表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魂を誰にも統治させるな 〜悪役令嬢・九条院麗華の過激すぎる特別授業〜』  作者: 水前寺鯉太郎
2年生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/62

第6話:傀儡(かいらい)たちの休日

第6話:傀儡かいらいたちの休日

「……美しい朝に、不細工な装飾ですわね、佐々木さん」

 教室の入り口。九条院麗華の冷徹な声が、左目を腫らせた拓哉の足を止めた。

 クラス中の視線が痣に集中する。それは同情という名の、残酷な「晒し」だった。

「……転んだだけです。九条院先生には関係ない」

 拓哉は震える声で吐き捨て、席に着いた。麗華はその背中に、扇子の先端を突きつけるようにして囁く。

「関係ありませんわね。……ただ、私の『庭』に植えた苗木が、害虫に齧られて無様に枯れていくのを見るのは、私の美学が許さない。それだけですわ」

 放課後。準備室に現れた彩華は、自分の願書を握りしめていた。

「先生……私、やっぱり志望校変えません。彼と同じ、ここなら確実に入れるし。二人で一緒にいたいんです。それが私の……」

「『幸せ』、ですの? ――お黙んなさい」

 麗華は彩華の願書を奪い取り、シュレッダーの前に立った。

「男の影に隠れて、自分の可能性を削り取ることのどこに幸せが? それは献身ではなく、ただの『自傷行為』ですわ。……あなたが彼に合わせて自分を捨てれば、いつか彼は、中身の空っぽになったあなたを見捨てるでしょう。その時、あなたは自分の顔さえ思い出せなくなるわ」

「……そんなの……!」

「自分の王国を持たぬ女に、隣を歩く権利はありません。這いずって追いかけるのが、あなたの理想のレディですの?」

 シュレッダーが、甘い共依存の証明を無慈悲に切り刻んでいく。

 夜の帳が降りた頃、麗華は拓哉の自宅にいた。

 重い打撃音。それに続く、父親の歪んだ「教育」の咆哮。

「……お前のためなんだ! なぜわからない!」

 麗華はチャイムを鳴らさず、持参した予備の「鍵(千尋が手配した暗証番号)」で、静かに、しかし威厳を持って踏み込んだ。

「失礼いたしますわ。……おやおや、随分と脂ぎった『愛』が、この部屋の空気を汚していますわね」

 驚愕する父親の前に、麗華は立ち塞がった。拓哉が、床に這いつくばって父を見上げている。

「不審者だ! 警察を……!」

「ええ、呼びなさいな。ついでに、あなたが拓哉さんの『痣』を作るたびに、隣の家の方が録音していたこの『愛の咆哮』も、あなたの職場へ転送しておきましたわ」

 麗華はタブレットを操作し、音声データを再生した。部屋中に響く、父親の醜悪な怒声。

「これは、指導だ……!」

「いいえ、ただの『敗北宣言』ですわ。自分の人生の不満を、抵抗できない子供にぶつけて憂さを晴らさねば、己の価値を保てない。……そんな三流以下の臆病者を、私は『親』とは認めません」

 麗華は拓哉の前に膝をついた。そして、汚れた彼の頬を、冷たい指先で撫でた。

「拓哉さん。……この男は、神ではありません。ただの、惨めで不細工な人間です。……あなたは、今日ここで、この不当な支配との契約を破棄する権利がありますわ」

 拓哉の目から、初めて「怒り」の涙が溢れ出した。

「……俺、あんたを……父さんを、許さない。俺は、俺のために、ここを出る」

 それは、傀儡が自らの糸を、自分の手で断ち切った瞬間だった。

 数日後。教室で、拓哉はサングラスもせず、堂々と前を向いていた。

 彩華は、より高いレベルの高校のパンフレットを机に広げている。

「いいですか、あなたたち」

 麗華は窓を開け、教室に春の風を招き入れた。

「誰かのために生きる。それは尊いことですわ。ですが、自分を殺してまで守らねばならない絆など、ただの鎖です。……鎖を断ち切り、自らの足で立ちなさい。その時、あなたが流す汗こそが、本物の薔薇を咲かせるための『聖水』となるのですから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ