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『魂を誰にも統治させるな 〜悪役令嬢・九条院麗華の過激すぎる特別授業〜』  作者: 水前寺鯉太郎
F高編

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31/62

第31話:『女王の独演(マジェスティ・オラトリオ)』

藤ヶ峰高校の講堂。

 千人を超える生徒たちの沈黙は、期待ではなく、剥き出しの「拒絶」に満ちていた。

 最前列に陣取るプラチナの面々は、手元の端末で「九条院麗華・不信任投票」の準備を整え、後方のアイアンたちは、自分たちのスコアがこれ以上下がるのを恐れ、亀のように首をすくめている。

 「……あら。随分と、不細工な熱気ですわね。まるで、自分たちの権利を守るために、他人の命を差し出そうとする、小利口な生贄の集まりのようですわ」

 麗華は、一切の迷いなく壇上に立った。

 スポットライトを跳ね返す、深紅のドレスに白い手袋。その手には、生徒たちが贈った、あの少し歪な扇子が握られていた。

「九条院先生! 早くその『不純物』を追い出してください!」

「僕たちの進学スコアに傷がついたら、どう責任を取るんだ!」

 一条の合図と共に、プラチナの生徒たちから罵声が飛ぶ。

 麗華は、優雅に扇子を広げ、会場を一喝した。

「お黙んなさい!!」

 マイクを通さない、地声を轟かせたその一言に、講堂の空気が震えた。

「……スコア? 責任? 笑わせないでくださいな。……あなたたちが必死に守ろうとしているその『数字』、一体誰が、何の権利で決めたものですの?」

 麗華は壇上の端まで歩み寄り、最前列の一条を見下ろした。

「……一条さん。あなたは、雪乃さんと保さんの勇気を『管理不足』と切り捨てた。……ですが、お聞きなさい。……今、この瞬間も、雪乃さんの胎内では、あなたたちが束になっても制御できない、神秘的な『統治』が行われています。……一つの細胞が、心臓になり、脳になり、指先になる。……それは、この学校の貧弱なサーバーでは計算し尽くせない、宇宙で最も高度な『資産』ですわよ」

「そんなのは、ただの生物学的な現象だ! 社会的な価値はない!」

 一条が食い下がる。

「ほう。価値がない? ……おんどれ、ええか」

 麗華の広島弁が、重圧を伴って会場を圧した。

「……自分を産み、育ててくれた親の苦労も知らんと、数字の羅列に自分の価値を委ねとるような『空っぽな器』が、命の価値を語るな! ……雪乃さんと保さんは、明日をも知れんアイアンの身で、その命の全責任を引き受ける覚悟を決めたんじゃ。……その『気高さ』に比べりゃ、あんたらの守っとるプラチナのバッジなんぞ、ただのメッキの付いたゴミじゃろうが!!」

 会場に、戦慄が走る。

 麗華は、袖に控えていた保、そして少しふっくらとした腹部を抱えた雪乃を、壇上へと招き入れた。

「……さあ、お言いなさい。……あなたたちが、その命に、どんな『未来のバランスシート』を描いているのか」

 保が、震える足でマイクの前に立った。

「……俺たちは、怖いです。……でも、逃げません。……この子が生まれた時、胸を張って『お父さんだ』と言える自分でありたい。……スコアなんて、もういりません。……俺は、俺たちの『家族』を、俺の力で守りたいんだ!」

 雪乃が、保の手を握りしめる。

 アイアンの生徒たちの間から、嗚咽が漏れた。

 「効率」という鎖で繋がれていた彼らの心に、保の叫びが、熱いくさびとして打ち込まれたのだ。

 麗華は、会場全体を見渡した。

「……さあ。それでも彼らを『削除』したいというのなら、どうぞ、その不細工なボタンを押しなさいな。……ただし、その指先には、一人の人間の未来と、新しい命の産声を、永遠に奪ったという『不滅の負債』が刻まれることを、忘れないように」

 誰も、動かなかった。

 一条の端末に表示された「不信任投票」の数字は、ゼロのまま、静かに明滅していた。

 女王の独演。

 それは、岡山の冷たいシステムを、命の咆哮で書き換えた瞬間だった。

「……さて。お説教はここまでですわ。……雪乃さん。……これからは、少し『不細工な騒がしさ』に慣れていただかなくてはなりませんわね」

 麗華の微笑みは、勝利ではなく、守り抜いた命への慈愛に満ちていた。

 しかし、舞台袖で腕を組む加藤の元に、一台の黒い車が近づく報告が入る。

『――九条院雅人。岡山県庁に到着』

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