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『魂を誰にも統治させるな 〜悪役令嬢・九条院麗華の過激すぎる特別授業〜』  作者: 水前寺鯉太郎
F高編

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第28話:黄金の沈黙


 F高の教室は、相変わらず不気味なほどの静寂に包まれていた。

 生徒たちは皆、虚空を見つめるか、あるいは手元の端末で自分の「スコア」を確認することに余念がない。

 そこへ、麗華が大きな籠を抱えて現れた。中には、色とりどりの、しかし気品のある装丁のノートが詰まっていた。

「……おはようございます。不細工な無音ですわね。まるで、言葉を忘れた案山子の集まりのようですわ」

 麗華は教壇に籠を置くと、扇子をパァン! と鳴らした。

「……今日から、皆さんには私と『交換日記』をしていただきます。……スコアでも、ランクでもない。……あなたの『不細工な本音』を、その手で綴っていただきますわ」

 教室に動揺が走る。

「……日記? そんなの、効率が悪すぎる」

「書いた内容がスコアに影響したらどうするんだ……」

 プラチナの生徒たちが冷笑し、アイアンの生徒たちは怯えて顔を見合わせた。

「……あら。私の前で、そんな不細工な計算をなさらないで。……この日記は、私とあなただけの『聖域』です。……誰にも見せず、誰にも縛られない。……自分の価値を、自分自身の言葉で鑑定する修行だと思いなさいな」

 麗華は一人一人の席を回り、丁寧にノートを手渡していった。

 拒絶する者、戸惑う者。その中で、窓際の席に座るアイアンの少女、**浅井小夜あさい さよ**の前に立った時だった。

「……浅井さん。あなたのノートは、この深い青色にいたしましたわ。……夜明け前の空のように……」

「……あ……あ、りがとう……ござい……」

 小夜が顔を上げた瞬間、麗華は眉をひそめた。

 その頬は土色を通り越し、唇は紫色に震えている。

 ガタンッ!!

 小夜の体が、糸の切れた人形のように崩れ落ち、床に叩きつけられた。

「浅井さん!!」

 麗華が咄嗟に駆け寄り、彼女の頭を抱きかかえる。

 小夜の手からは、先ほど渡されたばかりのノートが滑り落ち、その横に、彼女が隠し持っていた「あるもの」が転がった。

 それは、大量の「高濃度カフェイン錠剤」と「睡眠抑制剤」の空きパッケージだった。

「……ほう。……これほどの劇薬を、こんな子供が……?」

「……あ、あはは。……九条院先生、そんなに驚かないでくださいよ」

 教壇の方から、プラチナのバッジを付けた生徒会長・**一条いちじょう**が、冷徹な笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

「彼女、アイアンから脱出するために、この一ヶ月、睡眠時間を削って学習スコアを稼いでいたんですよ。……F高の『黄金の沈黙』を守るためには、それくらいの代償は当たり前です。……倒れたのは、彼女の『自己管理不足』。……当然、さらにスコアは減点ですね」

 麗華の瞳に、広島の夕陽よりも深い、怒りの炎が宿った。

「……お黙んなさい、一条さん」

 麗華は小夜を抱きかかえたまま、地を這うような広島弁で唸った。

「おんどれ、ええか。……子供が命を削らんと維持できんような『秩序』が、何の誇りになりますの。……ワシの目の前で、この子が流した『鉄の涙』を、不細工な数字で片付けよういうんなら……」

 麗華は立ち上がり、抱えていた籠のノートを一条の足元に叩きつけた。

「……この学校のシステムごと、ワシが根こそぎ『不渡り』にして差し上げるわ!!」

 小夜を背負い、保健室へと疾走する麗華。

 その背中を、加藤が複雑な表情で見つめていた。

「……へっ。……岡山編も、初っ端から血の匂いがしてきたじゃねえか、先生」

 女王の怒りは、岡山の冷たい「プラチナ・ルール」を、内側から爆破しようとしていた。

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