第52話:『偽りの解答用紙(ロイヤル・ギルティ)』
静寂に包まれた3年A組の教室。カリカリと鉛筆の音だけが響く期末テストの最中、その「不協和音」は唐突に鳴り響いた。
「……知美さん。……その筆箱の中身、見せてくださる?」
麗華の冷徹な声。
震える手で差し出された筆箱の裏には、細かな数式が書かれた紙が、不器用に貼り付けられていた。
「……カンニングですわね」
テスト終了後。教室は、知美への激しい非難に包まれた。
「ふざけんなよ! せっかくみんなで頑張ってきたのに、お前のせいでA組の評価はガタ落ちだ!」
「毛利本家への体裁だってあるんだぞ! 責任取れよ!」
穂井田や大谷までもが、裏切られた怒りを隠せない。
「お黙んなさい」
麗華は教壇に立ち、知美の筆箱を手に取った。
知美は、顔を上げられずに嗚咽を漏らしている。
「……知美さん。……随分と、不細工な『努力』をなさいましたわね」
「……ごめんなさい……。でも、私……いい点を取らなきゃ、ここにいちゃいけないって……。先生に、見捨てられると思って……」
「おんどれ、ええか」
麗華の広島弁が、怒号に沸く教室を一瞬で鎮圧した。
「……点数が取れんと見捨てるような、不細工な教育者に私が見えるんか!!」
麗華は、知美の解答用紙を、皆の前でゆっくりと破り捨てた。
「……不正をしたあんたの解答は、紙屑以下のゴミじゃ。……じゃがな、知美さん。……あんたが本当に汚したのは、A組の評価でも、学園の規則でもない。……『自分は、正々堂々と戦うに値する人間だ』という、あんた自身の誇りなんよ!」
麗華は、責め立てていた他の生徒たちをも、鋭い眼光で射抜いた。
「……そして、仲間の過ちを『評価が下がる』という数字の都合でしか批判できんあんたたち。……あんたらも、結局は数字に魂を売ったままの、不細工な亡者の集まりですわ!」
麗華は加藤に目配せをした。
加藤は無言で、予備の「真っ白なテスト用紙」を一枚、知美の前に置いた。
「……知美さん。……今のあんたの点数は、文字通り『ゼロ』ですわ。……ですが、この空白の紙に、今のあんたが持っている『本当の志』を、一文字ずつ刻みなさい。……それが書けるまで、私はここを動きませんわよ」
知美は、震える手で鉛筆を握り直した。
クラスメイトたちも、自分たちの傲慢さを恥じるように、一人、また一人と席に座り直す。
「……先生。……俺たちも、もう一回……自分たちの『統治』をやり直させてくれ」
穂井田が、静かに頭を下げた。
女王の山口編、完結への最終試験。
不正という「毒」を、自立という「薬」に変える、麗華様の教育的統治がここに極まった。




