2.第二の王令
王子の婚活パーティーが行われてから数日ののち、再び王令が発せられた。今度は何事か、いよいよ婚約者が決まったのかと街がゴシップで盛り上がる。
<勅令:先日のパーティー会場に残されたガラスの靴の持ち主を王子の花嫁として迎える>
勅令が出されてすぐ街中が色めきたった。パーティーへ参加した者は十数名とのことだが、参加者自体どころか居住区や身分すら明かされていない。いったいどこの誰が玉の輿に乗るのだろうかと興味津々なものは多かった。
やがて城からの遣いが参加者たちを回っていったが、どうやら一人足りない。そして王子の話では、これまで確認したどの女性も当日踊った者とは容姿が異なっているとのことだ。
「殿下、どうしても一人見つかりませんが、その者が例の女性なのでしょうか? いったいどこの誰なのか、申し訳ございませんが記録がでたらめでわからないのです」
「それは困ったことだ。だが確かにあの夜に僕と踊ってくれた女性は存在する。絶対に見つけ出すぞ!」
王子のわがままに振り回される家臣たちはたまったものではないが、それでもこの国の行く末に大きな影響のあることなので必死になって探した。
その甲斐あってとある貴族の家にいる下女が特徴に当てはまることが分かった。それこそがシンデレラなのだが、家での扱いからここでも下女と間違われる始末である。
「わたしは下女なんかじゃなく、れっきとしたキノエネー家本来の長女なんだけどなんでみんなわかってくれないんだろう。でもまさか最終候補になるなんて考えてもみなかった。とはいってもあれは本当のわたしじゃなくて魔法をかけられてた偽りの姿だけど……」
『つまり王子様には見る目がないと? 着飾ったキミと今のキミの区別なんてきっとつかないだろうと思っているんだね』
『それはどうかしら。ドレスを着ていなくたってあなたは十分かわいらしいと思うわよ? もっと自信を持たなきゃアイツラに負けちゃうわ!』
「でもいくらなんでも王子様のお嫁さんになるなんて奇想天外すぎるわ。わたしにはわたしの幸せがきっとあると思うのよ。あの時突き飛ばされて気を失ってからは特にそう考えることが増えたの。なんでかしらね」
『あはは、きっとアイツラに仕返しでもできたらいいって考えはじめたから、生きる目標でもできたんじゃない?』
『きっかけや理由はともかく、目標があるというのは悪くないわ。ふさぎ込んでいるよりも明るく元気なあなたのほうがステキだもの』
チュンチュンとさえずる小鳥やチューチューと鳴いているだけのネズミがそんなことを言うはずもないが、シンデレラは、彼らが自分を元気づけてくれる友達だと思いたくて勝手にセリフを当てていく。
その友達の一人である青い小鳥が窓から飛び去っていくと、そのすぐ下で何やら大声が聞こえてきた。シンデレラは何があったのかと真下を覗き込む。
するとそこには小鳥にふんを落とされて憤慨している男性が一人、しかも立派な身なりをしていることからおそらく偉い人のようで相当不機嫌な雰囲気である。
「こらっ! そこの女! こんな行儀の悪い鳥を放し飼いにしているのか!?」
「い、いいえ違います。その鳥は私の部屋を自由に出入りしているだけで、悪気なんてない小さな存在なのです。今すぐきれいにいたしますからお待ちくださいませ」
シンデレラはきれいな布と水桶を手に大急ぎで玄関まで出ていくと、そこには考えていたよりもはるかに偉い人物が待っていた。
「ま、まさか王子様!? ああ、なんということでしょうか。まさか殿下のおつきのお方に鳥のふんが落ちてしまうとは申し訳ございません!」
「何を言っているんだい? キミのせいではないのだろう? それとも本当はあの小鳥の飼い主なのかな? 嘘つきは重罪だ。城へと連行しようと思うのだが、大臣はどう思うね?」
「殿下、それよりもわたくしめは早く頭をきれいにしてもらいたいのですが…… それとももしかしてこの娘が例の?」
「うむ、多少容姿は異なっているようだが、それは化粧をしていないせいだろう。なんといっても嘘つきなところがそっくりじゃないか」
「王子殿下、それに大臣様もお戯れを。わたしがお偉いお方に嘘をつくなんてありえません。後生ですから連行するのはご勘弁くださいませ!」
「果たしてそうだろうか? 実はな? 素性を偽り城のパーティーへ参加した女性がいるのだよ。キミもその女性のことを嘘つきだとは思わないかい? しかも盗みまで働いて城を後にしたのだからね」
「そ、そんな!? わたしはなにかを盗んだりなんてしていません! もう一度お調べください、誤解なのです! お願いですからお許しを!」
「おやおや、僕はキミが犯人だとは言っていないよ? それともあの晩に僕と踊ったのは自分だと白状するのかい? 共にステップを踏みながら、僕の心を盗んでいったじゃないか」
王子は歯の浮くようなセリフでシンデレラへと迫る。これはつまり、粗末な服に身を包んだ下女のような装いの彼女が、婚活パーティーに参加していた美しい女性だと見抜いているからに違いない。
「それではこうして白状したからには大人しくついてきてもらおうか。なあに、父上には後ほど話を通すから心配しないでいい。キノエネー家当主は王室の命によって地方を回っているダーワ・キノエネー男爵だろう?」
「は、はい、それではわたしが下女ではないことをご存じだったのですか? 嘘をつくつもりではなかったのですが……」
「それくらいここへ来る前に調べてあるさ。母上亡き後、なかなか大変な日々を送っているらしいね。さっそく城へ迎え入れるから今後の心配はしなくていい」
そう言うと王子はそっとその手を差し出し馬車へといざなった。
「でもわたしはお城へ入れるような服を持っていません。今だってこのような恰好なのですが、ほかも同じようなうすぼろばかり……」
「娘よ、なんの問題もない。城には幾人もの話係がおるし着替えくらいいくらでも用意できよう。さあ、殿下がこう申しておるのだから素直についてまいれ。ダーワ殿は地方にいるが伝令を出しておくから心配することはない」
「で、でも義母様たちのお世話をしなければなりません。あの方たちは一人でなにもできないのですから」
「その優しさは時に不必要なものでもあるよ? それに、男爵には悪いがあの母娘には結婚詐欺の嫌疑がかかっているのだ。いい機会だ、ついでといってはなんだが取り調べのために捕縛して行こう」
「そんなっ!? それではお義母様もお義姉様たちも捕えられて罪に問われてしまうのですか!?」
「おいおい、この期に及んで彼女らに情けをかけてかばおうと言うんじゃないだろうね? 僕が直接処罰するわけではないが、今までの所業を聞くだけで死罪もあり得るらしいよ? もしキミが証言してくれたなら確実に追いつめられるだろうね」
「わっ、私の証言次第でし! 死罪ですか!? (大っぴらにざまあみろとは言えないけどすっきりはするかもしれないわ!」
「あはは、顔が笑っているし心の声が漏れているよ? なかなか面白い娘だ。僕が迎える花嫁にはぴったりじゃないか。さあ行くとしよう」
こうして馬車は走り始め、義母と義姉妹は縛り上げられたあと護衛の馬に引きずられながらともに城へと向かうのだった。