表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魂を誰にも統治させるな 〜悪役令嬢・九条院麗華の過激すぎる特別授業〜』  作者: 水前寺鯉太郎
F高編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/62

第40話:女王の贈る言葉


 三月、岡山の空は涙を堪えるように白く霞んでいた。

 藤ヶ峰高校の講堂。厳かな式典が終わり、生徒たちがそれぞれの教室へ戻る中、3年B組だけは異様な熱気と、そして深い沈黙に包まれていた。

 ガラリと扉が開く。

 そこには、産後の静養を終えた雪乃が、胸に小さな歩を抱いて座っていた。

「……先生。約束通り、みんなで卒業しに来ました」

 その隣には、誇らしげに、けれど少し照れくさそうに彼女を支える保。

 そして、最前列には空席が一つ。そこには、洋一の遺影と、彼が最後まで解き続けていた数学のノートが置かれていた。

「……あら。随分と、不細工に『賑やか』な教室ですわね。……卒業式だというのに、赤ん坊の泣き声と、死者の沈黙が同居しているなんて」

 麗華は教壇に立ち、いつものように扇子をパァン! と鳴らした。

 しかし、その瞳はいつになく潤み、けれど凛とした光を失っていなかった。

「お聞きなさい。……一年前、あなたたちは、誰かが決めた『スコア』という名の鎖に繋がれた、名もなき囚人でしたわ。……プラチナの傲慢、アイアンの絶望。……そのどちらもが、自分の価値を他人に委ねた、不細工な逃げ道に過ぎませんでした」

 麗華は一人一人の顔を見つめた。

 英語で自分を証明したはるみ。長ランを脱ぎ、一人の男として立ち上がった近藤。そして、命の全責任を引き受けた保と雪乃。

「おんどれ、ええか」

 麗華の広島弁が、最後の手向けとして、温かく、力強く響く。

「……外の世界は、この学校以上に不条理で、不細工な場所じゃ。……また誰かが、あんたらにランクを付け、数字で切り捨てようとするかもしれん。……じゃが、そんな時は思い出しんさい。……あんたらの胸には、九条院麗華が認めた、世界で一番硬い『誇り』のバッジが刻まれとるんじゃ!」

 麗華は教壇から降り、洋一の遺影の前に立った。

「……洋一さん。……あなたの『満点』は、東大の掲示板ではなく、今日、ここに全員が揃ったこの景色にありますわ。……不細工な死を選んだあなたを、私は決して許しません。……ですが、あなたが愛したこのクラスを、私は一生、忘れませんわよ」

 麗華は、窓際で腕を組んでいた加藤に向き直った。

「……加藤さん。……準備はよろしいかしら? ……女王の退場には、相応しい『風』が必要ですわ」

「……へっ。……仰せのままに、ババア」

 加藤が、窓を全開にする。

 春の突風が吹き込み、生徒たちが書き溜めた「交換日記」のページが、羽ばたく鳥のように舞い上がった。

「……さあ、行きなさい! ……自分の人生の、たった一人の『統治者』として! ……不細工に、泥臭く、けれど誰よりも気高く、その足で歩み続けなさいな!!」

 「「ありがとうございましたッ!!」」

 生徒たちの咆哮が、岡山の空を突き抜けた。

 麗華は、涙を扇子で隠しながら、真っ直ぐに廊下を歩き出す。

 背後から聞こえる、赤ん坊の力強い産声。

 それは、数字の支配が終わった、新しい時代のファンファーレだった。

 岡山県立藤ヶ峰高校、3年B組。

 女王が去った後の黒板には、一言だけ、力強い筆致で書き残されていた。

 『おんどれ、ええか。――死ぬ気で、幸せになりんさい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ