時も、そうだった・・・。そう、以前のことが頭をよぎるのであった。