第56話:『帝都の洗礼(ロイヤル・ウェルカム)』
「……あら。随分と、不細工に『無機質』な学び舎ですわね」
東京・港区。超高層ビルの最上階に位置する「私立・帝都学園」。
校門には警備ドローンが飛び交い、生徒たちは最新のデバイスで自らの「学園内株価」をリアルタイムで監視している。
麗華は、加藤が運転する型落ちのスポーツカーから降り立ち、日傘をパァン! と開いた。
「……へっ。……ババア、ここは岡山や山口とは空気が違うぜ。……ビル風が冷てえ。……まるで、人間をデータとしか見てねえような場所だ」
加藤が、周囲のハイテク設備を忌々しげに睨む。
学園のメインホール。麗華を待ち受けていたのは、かつて彼女を追放した兄、九条院雅人だった。
彼は、白を基調とした完璧なスーツを纏い、冷笑を浮かべて階段を降りてくる。
「……お帰り、麗華。……地方での『ボランティア活動』、ご苦労様。……だが、ここは帝都だ。……愛や根性といった『不細工な精神論』は、一秒でシュレッダーにかけられる世界だよ」
「……ふふ。……雅人兄様。……相変わらず、不細工に『完璧』を気取っていらっしゃること。……私がここに来たのは、あなたのその透き通った箱庭に、本物の『血の通った教育』を叩き込むためですわ」
雅人が合図を出すと、四人の生徒が麗華の前に並び立った。
彼らは学園の頂点に君臨する、雅人の飼い犬――「帝都四天王」。
IT、金融、メディア、そして伝統芸能。各界のサラブレッドたちが、麗華を「旧時代の遺物」として見下す。
「お聞きなさい」
麗華の広島弁が、防音完備の静かなホールに、爆音のように響き渡った。
「……おんどれ、ええか。……最新の機械に囲まれて、数字の増減に一喜一憂しとるあんたたち。……それは『教育』じゃない。……ただの、不細工な『シミュレーション』じゃ!!」
四天王の一人、金融界の寵児・桐生が鼻で笑う。
「……九条院先生。……ここでは、結果がすべてです。……一週間後の実力テストで、あなたのクラスが学年最下位なら、即刻この学園から、そして九条院家から永久追放。……いいですね?」
「……あら。……面白いハンデですわね。……一週間もあれば、この無機質な廃墟を、最高に『賑やかで不細工な教室』に変えて差し上げますわ」
麗華は雅人の横を通り過ぎる際、耳元で静かに囁いた。
「……雅人兄様。……私が山口で掘った『穴』……。……東京の地下まで、繋がっているかもしれませんわよ?」
女王の最終章、東京・帝都編。
洗練された絶望が支配する学園で、麗華と加藤の「最後のお掃除」が今、始まった。




