38.新たな命(エピローグ)
あの腐れ魔女め、いい方法があるから何て言いやがったから思わず乗っちまったけど、まさかあんな目にあわされた上にこの仕打ちかよ。
シンデレラに新たな魂が宿ったときに押し出されるだと? そりゃたしかに押し出されたが、その先は当人の腹の中じゃないか。まったく、どこからどこまでが仕込みでどれが偶然なのかわかりゃしない。
しかもこの肉体には元々の魂や精神が入ってないんじゃないか。まあそれは当たり前だろうが、まさか本能的にどうにかなると思ってたのに甘かったぜ。
まあでも双子だとは驚いたが助かったってモンだ。おかげで生まれてすぐ何をすりゃいいか教えてもらえたからな。
でもまてよ? 双子ってことはもしかしたらオレはまた女になる可能性があったっことか? あの魔女は腐ってるだけじゃなく適当過ぎる。まさかまた同じような目にあわせようとしたんじゃないか?
確かに消滅するよりははるかにいいと思って、彼女の中に留まることを望んだのはオレだよ? でもアノ最中だけはやっぱりやめときゃよかったと何度思ったことか。
しかもよくよく考えりゃ当たり前だが、ソノ行為が一回で済むはずなかったぜ。しかもあの二人、覚えたてで良さに気づ―― いや、この記憶はこの人生では思い出さないようにしないといけない。
なんといっても今度は正真正銘まっさらな赤ん坊からのやり直しなんだから、おかしな記憶に引っ張られたらもったいないってもんさ。
そうは言いつつ罪悪感を感じながらも飯は食わないとならないわけだが…… いったいオレはどういう思いで元自分に吸い付かなきゃならないんだよ……
まあでもまだ目が見えてないところが救いかもしれないな。隣りにいるらしい姉だか妹だかと足並みあわせて生きていけば何とかなるだろう。
それにしてもなんだか騒がしいな。とはいっても耳もちゃんと聞こえないから雰囲気でそう感じてるだけだけどさ。これっていつごろ五感がはっきりしてくるもんなんだろう。
おいおい、まだ飲んでるのに引っぺがすなんてずいぶん荒っぽいことするなぁ。なんとなく気持ち的にはオレが兄貴な気がするから妹を守ってやらないとな。
と言っても今のオレにはせいぜい泣きわめくくらいしかできないが……
「うえええーん、ああーん、びえええん(こんなもんか?)」
「おおよしよし、坊や、そんなに泣かないのですよ? 殿下! これを見てください! 妹と引き離されて泣き出してしまったではございませんか。お願いです。我が娘をお戻しください!」
「シンデレラ…… もちろんこの子はキミの娘だし僕の娘であることは疑う余地はない。しかしさすがにこれでは…… 産婆たちにも知られてしまっているのだから隠し通せるものではないよ?」
「むしろ隠す必要がどこにあると言うのですか? 角や尻尾の一本や二本がなんだと言うのです! 人間だって昔は猿だったと聞きます。少々変わっているところがあるとしてもこれは私が命がけで産んだ子に違いはありません!」
おいまて、今なんと言ったんだ? よく聞き取れないが角とか言ってなかった? まさかそれって妹のことを言ってるんじゃないだろうな?
もしかしてオレが王子の子供で妹が悪魔の子なんてオチじゃないだろうな。そんなことがあり得るのか? おいババア出てこい! どうなってるのか教えろ!
おい、聞こえてるんだろ!? 出てきてなにがどうなってるのか説明しろ! これが予定通りなのかなにかおかしなことが起こっているのかくらい聞かせてくれてもいいじゃないか!
ん? 待てよ? 確かあの魔女が言ってたな。オレたちが悪魔と呼んでいたやつらも分類上は人間だって。と言うことは妹に角や尻尾があってもおかしくないのか?
いや、やっぱりおかしいだろ。それで引き離したってことはまさか――
ダメだダメだダメだ! 気持ちはわからなくもないし、王子は自分の娘だと思っていないのかもしれない。でもそれはダメだ!
止めろ! シンデレラ! 全力で止めるんだ! って言っても今さっき子供産んだばっかなんだからなにかできるはずもないか……
「お願いです殿下! わたしの胸に娘をお戻しください。この手に抱かせてくださいませ。万一の時には必ず自分で責任を―― ですからそれまではこの腕の中に……」
「もしもの時にはキミがつらい思いをするのだよ? それなら誰もが少しずつ傷つくだけで済む今のうちに始末をつけるべきだと僕は考える。だが―― 同時に娘を愛しく思う気持ちは嘘ではないんだ」
「わかっております。殿下も苦しんでおられることを十分理解しております。だからこそこうして強くお願いしているのでございます。長くとは申しません。せめてこの子に自我が芽生え始めるころまでで構いません」
「―――― そこまでいうのなら仕方ない。だがどんなにつらい結果になっても必ず約束は守るのだよ? もちろん最終的には僕が手を汚そう。親の責任としてね」
「ありがとうございます殿下! それではこの子が三歳を過ぎ、自分の名前や親のことを認識できるようになったとき以降、おかしな考えを持つことがあったらその時に、と言うことでいかがでしょうか」
「うむ、妥当な線だな。それでそれまで、いや一生かもしれないが、この子の取り扱いについてはどう考える? まさかおおっぴらに普通の娘として社交界へ出すわけにはいかないだろう?」
「さようでございますね…… 成長に従い見た目が変わっていくのかどうかにも寄るのではないでしょうか。しっぽは肌着や衣類に隠れますから心配いらないかと。問題は角なのですが、今とそれほど変わらない大きさのままであれば髪型で十分隠せるのではございませんか?」
「確かにそうかもしれん。控えめに考えれば耳の上にこぶができている程度と言えなくもない。多少骨格に問題があるが…… そういうことだな?」
「はい、我らが娘はかわいそうに少々個性的で趣のある顔で産まれてきてしまっただけなのです。でもよく見れば目鼻口はきれいに揃っておりますし、きっと化粧映えする良い子に育つでしょう」
どうやら妹は間引かれずに済んだようだ。ただし条件付きと言うことらしい。ひとまずは安心だが、確かに不安は残るなぁ。これはオレがしっかりと教育していかなければならないだろう。
それともうひとつ、なぜかはわからないが、懸命に聞こうとしていたらなんとなく内容が理解できる程度には聞こえてきた気がする。これも魂の年齢が高いからなせることなのか? それとも赤ん坊でも耳は聞こえるんだろうか。
おそらく何度目かの赤ん坊経験のはずだが、当然のようになにも覚えていないぜ。なんと言ってもこんなに記憶が残ったままなのは始めてっぽいからな。
よし決まった! この人生の目標は妹を真っ当な人間として導くことだ。まだ名前も決まってない同士だけど、妹よ? 安心しろよ、オレがきっと守ってやるからな。
「殿下! ほら、ご覧くださいませ! 坊やがわたしのお腹をさすってくれておりますよ? この子ったら自分がどこから生まれてきたのか知っているのかしら? それにこの反対の手! 妹の手を握ろうとしているじゃありませんか! なんてかわいらしいのでしょう」
「うむ、そうだな。この様子ならきっと兄妹で力を合わせ王国を背負うべく『まっとうな人間』に育ってくれることだろう。僕たちはその手助けをしながら見守っていこうじゃないか」
「はい、殿下の勇気にまた助けられたように存じます」
「またキミはすぐにそうやって私を喜ばせてくれるね。だがそれは私も同じであると言っておこう。今回の件ではキミの強さを再認識させてもらったよ。やはり強い心を持っているキミは心身ともに美しい」
「殿下―― お慕い申し上げております。これからもずっと――」
まったくこの二人は目を離すとすぐにこれだ。まあこれからは二人がどれだけ愛し合おうがオレに実害はない。好きなだけやってくれってとこだ。
それとシンデレラのことは早めにママと呼んでやるか。つい二年前までは自分だったってのが気にはなるが、今はこのお腹から産み落としてもらったわけだからな。
なんか知らないが、こうして腹をさすっているとやけに心地いいぜ。これが母性ってやつなのかね。ふあぁ、眠いむにゃむにゃ――
『ほら相談役? ご覧ください。この子ったらこんな小さいのにあくびまでするんですよ? ふふふっ、かわいいですよねぇ』
『さようでございますなぁ。お嬢様もなんのなんの、きっと姫に似て美しく育つことでしょう。これは早々に殿下の心配の種となりましょうな』
『なにをおかしなことを。娘には最高最強の男を探してやるとも。きっと容姿など大した問題ではない、そんな時代がやってくるに違いないさ』
『うふふ、この子たちにも聞こえているのでしょうか。二人とも急に笑顔になりましたよ? この子たちのためにも頑張らないといけませんねぇ』
オレは夢うつつの中で大人たちの会話を聞いていた。これからどんな将来が待っているかわからないが、悪魔と戦ったことを考えれば大したことはないだろう。
そしておそらく現段階で最強の敵は―― この―― 睡魔、な、なの―― だ――
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