第47話:『静寂のコンチェルト(ロイヤル・ソリチュード)』
「……あら。随分と、不細工に『調和』が取れすぎていますわね」
学習発表会の準備に沸く3年A組の教室。
穂井田が机を運び、加藤が不器用ながらも装飾を手伝う。かつての「腐ったミカン」たちが、麗華の魔法によって、今やクラスを牽引する原動力となっていた。
出し物は、岩国の歴史と未来を融合させた**「錦大島レヴュー」**。
だが、その喧騒の境界線。
窓際の席で、一言も発さず、ただノートに細かな数式や旋律のようなものを書き込み続けている少女――優がいた。
彼女は、麗華が何を語りかけても、ただ静かに一礼するだけ。その瞳には、反抗でも絶望でもない、深い「透明な壁」が築かれていた。
「……先生。優のやつ、放っておいた方がいいぜ」
穂井田が、汗を拭いながら麗華の横に立った。
「あいつ、毛利本家が支援してる『特待生』なんだ。……勉強も音楽も天才的だが、誰とも喋らねえ。……俺たちみたいな『汚れ物』とは、住む世界が違うんだよ」
「……住む世界? ……穂井田さん、あなた、まだそんな不細工なランク付けにこだわっていらっしゃるの?」
麗華は優雅に優のデスクへと歩み寄り、扇子でトントンと、彼女のノートを指した。
「……優さん。……あなたの書いているその旋律。……随分と、不細工に『美しすぎる』わね。……まるで、外の世界の汚れを一切拒絶している、冷たい氷の城のようですわ」
優の手が、一瞬止まった。
けれど彼女は、顔を上げることなく、蚊の鳴くような声で答えた。
「……私は、毛利様に『完璧』であることを求められています。……発表会のような、不確定な感情が混じる場所に、私の居場所はありません……」
「おんどれ、ええか」
麗華の広島弁が、沸き立つ教室の熱気を一瞬で凍りつかせる。
「……完璧いうんはな、死んどるのと同じじゃ! ……不純物が混じり、歪み、それでも必死に響こうとするからこそ、音は『音楽』になるんじゃ。……あんたのその指先、毛利の道具にするためにあるんか? ……それとも、あんた自身の魂を震わせるためにあるんか、どっちじゃ!!」
教室中が静まり返る。
優の肩が、微かに、けれど激しく震え始めた。
「……九条院先生。……余計な『教育』は控えていただきたい」
廊下から、冷徹な声が響く。
毛利一族から送り込まれた教育監査官が、優をガードするように立ちはだかった。
「……あら。……ゴミ掃除が終わったと思えば、次は『過保護な飼い主』の登場かしら。……加藤さん、穂井田さん。……発表会のメインステージ、少し予定を変更しますわよ」
麗華は優のノートを奪い取ると、不敵な笑みを浮かべた。
「……優さんの『氷の旋律』に、このクラスの『泥臭い情熱』をぶち込みますわ。……最高に不細工で、最高に気高い、前代未聞のシンフォニー……見せて差し上げますわよ!」




