表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラ転生の左遷リーマンは零時までの身体能力チートで異世界を救う  作者: 釈 余白(しやく)
第四章:魔界門を破壊せよ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/38

31.魔界門の謎

 はっきり言って悪魔たちはバカである。なんといっても情報や経験の共有がなされないことが大きい。つまりただ猛進してくるだけで翌日の別軍勢は前日までの負け方から何も学んでいないのだ。


 このことはシンデレラたち王国軍にとって、今のところ有利に働いている。なんと言っても一度成功した作戦が毎日効果的なのだから。


 こうして堕天使との戦いは初日に多大な犠牲を出したものの、それ以降は無傷の勝利を積み重ねることができた。


「それでは隊長、無念でしょうが今後はこちらで指揮をお取りください。できるだけ前で食い止めますので、その間にお身体を大事にしていただけると幸いです。」


「本当に申し訳ございません。姫様だけに負担を押し付けることになり、隊を預かっている身として恥ずかしく思います。だが満足に動けなくなった私なぞに弓隊の指揮をお任せくださいましたこと、感謝の念に堪えませぬ、ありがたく拝命し尽力を誓いましょうぞ」


「副隊長は突然の変更で不安もあるでしょうが、今まで通りに指示してもらえたらきっと大丈夫ですから自信をもって皆を率いてください。わたしのような若輩者にとってはお二方だけが頼りなのです」


 はっきりと意識を保ちその眼に力は宿ったままではあったが、隊長の片足は完全に動かなくなっている。おそらく切断することになるだろう。


 そんなつらい現実を目の当たりにして、シンデレラはこの戦いには絶対に勝たねばならないと決意を強くしていた。目の前でこんなに大勢の戦士が命を落としていくとは、到底考えていなかった自分の甘さを悔いてもいる。


『ですが反省は後回しです。問題は今晩からの悪魔がどのような者なのか。堕天使以上であることは間違いないでしょう。果たして次も堪え切れるのか……』


 すでに衣類も鎧もボロボロになっている。それほどダメージのないシンデレラでさえこんな装いである。一般の部隊員の様子は推して知るべしと言ったところだ。


 この状況を打破するためにはやはり魔界門を破壊しなければならないだろう。門さえなければ悪魔はやってこない。だがバリスタで丸太を撃ちこんでも門に吸い込まれてしまいダメージを与えられない。


 ここでシンデレラはふと思い出した。戦いが進むにつれて目の前の脅威に立ち向かうだけで精いっぱいだったこと、そしてここ数日は門への攻撃を試してすらいなかったことを。


『やってくる悪魔に変化があるのだから、魔界門の特性が変化していてもおかしくはない。やってみる価値はありそうだ』


 今は日中と言うこともあり皆は休息を取っている。もはや完全な昼夜逆転生活と言っていい。しかしシンデレラは、睡眠もそこそこに昼間はひたすら歩き続けていた。


 歩数計を目安にするとおよそ三千歩で隊長を凌駕するほどの身体能力となる。一万歩だと馬よりも早く走り、水牛二頭に力負けしないほどだ。夕方から夜にかけて戦いが始まると、歩数計のメーターははどんどん跳ね上がっていく。


 今日はすでに五千歩以上は歩いているため、いつも使っている馬車の牽引棒は軽く振り回せるくらいにはなっていた。


『よし、なにかしてみないことにはなにも始まらない。なんでも試してみることが大切なのだし、運よく破壊できたなら戦いに終止符を打つことができるわ』


 数日前には砦のように丸太を積み上げてあった魔界門の周囲だが、今はすっかり破壊されつくして更地に近くなっている。ところどころには壊れた鎧が転がり、地面には血の跡が残っていた。


 しかしシンデレラは目をそむけたりしない。これは現実であっておとぎ話ではないのだとその目に焼き付けていく。戦いに勝つことこそが弔いなのだと心に誓いを立て自らを奮い立たせる。


 誰もいない魔界門は静寂そのものだ。どす黒く禍々しいうねりを描いている扉の代わりの膜状のなにか。陽が落ちればその向こうから悪魔たちがやってくるが、今は影も形もなく気配すらも感じられない。


 魔界門に正対したシンデレラは牽引棒を握りしめゆっくりと構えた。


「やああっ!」


 掛け声とともに門柱を横薙ぎにすると足元に振動が伝わってくる。それくらいかなりの衝撃を加えたはずだが、もちろん魔界門はびくともせず(そび)え立ったままだ。


 一体どんな物質でできていればこんな強度が実現できるのだろう。こんなサッシがあったなら防犯対策はバッチリなのに、などと思い浮かべてしまう灰賀だった。


 それでも一撃で何がわかると言うのかと二度、三度と攻撃を加えていく。その時ふと目に入ったのがバリスタから発射した丸太の残骸である。


 いつ撃ち出したものかはもはやわからないが、あれだけの長さだったものが半分も残っていない。まさか悪魔が食べたわけもないし、これはいったいどういうことなのだろうかと気になってしまった。


 まるで十円のスナック菓子をかじったようにきれいに削られている。シンデレラはその破片を手に取って、何の気なしに魔界門へと放り込んだ。気分的にはゴミ箱へ向かって投げてみたような感覚だろうか。


 なにか意図があってやったことではない。しかしその意味のない行動で魔界門にわずかな異変が起き、さらにシンデレラが見逃さなかったのは全くの偶然である。


 理由はわからないが、丸太の残骸が魔界門の暗幕を通過した瞬間、外側の門柱が黒い輝きを放ったことを間違いなく目にしたのだ。ここに何か攻略のヒントがあるかもしれない。


 シンデレラはそう考え、石を拾って魔界門の中へと放り投げてみた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ