第57話:『一兆円の宿題(ロイヤル・ファイナンス)』
「……あら。随分と、不細工に『お高い』授業料ですわね、桐生さん」
帝都学園3年Z組。そこは「学園内株価」が暴落し、雅人によって「廃棄処分」を待つ生徒が集められた吹き溜まり。
教壇に立つ麗華の前に、四天王の一人、桐生が最新のホログラム端末を操作しながら現れた。
「九条院先生。……このクラスの生徒たちの実家、計30世帯の負債総額は、関連企業を含めれば一兆円を超えます。……僕が指を一本動かせば、明日には彼らの家は路頭に迷う。……あなたに従うメリットなど、彼らには一円分もありませんよ」
生徒たちは、怯え、絶望し、麗華と目を合わせることすらできない。
桐生が仕掛けた「経済的封鎖」。それは、麗華の言葉を聴くことすら「罪」とする、非情なシステムだった。
「お黙んなさい」
麗華の広島弁が、超近代的な高層教室のガラスを震わせる。
彼女は、桐生が提示した一兆円の負債データを、扇子の先で一蹴した。
「……一兆円? ……そんな不細工な数字、九条院家の庭掃除の予算にも満たないわ。……桐生さん。……あんたは数字の奴隷になっとるだけで、本物の『価値』の動かし方を、これっぽっちも分かっちゃおらん!!」
麗華は、教壇に一通の「古い革袋」を投げ出した。
中から転がり出たのは、山口で救った生徒たちや、広島・岡山で繋がった「職人」たちが作り上げた、無骨な工芸品や未公開の技術特許の数々。
「……加藤さん。……東京中の『眠れる虎』たちを叩き起こしなさいな」
「……へっ。……ババア、了解だ。……本家の雅人が必死に隠してきた『裏帳簿』と、この地方の『本物の実力』を掛け合わせてやったぜ。……桐生、お前のとこの銀行が今朝から受けてる『空売り』……仕掛けたのは、俺たちのネットワークだ」
桐生の顔色が、瞬時に土色に変わる。
地方の職人、廃工場、そして更生した元・不良たちのネットワーク。
麗華がこれまでの旅で「統治」し、繋いできた**「人の絆」**が、帝都の冷徹な金融システムを逆浸食し始めたのだ。
「……桐生さん。……これが私の『宿題』ですわ。……一兆円の借金を、一晩で『未来への投資』に書き換えてごらんなさい。……できなければ、あんたのその高価なスーツごと、九条院の歴史の塵にして差し上げますわよ!!」
女王の逆襲。
東京の空を、山口から吹き抜ける「維新の風」が荒れ狂う。




