第13話:気高き薔薇たちの戴冠(グラデュエーション)
「……さて、私も『更生』の続きを始めなくてはなりませんわね」
誰もいない教室。麗華は教員免許と辞職願を、主を失った教卓に置いた。
かつて「悪役」として追放された彼女が、この広島で見つけたのは、失ったはずの「王国」よりも遥かに強固な、生徒たちとの「絆」という名の統治圏だった。
校門を出ると、さくら、拓哉、千尋が待っていた。
「先生! 本当に行っちゃうの?」
「……追いかけっこは、昨日で卒業したはずですわよ、河野さん」
麗華は日傘を差し、立ち止まる。
「先生。俺たち、あんたに恥じない薔薇になるよ」
「期待していますわ、佐々木さん。……千尋さん、あなたの『計算』を、次は誰かの幸せのために使いなさいな」
麗華は一度だけ、眩しそうに彼らを見つめ、そして背を向けた。
広島駅のホーム。
発車のベルが鳴る中、麗華はさくらから手渡された包みを開いた。
そこには、ソースの匂いと共に、歪な文字で書かれたメッセージがあった。
『麗華先生へ。お好み焼きは、焦げたところも味なんです。あんたの傷も、全部ひっくるめて、私たちはあんたが大好きですわ』
麗華は扇子で顔を隠し、一口、その「不細工な味」を噛み締めた。
「……味が、濃すぎますわ。……広島の愛は」
新幹線が加速する。
窓の外には、教え子たちが屋上で振る、2年B組の学級旗が見えた。
九条院麗華は、静かに扇子を閉じ、新しい戦場――次なる「教育」の地へと、優雅に視線を向けた。




