第53話:『白き反逆の旋律(ロイヤル・リプライ)』
「……あら。随分と、不細工に『真っ白』な宣戦布告ですわね、大滝先生」
数学科準備室。麗華は、大滝が怒りに震えながら差し出した一通の答案用紙――石川裕子の「白紙」を、扇子の先で軽く弾いた。
「九条院先生! 石川は私の問題を『解く価値がない』と言い放ったんですよ! これを認めれば、A組の規律は崩壊する!」
教室に戻れば、そこは火に油を注いだような惨状だった。
大滝の「意地の悪い問題」に憤慨した生徒たちが、石川を囲み、一致団結して教師への糾弾を始めていた。
「あんなの数学じゃない、ただの嫌がらせだ!」「大滝を辞めさせろ!」
穂井田が机を叩き、優が冷徹な瞳で大滝を射抜く。
「お黙んなさい」
麗華の広島弁が、沸騰する教室を一瞬で鎮圧した。
彼女は石川裕子の前に立ち、その真っ白な答案用紙を高く掲げた。
「石川さん。……あなたのこの白紙。……これは、逃げ道ですの? それとも、あなたの『誇り』の形かしら?」
「……先生。私は、数字を愛しています。……でも、大滝先生の問題は、数字を使って私たちを『馬鹿』にしているだけです。……そんな不純な問いに、私の解を書き込むスペースはありません!」
「おんどれ、ええか」
麗華は、教室の入り口で立ち尽くす大滝先生に向き直った。
「……大滝先生。……あんたの作った問題はな、解かせるためのもんじゃない。……生徒を跪かせ、自分の優越感に浸るための『不細工な鎖』じゃ!!」
麗華は、チョークを手に取ると、黒板に巨大な数式を一つ書き殴った。
それは、大滝の問題の欠陥を突き、さらにその先にある「数学の美しさ」を証明する、九条院家秘伝の(?)高等数理。
「……正解を出すことが教育だと思っているなら、あんたは算盤以下ですわ。……生徒が『白紙』で答えざるを得なかったその絶望を、あんたは一秒でも想像したのかしら?」
麗華は、生徒たちにも向き直った。
「……そして、群れて声を荒らげているあんたたち! ……石川さんの白紙を盾にして、日頃の鬱憤を晴らしとるだけじゃないんか? ……それは『団結』じゃない。……ただの不細工な『暴徒』ですわよ!!」
静まり返る教室。
麗華は、石川の白紙答案の裏に、赤い万年筆で一言だけ書き込んだ。
『秀』
「……石川さん。……あなたの沈黙の抗議、受け取りましたわ。……ですが、次は白紙ではなく、あんた自身の『正解』で、不細工な大人を黙らせてごらんあそばせ」
その時、校内放送が流れる。
『九条院麗華先生。……至急、理事長室へ。……東京、九条院本家より、使者が到着しております』
女王の山口編、終幕。
生徒たちに「問いを疑う力」を授けた麗華に、ついに本家からの「最終通告」が突きつけられようとしていた。




