21.見えない助力
それにしても確かに歯ごたえがなさすぎる。これでは皆が慢心してしまうのも仕方ないほどの弱き軍勢だった。
これまでしてきた準備の中には、もちろん過去の文献の解析も含まれている。その中にあった空を飛ぶと言う悪魔もいまだ見かけない。そもそも今のところ子供の背丈よりも小さな悪魔だけである。
それでも数だけは多いので休む暇などなく、歩けば歩くだけアッと言う間に強くなっていくシンデレラはともかく、普通の部隊員には疲労が見えてきた。
なんせ陽が沈んだころから今の今まで動きっぱなしなのだから無理もない。後方に控えている予備の部隊では時刻の伝達も担当しており、先ほどの鐘の音で現在は二十二時から二十三時の間だとわかっている。
『待って!? もうすぐ二十三時!? このままいつまで続くかわからないけどこのままではまずい。でも悪魔たちが途切れる気配はないし……』
シンデレラが不安を感じ動きがわずかに鈍くなる。その様子は周囲で戦っている部隊員へも伝わってしまう。
「姫様! 次の鐘が鳴りましたらいったん離脱して後方部隊への伝令をお願いできますか? 交代人員の到着を待って順次休息を取らせますので、戦闘継続に関してはご心配なく!」
「隊長、お気遣いありがとうございます。ですがわたしが抜けてしまっても問題ありませんか? おそらくこの悪魔発生は夜明けまで続くと思うのです」
「なあに、我々とて王国騎士団の中から厳選された精鋭のつもり。姫様ほどでなくとも十分役目は果たせましょう。もっと部下を信頼してもらいたいものですな、がっはっは」
「そうですよ! 姫様だけにイイカッコさせてなるもんですか」
「我々にも武勲を立てさせてくださいませ!」
こうして隊長の言葉と笑い声をきっかけに、部隊員から次々と声がかけられた。シンデレラの中で頭の片隅へ追いやられている灰賀振は、前世のことを思い出して胸が熱くなった。
あの時は懲罰人事によって閑職へと追いやられ孤立させられた。それから命を落とすまでずっと孤独だったのだから、今こうしておかしな境遇に陥っていても以前よりははるかにマシである。
『とは言っても結局はやりがい搾取の延長みたいなものだけどな。まったくあの魔女の人選は間違ってないと言うほかないぜ』
いいように使われてきたサラリーマン時代と違って自主的に行動している点は救われていると言える。だがしかし、命を懸け命を預かっている今が楽なわけがない。
ちょっとした判断ミスが命取りになることは十分に考えられる。その判断を一瞬でしなければならないのが今のような戦闘中なわけで、そのために灰賀はシンデレラの中で生き続けているのだと考えていた。
先頭に立ち続けなければならないと考え、責任感と罪悪感が首をもたげてしまったシンデレラの精神に、灰賀が冷静な分析と判断力を与えた。
「わかりました、みなさんを信じていますから大人しく指示に従いましょう。ですが決して無理はしないでください。王都までの間にも防衛線は敷かれているのですからまだまだ戦力に余裕はあるのです」
「ははっ、承知いたしました。それでは今少し頑張っていただきたく存じます」
緊迫した戦場の中でのほんの少しの余裕、これも士気を高めるためには効果的なのだろうか。シンデレラが隊長へ微笑みを見せると、部隊員たちの動きがまた良くなっていく。
迷いの取れたシンデレラは、間もなくやってくるタイムリミットを見据えながら力を振るい続けるのだった。
やがて二十三時の鐘が鳴り、シンデレラは予定通り伝令を兼ねて戦線から離脱し後方待機の陣へと向かう。今はまだ力が残ったままなのであっという間だ。
陣へ到着すると控えていた予備人員へ交代に向かうよう告げ、さらに王都までの連絡員を走らせる。この流れはあらかじめ定めていたこと。彼女はそのことをここにまで来てからようやく思い出した。
いくら屈強なシンデレラでも戦いを続けていて判断力が鈍っていたのだろう。そう再認識することでまた冷静になれる。できるだけ効率的に休息を取ることで体力を回復し、翌日にはまた歩数を稼ぐところから始めなければならない。
頭の中で予定を整理すると、シンデレラはゆっくりと瞼を閉じた。




