第27話:『鉄の涙と銀のバッジ(アイアン・レジスタンス)』
第27話:『鉄の涙と銀のバッジ(アイアン・レジスタンス)』
岡山県立藤ヶ峰高校の廊下には、不気味なほどの「秩序」が流れていた。
胸元に輝く「プラチナ」のバッジを付けた生徒が通れば、くすんだ銀色の「アイアン」バッジを付けた生徒たちは、道を開けて深く頭を下げる。
それがこの学校の「憲法」であり、逆らうことは「退学」と同義のスコア減点を意味していた。
「……あら。随分と、不細工な行列ですわね。葬儀の参列者でも、もう少し活気がありますわよ」
麗華は日傘を優雅に回しながら、廊下の中央を堂々と歩いていた。
その背後には、他校の制服(T校のまま)を崩して着た加藤が、肩で風を切って続いている。
「おい、ババア。こいつら、死んでんのか? 挨拶しても、怯えて逃げやがる」
その時。
廊下の角で、一人の「アイアン」の少女が、誤って「プラチナ」の少年の肩に触れてしまった。
「……あっ、すみません! 申し訳ありません!」
少女は、真っ青な顔をして床に膝をつき、必死に謝罪した。
対するプラチナの少年は、嫌悪感を露わにして、自分のブレザーをハンカチで拭った。
「汚らわしい。……アイアンのゴミが、僕に触れるなんて。……スコア、マイナス50だな。君の人生、これで『終了』だ」
少年が胸元のデバイスを操作しようとした、その瞬間。
パァン!!
麗華の扇子が、少年の手首を鋭く叩いた。
「い、痛いっ! 何だ、あんたは!」
「……あら。失礼。あまりに不細工な『選民意識』が視界に入ったもので、つい扇子が動いてしまいましたわ」
麗華は冷徹な瞳で、プラチナの少年を見下ろした。
「教員か!? 邪魔をするなら、あんたの資質スコアも報告して……」
「お黙んなさい」
麗華の広島弁――いや、女王の断罪が響く。
「……数字でしか自分を証明できない者が、誇りある者を『ゴミ』と呼ぶなど、片腹痛いですわ。……あなたのそのバッジ、今の打撃で少し歪みましたわね。……歪んだプライドと一緒に、捨ててしまいなさいな」
麗華は、震えているアイアンの少女、**佐山**の前に跪いた。
少女の目からは、静かな涙がこぼれ落ちている。それは、悲しみではなく、支配に屈し続ける自分への絶望。
「佐山さん。……お聞きなさい。……あなたの価値は、その胸のくすんだ銀色のバッジが決めるのではありません。……その瞳に宿る、不細工な『悔しさ』が決めるのですわ」
麗華は、佐山の胸元の「アイアン・バッジ」を、指先で優雅に弾いた。
「おんどれ、ええか。……鉄はな、叩かれりゃ叩かれるほど、強く、鋭い『剣』になるんじゃ。……いつまでそのバッジを、自分を縛る鎖だと思うとるん。……今日からそれは、あんたがこの『監獄』を切り裂くための、反逆の証にしんさい!」
麗華は、プラチナの少年が持っていたスコア管理デバイスを取り上げると、無造作に床に叩きつけ、ハイヒールで踏み砕いた。
「ひっ……! 狂ってる! 狂ってるぞ、この新任!」
逃げ出すプラチナの生徒たち。
廊下のあちこちで、アイアンの生徒たちが息を呑んでその光景を見つめていた。
「……先生。……私、剣になれるんでしょうか」
佐山が、震える声で麗華を見上げた。
「……あら。期待していますわよ。……私の庭に、錆びたままの花など一輪もございませんから」
麗華が立ち上がると、加藤がニヤリと笑った。
「……面白くなってきたじゃねえか、ババア。……次はどのバッジを叩き壊す?」
しかし、校内放送が冷徹に響く。
『――九条院先生。規律違反により、あなたの「統治権」を一時停止。……即刻、理事長室へ。……プラチナの執行部が、あなたを「待機」しています』
女王の岡山上陸、第一日。
システムという名の巨神への、宣戦布告。




