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『魂を誰にも統治させるな 〜悪役令嬢・九条院麗華の過激すぎる特別授業〜』  作者: 水前寺鯉太郎
T校編

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25/62

第25話:女王のラスト・ダンス(グッバイ、マ・ジェスティ・アゲイン)

広島県庁の最上階、重厚な扉に閉ざされた特別会議室。

 そこでは、広島の全教育機関に影響力を持つ理事たちが、九条院雅人の冷徹な支配下で、一人の教師の「処刑」を決定しようとしていた。

「――以上をもちまして、九条院麗華の教員免許剥奪、および広島からの永久追放案を可決いたします」

 雅人が、汚れ一つない手袋で書類に判を押そうとした、その時だった。

 バタンッ!!

 会議室の扉が、凄まじい勢いで蹴り開けられた。

 現れたのは、息を切らした拓哉、さくら、小椋、そして加藤。3年B組の代表たちだけではない。

「……待ちなさいな。その不細工な判決、私が異議を申し立てますわ」

 廊下の奥から響く、聞き覚えのある高笑い。

 現れたのは、かつて麗華と敵対し、そして敗れた監察官・一ノ瀬沙織だった。

「……沙織? あなた、何をしに……」

 雅人が眉をひそめる。

「あら、雅人さん。私は『公正な監察』をしに来ただけですわ。……九条院グループによる不当な土地買収、および教育委員会への収賄。……そのすべての証拠、私のネットワークで確保いたしました」

 沙織の背後から、タブレットを操作しながら現れたのは、千尋だった。

「……先生。お待たせしました。……安芸重工の残党、T校の三公、そして卒業した旧B組のOBたち。……広島中の『麗華シンパ』が、今、九条院グループの株を、一斉に売り浴びせていますわ。……あなたの言う『資産価値』、今、紙屑同然に暴落中です」

 雅人の顔から、初めて余裕が消えた。

「……バカな。……たかが、広島のガキ共が集まったところで……!」

「お黙んなさい、雅人」

 人混みを割り、麗華が静かに、しかし圧倒的な威圧感を持って歩み出た。

 彼女は、かつて本家から与えられた高価な日傘ではなく、生徒たちが卒業祝に贈ってくれた、少し歪な手作りの扇子を手にしていた。

「おんどれ、ええか」

 麗華の広島弁が、静まり返った会議室に雷鳴のように響く。

「……九条院の名がなけりゃ、ワシは何もできん思うたんか? ……笑わせんじゃねえよ。……ワシがこの一年で築いたんは、血筋じゃあない。……踏まれても、泥をかけられても、自分の足で立ち上がる『薔薇たちの根っこ』じゃ!」

 麗華は雅人の目の前に立ち、その手から判を奪い取ると、無造作に窓の外へと放り投げた。

「……雅人。あなたは、孤独な王様として、その冷たい椅子に座っていなさい。……私は、私の愛したこの『不細工で気高い庭』と共に、新しい明日を統治しに行きますわ」

 理事たちが、雅人の失脚を悟り、次々と席を立つ。

 雅人は、震える拳を机に叩きつけ、独り取り残された。

 夕暮れの校門前。

 3年B組の生徒たち、そしてT校の面々、さらには広島中の「麗華に救われた人々」が、彼女を囲んでいた。

「……先生。本当に行っちゃうの?」

 さくらが、涙を浮かべて問いかける。

 麗華は、優雅に扇子を広げ、広島の赤い空を仰いだ。

「あら。卒業式は、昨日で終わったはずですわよ。……私は、次の『不細工な場所』を掃除しに行かなくてはなりませんもの」

 麗華は、愛用のイタリア製スポーツカーに乗り込んだ。

 助手席には、なぜかふてぶてしい顔をした加藤が座っている。

「……おい、ババア。俺も連れてけよ。……あんたの『統治』の続き、特等席で見せてもらうぜ」

「……不作法な。ですが、荷物持ちくらいには使って差し上げますわ」

 麗華はアクセルを踏み込んだ。

 「……皆さん。最後にもう一度だけ、この言葉を贈りますわ」

 走り去る車窓から、麗華の凛とした声が響く。

「――どんな理不尽な風が吹こうとも、胸を張って、自分の人生の『女王』であり続けなさいな!!」

 夕陽に向かって消えていく、真紅のマシン。

 広島の風が吹くたびに、人々は語り継ぐだろう。

 かつてこの地に、誰よりも恐ろしく、誰よりも美しく、そして誰よりも「愛」に不細工だった、一人の悪役令嬢がいたことを。

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