表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魂を誰にも統治させるな 〜悪役令嬢・九条院麗華の過激すぎる特別授業〜』  作者: 水前寺鯉太郎
F高編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/62

第36話:『女王の祝詞(ラスト・チア)』

二月。窓の外では、岡山の柔らかな陽光が、校庭の隅に残る雪を静かに溶かしていた。

 3年B組の教室。そこには、一年前の「死んだ魚のような瞳」をした生徒たちの姿は、もうどこにもなかった。

 プラチナも、アイアンもない。あるのは、自分の足で明日へ踏み出そうとする、若き「表現者」たちの顔だ。

 学年主任や各教科の教師たちが、事務的な「諸注意」を終えて去っていく。

 最後に教壇に立った麗華は、ゆっくりと扇子を閉じ、教卓の上に置いた。

 彼女は今日、日傘も、派手な装飾品も身につけていない。ただ一人の「教師」として、教え子たちの前に立っていた。

「……皆さん。……長い、不細工な一年でしたわね」

 麗華の声が、静まり返った教室に染み渡る。

「……スコアに怯え、ランクに縋り、自分自身の価値を他人の物差しに委ねていたあなたたちが、今、こうして自分の意志で『戦い』に赴こうとしている。……その姿こそが、私の庭で咲き誇った、何よりの勝利の証ですわ」

 麗華は、窓際で求人票を握りしめる保、そして丸山家から一時的に登校した雪乃、さらには長ランを脱ぎ、清々しい顔で参考書を開く近藤へと、一人ずつ視線を送った。

「……お聞きなさい。……これから向かう場所で、あなたたちは再び『数字』で評価されるでしょう。……ですが、忘れないで。……合格しようが、不採用になろうが、あなたの『気高さ』は、そんな紙切れ一枚で揺らぐものではありません」

 麗華は、ふっと優しく微笑んだ。

「おんどれ、ええか」

 最後の、柔らかな広島弁。

「……道は、自分で切り拓くもんじゃ。……迷うたら、ワシの言葉を思い出しんさい。……あんたらは、誰が何と言おうと、九条院麗華が認めた、世界で一番『気高い薔薇』なんじゃから」

 チャイムが鳴り響く。

 生徒たちが一人、また一人と、荷物をまとめて立ち上がる。

 麗華は教室の出口に立ち、一人一人の目を真っ直ぐに見つめ、その背中を、そっと言葉で押し出した。

「……がんばれ」

 短く、しかし魂を揺さぶる一言。

 「先生、行ってきます!」「……ありがとな、ババア!」「……私、負けません!」

 生徒たちの叫びが、廊下にこだまする。

 最後の一人が教室を去り、静寂が戻った放課後。

 教壇に残された麗華の元に、加藤が静かに歩み寄った。

「……へっ。……『がんばれ』かよ。……女王様らしくねえ、平凡な言葉だな、先生」

「……あら。平凡だからこそ、一番深く刺さることもありますのよ、加藤さん」

 麗華は、再び扇子を手に取り、パァン! と開いた。

「……さて。……生徒たちの背中を見送る『義務』は果たしましたわ。……次なる仕事は、彼らの進む道を塞ごうとする『九条院雅人』という不細工な障害物を、粉々に粉砕することですわね」

 校門の外。そこには、雅人が差し向けた、真っ黒な高級車が列をなして待ち構えていた。

 「卒業」という名の、最終決戦。

 女王は、愛用のスポーツカーに乗り込み、アクセルを全開にした。

「……さあ、参りましょうか。……岡山編の、本当の『不細工な結末』を書き換えに!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ