目覚め 02
「姉様、いえ、殿下、は。
エスファーン王国第252代国王オジオン・エル・エスファーン陛下の第二王女にして、第二王位継承者、ユーレリア・フレイ・エスファーン様でございます」
一瞬、何を言われているのかわからなかったのは、百合とガネーシャ。そんな二人を於いてルシア・セレイゾは淡々と説明を続ける。
「私は殿下付侍女、ルシア・ソレイゾ、で・・・」
下を向き、下衣を握り締めて淡々と説明をしている・・・と思ったルシアの声が乱れ、
何かが床に落ち。
それが涙であると二人が気付いたのは、ルシアは「失礼します・・・」と逃げるように部屋を去った後だった。
「いや、まあ。
あの子は昔から思い込みが激しいというか、感情の起伏が激しいというか・・・」
説明になっていないよね・・・と思いながら、ガネーシャは小さくつぶやく。
「宮廷侍医トライフォーン、といったわよね。
では、貴方はどうして落ち着いているのかしら?」
ここで私が突っ込みを入れてもね・・・と思いつつ、百合は言った。
「いえ・・・私は、医師として記憶障害という症例も知っていた、というだけで。動揺しなかったわけではありません。いまでもどうしていいのかわからないくらいですし。
でも、ユーレリア様。
ここはどこ?、私はだれ? といった状況のわりに落ち着いておられるように見受けられます。ご自身としてはどうお考えになられていますか?」
取り乱すわけでもなく、困ったような顔をしながら周囲の状況を把握をする。なんとなくいつものユーレリアに重なる姿。記憶が無いとは信じられず、でもいつもと違う他人行儀な言葉。そう、いつもと同じようだから、余計にその差異が心に痛い。
「そのあたりはどう説明したらいいのかしら・・・。
そう。直は、ナユタ・オルギアスは登城しているのかしら」
さみしそうな、傷ついた目をしながら話すガネーシャは、近頃できた年下の友人を思わせる。ごめんね。私もどうなってるのかさっぱりわからないのよ。なにしろこの夢を見ていたのは十四、十五のイタイ時期だったから。そんな願望も、時期的にありうるかもね、と心の引き出しの奥深くにしずめて知らん振りして、大人になって忘れていたというか。それに、体系的に見ていたのは十四、十五のときあたりまでだしね。
「オルギアス財務卿でしたら、そろそろ登城なさる時間です。ナユタ様は、ご一緒に登城なされているとは思えません。一度、殿下のご容態について問い合わせがあったことは確かです」
ナユタ様って、ご学友の、私室に上げることも多い方。でも、一度も見舞いに来てないのをどうやって説明したらいいんですか・・・。え・・というかっ。
「あの・・・ナユタ様のこと、って。
よかった。思い出されたんですね。起きぬけで記憶の混乱があっただけ、みたいですね。わかりました。すぐ呼んでまいりますっ」
喜色満面。しゅたっと音を立てて身体を起こし、そのままの勢いで部屋の外へ出て行くガネーシャ。
「いや・・あの、ちょっとまって――」
後ろからの百合の声も知らず、ガネーシャは逸る心そのままに部屋を飛び出し。
部屋の中には、記憶の混乱に頭を痛める天野百合が残っていた。
「・・・おいおいおい。
ホント・・・。どうしたらいいのかしら」
本編として、新しいパートを書き起こしました。
以前の視点は、番外編に置いてあります。
ゆっくり上書きになるので、長い目でお待ち下さい。