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シンデレラ転生の左遷リーマンは零時までの身体能力チートで異世界を救う  作者: 釈 余白(しやく)
第三章:激しくも長き決戦

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27.単純な作戦

 魔界門が顕現(けんげん)し悪魔の襲来が始まってから十三日目となった。最初の五日間が矮小なる悪魔のインプ、次の五日は鋭いかぎ爪をもつガーゴイルと戦った。


 それが過ぎた現在、相手は犬の姿した悪魔へと変わっており、双頭の犬悪魔(オルトロス)三つ頭の犬悪魔(ケルベロス)の二種類が相手である。これらはとにかく動きが早く、困ったことに負傷者が激増している。


「姫様、このままではまずいですぞ。満足に戦える者が大分減っております。もはや救援を呼ぶべきところまで来てしまっていると具申いたします」


「残念ながらおっしゃる通りですね…… わたしの()がきちんと当たっていればこんなことにはならなかったのに、まことに申し訳ありません」


「それは責任をかぶりすぎと言うもの。まずは後方に控えている騎士団から応援を呼びましょう。幸い奴らは空を飛ぶ気配がありません。対空部隊による弓攻撃で掃討いたしましょうぞ」


「その前にひとつだけ試したいことがあるのですがよろしいですか? 魔界門の前にはこれまで(はな)って来た丸太が転がっています。あれを積み上げて防護柵(バリゲート)とするのはいかがでしょう。その中央に通路を設けて犬たちが直線的にしか進めないようにするのです」


「おお、それは悪くない案かと存じます。そこへ弩弓(どきゅう)の一撃を撃ちこむと? まさに一網打尽の妙案と言えるでしょう。漏れた犬どもは騎士団に手伝ってもらえばあっという間に全滅ですな!」


 灰賀はなぜこんな簡単な案を思いつかなかったのかと悔いていた。通路へ誘導したところへ丸太の矢をお見舞いするくらい思いつかないでどうする。おそらく疲れが頭を鈍らせているのだと自己分析し、反省を次へ生かそうと心に留めておくのだ。


 作戦には思わず相槌を打ったものの、これは彼女の案ではなく完全に隊長案への相乗りだった。それでも今できる最善案には違いない。シンデレラはまだ陽が高いうちに作業を終わらせるため、魔界門のすぐそばまで急いだ。


 護衛の騎士と工作兵を伴い次々に丸太を持ち上げ積み上げていくと、あっという間に誘導罠のような通路が出来上がった。ただし、このままでは簡単に飛び出して逃げられてしまうだろう。


 ここで必要となるのが犬悪魔たちをとどめておくためのエサである。それはつまりシンデレラ本人がバリゲートの内部で囮となって悪魔たちを誘うことを意味していた。


「ダメに決まっているではございませんかあ! 姫様はなぜそうも危険な方法ばかり思いつくのです!? 御身に何かあれば殿下が悲しむ、もうそんな次元の話ではないのです! おわかりですか? それはもう敗北に等しい……」


「ですから万全を期すためには囮が必要なのです。ご理解はいただけているのでしょうし、わたしの身を案じてくれているのも重々承知です。しかしほかに良い手があるのでしょうか?」


「ぐっ、そ、それは……」



 最終的には隊長が折れるしか道はなく、シンデレラはバリゲート内からバリスタの弓を引き、自らめがけて発射することになった。当人は逃げ遅れたらどうなるのか興味を持ったが、あえて試すつもりはない。


 バリスタの最後部には新たに滑車がつけられ、弦と同じ太縄が通されてバリゲートの中へと引きこまれた。これで準備は万全である。


 全員が緊張しながら見守る中、いつもと同じように陽が落ちていく。すると魔界門の暗幕のような中央部分に犬悪魔たちの影が見えてきた。


 果たしてどれくらいいっぺんに向かってくるだろうか。できるだけ一直線に襲い掛かってくれると効率がいい。そう考えながら、シンデレラはロープをつかんで弓を引き絞っていく。


 プツン、プツンとしみだすように実体化してくる犬悪魔たちは魔界門のすぐ前に落ちていく。それはまるで熟れた果物のようだが、それを見て喜ぶものは誰もいない。


 しばらくすると次々に起き上がり、一斉にシンデレラのほうへ向きなおった。視線を感じた彼女は、女を素早く察知するその本能に恐ろしさを感じたが、余計なことを考えている場合ではないと気を引き締め直す。


『グルルルゥゥ』

『ガアァウ、ウウウゥウ』

『アッオォォオン』


 鳴き声や遠吠えによって犬たちの攻撃対象は完全に決まったことを察し、シンデレラは覚悟を決めた。タイミングを間違えたら自分もまきこまれてしまう。(丸太)を放ったら即座に飛び上がらなければならない。


『ガウゥ、グアアアルゥウ、ガアウ』


 犬悪魔たちが一斉に走り始めた。もちろん細道になっているのでやつらは互いにぶつかりながら直線隊列になっていく。その行動に疑問を感じなくはないが、都合良くことが進んでいるうちにカタをつけなければならない。


 シンデレラの手が緩むと後方で『ビュワン』と空気を切り裂く音が聞こえた。


 ワンピースの裾がひらりと広がりながら少女は宙を舞う。成人男性の騎士とほぼ同じ鉄あつらえの胴鎧と手甲に腰当ては相当の重量だ。しかしそんなことを全く感じさせない身軽さである。


 彼女が宙を舞ったすぐ下を、丸太がものすごいスピードで通り過ぎて行った。それとほぼ同時に犬悪魔たちの断末魔が鳴り響く。


 もちろん全数まとめてとはいかなかったので、予定通りに弓騎士隊が残党を始末していった。作戦は大成功で、統率がとれているわけではない犬悪魔たちは、ただ個別に向かってくるだけしかできなくなっている。


 通路が細くなるところでぶつかり合う悪魔たち。そこから這い出るようにしてシンデレラへ向かってくるが、通れるのは一匹だけなので相手にするのはたやすい。


 当然のように各個撃破となり、迎撃部隊員も騎士団もさほど疲弊せずに戦いを優位に進めていった。その間にシンデレラはまた矢をセットして次を発射していく。


 日付を跨ぐころには大勢が決しており、シンデレラがその場にいなくとも楽に相手ができていた。つまり完全勝利となったのだった。

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