表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魂を誰にも統治させるな 〜悪役令嬢・九条院麗華の過激すぎる特別授業〜』  作者: 水前寺鯉太郎
N高編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/62

第42話:『飢えた獅子の晩餐(ロイヤル・ブレックファスト)』


山口県岩国市。錦川のせせらぎが聞こえるその街の片隅にある、古びたアパートの一室。

 麗華は、高級なシルクのブラウスの袖を優雅に捲り上げ、鼻をつくインスタント麺の残骸と、埃の積まったキッチンを冷徹な瞳で見つめていた。

「……あら。随分と、不細工な『砂漠』ですわね、敏治としはるさん」

 部屋の主、敏治は、学校指定のジャージを羽織ったまま、ベッドの端で小さく肩をすぼめていた。

 彼の母親は夜通し工場で働き、朝帰ってきては眠りにつく。食卓には千円札が一枚置かれているだけ。それが、彼の「日常」だった。

「……先生、放っておいてくれよ。……飯なんて、腹が膨れれば何だっていいんだ。……どうせ俺みたいなアイアン(落ちこぼれ)は、エネルギー効率さえ良ければ十分なんだから」

「お黙んなさい」

 麗華の閉じた扇子が、敏治の額を鋭く、けれど愛を込めて叩いた。

「おんどれ、ええか」

 麗華の広島弁が、狭いアパートの空気を震わせる。

「……自分の身体を、ただの機械マシーンだと思うてんじゃあないわ。……何を食べるかは、どう生きるかということ。……不細工な栄養失調で、ガタの来た魂を抱えて、何が『錦大島』の志じゃ!!」

 麗華は、持参していたバスケットから、厳選された岩国特産の食材を取り出した。

 泥のついた蓮根、獲れたての小魚、そして九条院家御用達の最高級の味噌。

「……さあ、見なさい。……統治とは、領土を広げることではありません。……目の前の一皿を、己の誇りに相応しいものへと作り変えることですわ」

 麗華は手際よく、蓮根を厚切りにし、香ばしく焼き上げた。

 地元の「岩国寿司」を簡略化しながらも、栄養価を極限まで高めた『九条院流・朝の特効薬モーニング・デトックス』。

 その香りが部屋に広がると、敏治の胃が、本能に突き動かされるように鳴った。

「……くらいんさい、敏治さん。……あんたの空っぽの胃に、山口の地の力と、九条院の気高さを叩き込んで差し上げますわ」

 敏治は、震える手で箸を取り、蓮根を口にした。

 シャキシャキとした食感と、深い出汁の旨味。彼が忘れていた「温かい食事」が、冷え切った身体の芯を溶かしていく。

「……うまい。……先生、これ……すごく、あったかいよ……」

 涙を流しながら食べる敏治の横で、麗華は優雅に椅子を引き、座った。

「……あら。当然ですわ。……私の庭で、飢えて枯れる花など一輪も認めませんから。……明日からは、あなたがこのキッチンを『統治』なさい。……レシピと予算管理は、私が厳しく指導して差し上げますわよ」

 その時。

 アパートの下に、数台の黒塗りの車が停まった。

 山口の政界を牛耳る名家、毛利もうり一族の息がかかった「学園監査官」たちが、麗華の「家庭訪問」を問題視して現れたのだ。

「……ふん。……不細工な邪魔者が来ましたわね。……敏治さん、食事はゆっくり続けなさい。……外のゴミ掃除は、私が片付けてまいりますから」

 女王の山口編、第一の戦い。

 それは、少年の朝食を守るための「聖戦」から始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ