第58話:『電脳の蜃気楼(ロイヤル・メタバース)』
「……あら。随分と、不細工に『透き通った』嘘ですわね」
帝都学園の全校生徒に配布されたVRゴーグル。そこには、真白が構築した仮想空間「エデン」が広がっていた。
麗華が教室に入ると、生徒たちはゴーグルを装着したまま、嘲笑の声を上げる。彼らの視界には、真白が生成した**「麗華の過去の捏造動画」**が流れていた。
広島で暴力を振るい、岡山で不正を働き、山口で生徒を脅迫する――。AIによって精巧に作られた「偽りの女王」の姿。
「九条院先生。……今の時代、真実なんてアクセスカウント(数字)が決めるものよ。……あなたの『高潔な伝説』も、私がワンクリックすれば『不細工なスキャンダル』に書き換えられるの」
真白の声が、スピーカー越しに全方位から響く。彼女は姿を見せず、アバターの背後に隠れて麗華を指差す。
Z組の生徒たちも、真白が流す「麗華はあなたたちを見捨てて、本家と裏取引をしている」というフェイクニュースに、再び疑念を抱き始めていた。
「おんどれ、ええか」
麗華の広島弁が、電子音に満ちた仮想空間の静寂を粉砕した。
彼女は、あえてゴーグルを装着せず、虚空に向かって扇子を突きつけた。
「……真白さん。……画面の向こうで、不細工に指先を震わせとるのは誰かしら? ……あんたが作っとるのは、誰の心にも残らん、ただの『光のゴミ』ですわ!!」
麗華は、加藤に合図を送る。
加藤は、学園のメインサーバーに、一本の古いUSBメモリを突き刺した。
「……へっ。……真白ちゃん、悪いな。……ネットの海は広いが、俺たちの『現場の足』はもっと速えんだ。……お前が隠してた『加工前の無修正データ』と、学園の裏で行われてる『個人情報売買』の証拠……。……今、全生徒のデバイスに強制プッシュ送信(ブチ込み)してやったぜ」
仮想空間「エデン」の空が、バグのように裂ける。
真白が作り上げた「麗華の悪行」が消え、代わりに映し出されたのは、真白自身が裏で生徒たちの弱みを握り、情報を操作して「株価」を操っていた醜い記録だった。
「……きゃあああ! やめて、消して!!」
「……あら。……消えたいのは、あんたの『良心』の方かしら?」
麗華は、混乱する生徒たちの中心で、凛として立った。
「……お聞きなさい! ……目に映る光に惑わされるな! ……指先で触れられんもんに、魂を売るな!! ……本物の言葉はな、耳元で囁くもんじゃない……。……腹の底から、絞り出すもんなんじゃ!!」
麗華の叫びに、生徒たちが一人、また一人とゴーグルを外していく。
そこには、モニターの中の虚像ではない、泥に汚れ、それでも気高く立つ「本物の女王」がいた。
女王の勝利。
電脳の蜃気楼は霧散し、四天王の二人目が、その「素顔」を晒して崩れ落ちた。




