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【ワシ、シリーズ】

三度の飯より退職代行を跳ね返した社長に、辞表で銀河を砕いた件——せいきまつ☆退職覇者伝——

作者: 天音空
掲載日:2026/07/10

押し寄せる「雑務」の群れ。

コピー、修正依頼、意味わからん会議、急ぎのメール。


もうオフィスいうより、地獄のフェス会場や。


「アカン……アカンてこれぇ……!」

「何体倒しても湧いてくるやないか!」


犬飼勤(いぬかいつとむ)が机に突っ伏しながら叫ぶ。


目の下にはクマ。

肩には湿布。

右手には三本目の栄養ドリンク。


拳には黒インク。


「修正依頼」の返り血や。


――なんやこれ……修正依頼いうか呪いやんけ……!


すると、ぐにゃりと歪んだ虚空から、ヌゥッと現れる大量の書類。


「グッヘッヘッヘ……」

「お前たちの仕事は終わらん……」

「終わらんよ……」

「定時? 幻想だろ!」

「有給? 都市伝説の間違いだろ!」

「お前たちは永遠にタスクに溺れるのだァ……!」


「喋ったァーーー!!」


――いや、急にラスボスみたいなこと言うな!


なんやそのTeamsの通知みたいな呪い!!


雑務が喋ったら終わりや! 


ワシら……精神までおかしゅうなったんか……?


犬飼がクイッと眼鏡を押し上げた。


「しぶといですね……まるで悪意を持つ生命体のようだ……」


「先輩……ここは私に任せてください」

「雑務は……私が全て引き受けます」


アホかお前! 何言うとんねん!


「貴方は先へ……」

「プレジデント・ブラックを倒すのです……」


いやその前に労基いこ!? 順番おかしいて!!


だが犬飼は微笑む。


「あの決算月……覚えてますか」


忘れるか! 

三徹目でコピー機に“お母さん”言うてもたわ!


「あの日々……貴方がいなければ、私の魂は摩耗していた……」


ワシもだいぶ削れとったぞ!?


「貴方が缶コーヒーを差し入れてくれた……」

「あの温もり……私は忘れない……」


いや……それ……自販機で買うたやつや!


「だから今度は……私の番です」


犬飼の身体から、バチバチと音が鳴り始める。


な、なんやその音!?


「神経です」


怖ぁ!!


「過労死ライン突破!!」


そこは死守せぇぇ!

突破したらアカンやつや!!


犬飼の背後に、真っ赤なオーラが噴き上がる。


コピー機がガタガタと紙を吐き出し始めた。

大気が震える。


「すぅーっ」


犬飼は静かに息を吸った。


その一瞬だけ、雑務の呻き声すら止んだ。


「燃えろ……聖魂(セイグリッド・ソウル)……!」


なんやその会社辞める時しか使えへん能力!!


いや! その前に帰って寝ろォ!!


――だがもう止まらない。


「これぞ最終決算奥義……!」


犬飼やめろォーー!!


(レイバー・)(スタンダーズ・)是正(コレクティブ・)勧告(ノーティス)――――!!!!」


ドゴォーーォォォン!!


空から流れ落ちる数千の龍。

雑務を食い散らかし始める。


なんやこれぇぇ!!


「サービス残業の怒りです……」


怒りのスケール、デカすぎるやろ!!


龍は暴れ狂い、雑務は断末魔を上げながら消滅。


――静寂。


そして犬飼は、ゆっくり崩れ落ちる。


犬飼ーーーー!!


ワシは駆け寄る。


しっかりせぇ!!


犬飼は薄く笑った。


「先輩……ホワイト企業で……生きて……」


「死ぬなァ!!」

「有給取れェ!!」


だが犬飼は動かない。


「寝とるだけか!? いや違う!!」

「顔がめっちゃ成仏しとる!!」


ワシは涙を流しながら立ち上がる。


「待っとれよ……プレジデント・ブラック……!」


ブラック企業本社最上階。


空気が黒い……

酸素まで残業しとる……


玉座に座るプレジデント・ブラック。


「フハハハ!! 退職代行すら三回退けたこの私を――」


バァーーン!!


扉が吹き飛ぶ。


「お前ぇぇぇ!!」


「誰だ!?」


「犬飼の労災代だせぇぇぇぇ!!」


ワシ、懐から一枚の紙を取り出す。


「そ、それは……!」


「全労働者の魂を込めた——辞表やァァァ!!」


辞表が軋み、

紙とは思えん重力を帯び始める。


「やめろォォォ!!」


「くらえ!! |銀河砕裂(ギャラクシアン・)辞表(レジグネイション)ッ!!」


グゥーーッ――


時空の質量が一点に集中してゆく


ドゴォォォォォン!!


叩きつけられた一撃が、物理法則を無視する。  


宇宙は割れ、銀河の星々が粉々に砕け散る。


宇宙崩壊。


銀河粉砕。


コピー機四散。


サーバーダウン。


社長絶叫。


「ぐわぁぁぁ!! コンプラ違反が走馬灯のようにィィィィ!!」


プレジデント・ブラックは、光となって消えた。


――春


桜吹雪の中。


空を見上げるワシ。


犬飼……


するとどこからか声が聞こえる。


「先輩……」


犬飼!?


「定時退社してください……」


お前が一番してほしかったわ。


――翌朝、始業ベルは鳴った……


         —THE END—


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