13.シンデレラの告白
「さあ聞かせてもらおうか」
王子は一言だけつぶやくとシンデレラの前に座った。城へ戻ってきたのは夜遅かったため、一晩経って今は翌日の昼前である。
ここは来賓を迎えるための応接室だ。シンデレラの希望で二人きりで話をすることにはなったが、万一自室でおかしな雰囲気になられても困るのでわざわざ用意してもらっていた。
「実は…… わたしは前世の記憶を持っております。ただしそれが悪魔撃退に役立つわけではないのが残念ですが。お伝えしたいのはそれだけではなく、今後においてとても重要なこと、それこそ王族の存続にかかわるほどにございます」
「ほう、それは随分とたいそうな話だね。どんなことなのか楽しみだから話を聞かせておくれ。その前世と言うのがどういう意味なのか少々わかりかねるが、いったいなんの前なのだい?」
よくよく考えればナルオー国の宗教観によると、生物の命は天から降りてきて死ぬと大地へ還るものである。そこには魂だとか精神だとかの概念はなく、あくまで個は個にしか過ぎないのだ。
ここで死生観について話をしても仕方がないと考えたシンデレラは、大分端折って説明することにした。
「つまりわたしは今シンデレラとしてここにいますが、その前は別の人物だったと言うことです。しかもそれは…… あの…… 成人男性でその記憶が今も残っているのです……」
「なるほど、つまり二重人格と言うことかな? 確かにそのような者がしばしば見受けられることはある。今までどういう仕組みなのかわからなかったが、キミのように二度目の人生だと言うなら納得だ」
あまりにあっけなく疑うそぶりすらなく受け入れられ、シンデレラはかえって戸惑ってしまった。王子が信じているのか適当にあしらおうとしているのかはわからないが、今の告白を聞いても顔色ひとつ変えていないことは確かだった。
だが理解してくれてよかったと済ませていい話ではないのも確かである。
「あのう…… ですのでわたしは以前男性だったのですよ? その…… 伴侶としてふさわしくないのではありませんか?」
「何を言う。でも今は女なのだろう? 何の問題があるのさ。男らしい女もいれば女らしい男もいる。もちろん男らしい男や女らしい女もいる。人それぞれさまざまで当たり前だろう?」
なんとも多様性に寛容で豊かな考え方なのだろうかと感心しかけたシンデレラは、ハッと我に返り机に手をかけて立ち上がった。
「ですがわたしは女でもあり男でもあるのですよ!? そんなわたしを殿下は愛してくださるのですか!?」
「なんだ、そんなことを心配しているのかい? 言っておくが私には弟が二人いるがどちらのことも愛しているよ? それに現国王の父上ももちろん男だが私は同じように愛しているさ。だからキミのことだって愛せるに決まっているじゃないか」
「まだお互いをろくに知らないのに簡単に愛すとおっしゃるのですね。本当にわたしで良いのか、もっと深く考えなくてもよろしいのですか?」
「ではキミは僕のことが嫌いだと言うのかい? それならなぜ今ここにいるのか説明がつかないと思うんだがね」
「それは……」
王子から問われた灰賀は、シンデレラをのっとって勝手に感情を押し付けているような気になってしまった。するとその感情は脳裏の奥へと追いやられ、シンデレラとしても感情が表へ強く出てくる。
「わたし…… 殿下のことをお慕い申し上げております……」
「嬉しい言葉をありがとう。だが確かにお互いのことを知らなすぎると言うのはその通りだな。今までロクに愛を確かめ合ったわけでもないのだからキミが不安を抱えるのも当然だろう。よし、ここでは少々やりづらいが、最低限のことはできるだろう。さっそく愛を確かめ合おうではないか」
「こっ、こっ、ここで!?」
王子の申し出に大人しくしていた灰賀の精神は再び飛び出してきた。こんな応接室でナニをしようというのか。いくらなんでも急展開が過ぎて理解が追いつかない。
だが目の前の王子は椅子から立ちあがって上衣を脱ぎ始めてしまった。その所作を見てシンデレラは自然と側に歩み寄り上着を受け取って、壁に据え付けられているコートハンガーへとかける。
王子はそのまま自然にシンデレラの手を取りにこやかにほほ笑むと、ご機嫌な様子で鼻歌を口ずさみ始めた。まさか本当にこんなところでナニかをするつもりなのか!? 三人掛けの応接椅子があるにはあるが、婚約者との初めてがこんなところでこんなタイミング!?
「さあおいで、そんな怖がらないでも大丈夫さ。それともただ緊張しているだけかな? もう知識だけなら十分のはずだろう? 後は実戦あるのみだから僕に任せておいてくれ」
「で、ですがわたし…… 突然こんな場所で…… 恥ずかしいです……」
「恥ずかしがることはないさ。二人きりは初めてだから緊張しているのだろ? 大丈夫、僕がきちんとリードするから心配いらないよ。愛を深めるのに突然も何もないさ。こういうのは早いほうが良かったんだ、今まで放っておいて悪かったね」
そう言いながら鼻歌をまた繰り返す。どうやらノリノリになっている王子をもう止めることはできないとあきらめたシンデレラの中の灰賀は、せめておかしな思い出にならないことだけを願いつつ意識を遠のかせようと心掛けるのだった。




