33.最後の
次から次へと魔界門の中へ瓦礫が投げ入れられていく。一つ放り込んだだけではよくわからなかった黒い輝きは、立て続けに行われていることにより、誰の目にもはっきりと確認できるようになっていた。
これが本当に修復を示しているのかはわからない。しかしシンデレラたちにはもうすがるものが何もないのだ。とにかく片っ端から投げ入れていくが、あれだけ集めてあった瓦礫が見る見るうちに減って行くと徐々に心細くなっていく。
確かに黒く輝いて揺らぎをひきつけるが、色以外の見た目は何も変わっていない。それでも何か起こることを信じて部隊員と騎士たち総出で拾っては投げ拾っては投げと繰り返していった。
その時、部隊員の一人が大声で叫んだ。
「ひっ、姫様ああ! こちらへおいでくださいませんか!」
「ハルマーさん!? 突然大声を出していったいどうしたと言うのですか? まさか何か異変がおきてしまったのでしょうか。危険を感じたなら下がってください!」
「違うのです、これをご覧ください。この内側―― ここです。下のほうのここ」
ハルマーが指示したのは魔界門の内側の角辺り。そこをよく見ると、わずかに欠けが見えた。それは本当に小指の先ほどの小さな欠けではあるのだが、王国民全員にとっては未来へつながる大きな一撃だと言えよう。
「よく気づいてくださいました! これはもしかして勝利への転機になるかもしれません! 念のため再現できるかどうか試していただけますか?」
「はい! こうして岩を投げ入れる際に魔界門の内側へ投げつけたのです」
そういってからハルマーは頭の大きさほどの岩を持ち上げ、魔界門の門柱内側めがけて放り投げた。すると鈍い音を立てて跳ね返り、そのまま中央に広がる禍々しいうねりを蓄えた結界へと吸い込まれていく。
だが確かに岩が当たったか所に欠けができているのだ。これはもう見間違いだとか偶然ではない。完全に攻略の糸口と言っていい。歓喜の声が響き渡り皆も同じように叩きつけていくが、同じように欠ける場合とそうでない場合があるようだ。
「なるほど、黒く輝いた瞬間だけ損傷を与えられるようですね。しかも外側はなんともなく、あくまでこの結界のような幕の張っているすぐそばに限ると」
「では姫様、分担して二手でやってみたらよろしいのではないでしょうか」
「ええ、わたしもそう考えました。それではやってみましょう。片側からは普通に投げ入れてください。反対の部隊はできるだけ息をあわせて門の破壊を進めましょう」
部隊員たちの表情は一気に明るく力強くなった。もちろんシンデレラも笑みを蓄え始めている。さらに弓隊へは矢にロープを取り付けたものを発射させ、なるべく長く魔界門へ負担を与えることもやってみた。
これも効果があり、門の最下部内側はだいぶ削れてきている。それでも崩壊するには程遠そうで、相変わらずしっかりと聳え立っていた。それに手を緩めてしまったらきっと元へ戻ってしまう。
そう考えると、だんだんと薄暗くなっていく空の色に誰しも不安を感じ始めた。
「皆さん! まだ気を落としてはいけません。魔界門への攻撃はこの後出てくるであろう悪魔へ影響を与えるかもしれません。決して無駄と言うことはないはず、もう少し頑張りましょう!」
そういってシンデレラもいよいよ魔界門への攻撃を始めた。いつも使っている牽引棒で叩けば大きなダメージを与えられるかもしれないが、暗幕状の結界に触れた部分はこちらの世界から消え去ってしまう。それだけに無駄にはできない。
そのため、手近な丸太を担ぎ上げてなるべく取り込まれないような角度で叩くのだった。すると想像していたよりもはるかに大きなダメージが入り、部隊員たちから大きな歓声が上がる。
『これなら間に合うかもしれない! ええっと、次の丸太は――』
だいぶ減ってしまった丸太を門へと叩き付け次を拾いまた繰り返す。何本かで同じように攻撃していくうちに、とうとう陽が沈んでしまった。
月明かりのみとなってしまったため周囲に緊張が走る。いつものように暗幕から悪魔がにじみ出てくるのだろうと、シンデレラ以下一同が身構えた。
大勢が息をのみながら待ち構えている中、一つの丸い影が泡のように膨れ上がってくる。その丸い何かがプツリとしみだしたと同時に、魔界門の片側の門柱が折れた。




