表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

逆さマトリョーシカ

作者: Taira Orinashi

作品形式:脚本

ジャンル:ホラー

文字数 :8284字

あらすじ:ある日を境に両親の様子が変わってしまった少女の物語

■【登場人物】

●メアリ・スミス(13)中等学生

●ジョン・スミス(15)高等学生

●サンドラ・スミス(40)専業主婦

●ウィリアム・スミス(45)在宅ワーカー

●エレナ・ブラウン(38)近所に住む女性


■【本文】

◯自宅・外観(朝)

  広い土地に、ぽつんと一軒家が建っている。

  一階の窓のブラインドは全て閉められ、外から業務用テープ

  で幾重にも固定されている。

  庭に一台の普通自動車がある。

  自動車の運転席に乗り込むウィリアム・スミス(45)と、

  ウィリアムに鞄を渡すサンドラ・スミス(40)。

ウィリアム「出勤日があるなら、在宅ワーカーとは言えないな」

サンドラ「でも、こういう時は心強いよ」

ウィリアム「昼過ぎには帰ってくる」

サンドラ「それまで任せといて」


◯二階・メアリの部屋(朝)

  部屋は消灯され、窓はカーテンが締め切られ薄暗い。

  衣服やゴミが散乱し、足の踏み場もないほど汚れている。

  メアリ、窓にかかるカーテンの隙間から、ウィリアムとサン

  ドラの様子を覗き見ている。

  手で首筋を掻くと、爪に黄銅色の垢が詰まる。

  荒い息遣いのまま、施錠されたドアを静かに解錠する。


◯二階・廊下(朝)

  メアリの部屋のドアが静かに開く。

  メアリ、頭を出して周囲を伺い、足音を消して廊下を進む。

  一階へ続く階段の手すりを掴む。


◯一階・廊下(朝)

  メアリ、階段を素早く駆け下り台所へ向かう。


◯一階・台所(朝)

  メアリ、冷蔵庫を開け、急いでパックの牛乳を飲み、

  菓子パンを手に取る。

  帰り際、ペットボトルのジュースを見かけ、手に取る。


◯一階・廊下(朝)

  メアリ、台所を出たところで、玄関から戻ってきたサンドラ

  と鉢合わせする。

  硬直するメアリとサンドラ。

サンドラ「ああああっ!」

  サンドラ、絶叫しつつ、腰に携帯していた包丁ケースから包

  丁を引き抜く。

  メアリ、急いで階段を駆け上がる。

  サンドラ、包丁を振りかざしつつ、メアリを追いかける。


◯二階・廊下(朝)

  メアリ、途中でペットボトルを落とす。

  サンドラ、ペットボトルを蹴飛ばし、メアリを追う。


◯二階・メアリの部屋(朝)

  メアリ、自室に滑り込み、ドアを施錠する。


◯二階・廊下(朝)

  サンドラ、ドアに体当たりして停止する。

サンドラ「開けて! 開けなさい! 開けろ!」

  サンドラ、ドアを何度も叩き、ドアノブを乱暴に回す。


◯二階・メアリの部屋(朝)

  メアリ、菓子パンを放り投げる。

  ベッド下から大きな汚れたクマのぬいぐるみを取り出し、ド

  アから最も離れた窓際に座り込む。

  全身を震わせながら、クマのぬいぐるみを抱きしめる。

メアリ「やめてよ、母さん! 壊れちゃうよ!」

  しばらくすると、音が鳴り止む。

  しかし、サンドラの遠ざかる足音が聞こえない。

メアリ「・・・まだそこにいるんでしょ」


◯二階・廊下(朝)

  ドアの目の前に立つサンドラ。

サンドラ「ごめんなさいね。いきなりだったから、

     お母さん、びっくりしちゃった」


◯二階・メアリの部屋(朝)

サンドラ「なにか要るものがあったら言って。持ってくるから」

  サンドラの足音が遠ざかっていく。

  メアリ、全身の震えと荒い呼吸が続いている。

T「逆さマトリョーシカ」

  メアリ、クマのぬいぐるみを隣に座らせ、嗚咽し始める。

メアリN「私はメアリ。父ウィリアム、母サンドラ、

     兄のジョンと四人で暮らしている」


◯一階・廊下(朝)

  サンドラ、落ちていたペットボトルを拾い上げ、台所に戻る。

メアリN「平凡でありふれた、平和な家庭だった」


◯一階・台所(朝)

  サンドラ、冷蔵庫を開け、中を舐め回すように見る。

メアリN「兄のジョンがいなくなるまでは」

  サンドラ、牛乳パックを持ち上げ静かに揺らす。


◯(回想はじめ)二階・ジョンの部屋(昼)

  ジョン、学校の勉強をしている。

  ドアをノックする音が聞こえる。

  ジョン、眉間に皺を寄せてドアを見る。

ジョン「なに?」

メアリの声「入っていい?」

  ジョンの眉間から皺が消える。

ジョン「メアリか。いいよ」

  メアリ、入室するなりため息をつく。

メアリ「兄さん、また勉強してるの? たまには友達と遊んだら?」

ジョン「俺みたいな出来の悪い奴は、

    勉強しないと人並みになれないんだよ」

  メアリ、机に積まれた分厚い本の中で、

  「悪魔祓い」のタイトルを見かける。

メアリ「これって――」

ジョン「お前は気に入られてて良いよな。勉強もできるし」

  メアリ、眉をひそめる。

メアリ「何それ。私だって頑張ってるんだけど」

ジョン「人並みに、だろ?

    俺みたいなやつは人並みの努力じゃ駄目なんだよ」

メアリ「卑屈すぎない?」

メアリN「この会話を最後に、兄は突然姿を消した」

(回想終わり)


◯一階・台所(昼)

  サンドラ、腰に携帯した包丁ケースに包丁を入れる。

メアリN「それからだ。父さんと母さんが、

     私を殺そうとし始めたのは」


◯二階・メアリの部屋(昼)

  メアリ、薄暗い中、膝を抱えて座っている。

  しばらくして、部屋の隅に置かれていたビニール袋に歩み寄る。

  ビニール袋を取り、中から取り出したバケツに跨り、用を足す。

  終えると、バケツに入った尿を窓から投げ捨て、

  再びビニール袋で包む。

  山積みされた皺くちゃの衣服をひとつ取り、

  着替えようとするが、サイズが合わず投げ捨てる。

  再び膝を抱えて座る。

  呆けた様子でドアを見つめていると、

  ドアノブがゆっくりと回っていることに気づく。

  慌ててクマのぬいぐるみを抱き、窓のある壁を背にして

  座り込む。

メアリ「何してるの?」

サンドラの声「・・・お昼ご飯と着替え、ここに置いとくから」


◯二階・廊下(昼)

メアリの声「ずっと鍵かけてるから」

サンドラ「・・・洗濯する服は出しといてね」

メアリの声「ナプキン」

サンドラ「え?」


◯二階・メアリの部屋(昼)

メアリ「ナプキンちゃんとある?」

サンドラの声「・・・ごめんなさい。あとでご飯を片付ける時に持ってくるね」

  しばらく静寂が続く。

メアリ「兄さんは帰ってきた?」

  サンドラから返事がない。

メアリ「もう一ヶ月だよ。ちゃんと探してるんだよね?」

サンドラの声「ええ」

メアリ「警察にも言ってるんだよね?」

  サンドラから返事がない。

メアリ「母さ――」

サンドラの声「食べ終わったら、外に出しといてね」

  サンドラの足音が離れていく。


◯二階・廊下(昼)

  メアリ、静かにドアを開け、サンドラの後ろ姿を見ると、

  腰に包丁ケースを見つける。

  新しい着替えと昼ご飯を部屋の中に入れ、

  汚れた衣服を廊下に放り投げ、ドアを閉めて施錠する。


◯二階・メアリの部屋(昼)

  部屋のゴミを寄せて食事スペースを作り、

  昼ご飯をクチャクチャ食べる。

  窓の外から自動車のエンジン音が聞こえる。

  手を止め、カーテンの隙間から外を見る。


◯自宅・外観(昼)

  自動車が庭に停まり、運転席からウィリアムが降りる。

  サンドラが出迎え、二人が抱き合う。


◯二階・メアリの部屋(昼)

  メアリ、クマのぬいぐるみを抱き寄せる。

メアリ「兄さん、早く帰ってきて」


◯自宅・外観(夕)

  焼け爛れた夕焼け。壁も床も赤く染められている。


◯二階・廊下(夕)

  メアリの部屋の前に、空の茶碗、汚れた衣服、

  一定のゴミが置かれている。


◯二階・メアリの部屋(夜)

  メアリ、カーテンの隙間から星空を見つめ呆けている。

メアリ「兄さん・・・」


◯(回想はじめ)二階・ジョンの部屋(昼)

  ジョン、学校の勉強をしている。

メアリ「父さんの言ったこと、気にしてるの?」

  メアリ、机に積まれた分厚い本の中で、

  「悪魔祓い」のタイトルを見かける。

メアリ「これって――」

(回想終わり)


◯二階・メアリの部屋(夜)

  メアリ、視線を上げ、やがてドアを見る。


◯二階・廊下(夜)

  メアリ、周囲を警戒しつつ、

  足音を消して兄ジョンの部屋に向かう。


◯二階・ジョンの部屋(夜)

  部屋は綺麗に整頓されている。

  懐中電灯を見つけ、部屋を物色していく。

  本棚や机の上に、悪魔召喚や悪魔祓いに関する書籍が並んでいる。

メアリ「・・・なんなの?」

  ふと、本の間からジョンの筆跡メモを数枚発見する。

  メモ1「悪魔は本当にいた。でも、どうやって両親を

      誘惑したのかが分からない」

  メモ2「今日、確信した。全ては悪魔のせいだった。

      俺は身を守らなくちゃいけない」

  メモ3「このままじゃ俺は殺される」

メアリ「殺されるって・・・」

  部屋の外から、床の軋む音が聞こえる。

  メアリ、慌てて懐中電灯を消し、クローゼットに隠れる。

  直後、ウィリアムとサンドラが入室する。

  ウィリアムが部屋の電気をつける。

ウィリアム「やっぱりいないだろ」

サンドラ「部屋が光ったと思ったんだけど」


◯同・クローゼットの中(夜)

  メアリ、隙間からウィリアムとサンドラを凝視する。

ウィリアム「外から見たんだろ? 車のライトが窓に反射したんじゃないのか?」

サンドラ「うーん」

ウィリアム「俺は戻るぞ。一階に誰もいないのはヤバい」

サンドラ「・・・私も」

  ウィリアムとサンドラ、部屋を出る。

  遠ざかる足音を聞き終え、ゆっくりクローゼットを開ける。


◯同・ジョンの部屋(夜)

  メアリ、静かにドアへ向かう。

メアリ「一階に誰もいないのはヤバい?」

  ドアを開けた直後、廊下側からサンドラがドアを掴む。

サンドラ「やっぱり!」

メアリ「ひいっ!」

サンドラ「あなた! ここに――」

  メアリ、ウィリアムを呼ぼうとしたサンドラを、ドアで突き飛ばす。

  倒れたサンドラに懐中電灯を投げつけ、傍を走り抜けて自室へ向かう。

サンドラ「待て!」

  サンドラ、包丁を掲げて追ってくる。


◯二階・メアリの部屋(夜)

  メアリ、ドアを閉め、施錠する。

  サンドラ、ドアノブを力任せに回す。

  メアリ、ドアノブが壊れないよう握って固定しようとする。

メアリ「うううう!」

  やがて、ドアノブからドアを叩く方法に変わる。

  メアリ、クマのぬいぐるみを抱きしめ、窓際に座り込む。

メアリ「怖いよ、兄さん! 助けて、どこにいるの!」


◯自宅・外観(昼)

  庭に二台の自動車が停まっている。

  一台はウィリアムの、もう一台はエレナ・ブラウン(38)のもの。

  エレナの自動車の傍にサンドラが立っている。

エレナ「久しぶりで話し込んじゃった」

サンドラ「また今度ゆっくりお茶しないとね」


◯二階・メアリの部屋(昼)

  メアリ、サンドラとエレナの話し声で目覚める。

  カーテンの隙間から、二人の様子を覗き込む。


◯自宅・外観(昼)

エレナ「そういえば、ジョンとメアリは元気にしてる?」

サンドラ「んー、内緒にしてて欲しいんだけど、実はね」


◯二階・メアリの部屋(昼)

サンドラの声「二人とも精神的な病気にかかっちゃって・・・

       学校があんまり上手くいかなかったのが理由みたい」

エレナの声「そうなの?」

  メアリ、目を見開く。


◯自宅・外観(昼)

サンドラ「二人とも自分の部屋で療養してるの。命に別状はないんだけど、

     精神的なものだから時間がかかるんだよね」

エレナ「それは大変ねえ」


◯二階・メアリの部屋(昼)

  メアリ、窓から後退り、蓋の空いたペットボトルを蹴飛ばして倒してしまい、

  ジュースの中身が床に溢れる。

メアリ「兄さんを・・・どうしたの?」

  ふと、倒れたペットボトルを慌てて立たせるが、中身はほぼ無い。

  僅かに残ったジュースを飲み、他のペットボトルを確認するが、

  中身が空のものばかり。

メアリ「どうしよう」

  しばらくして、呼吸を荒げながらドアを睨む。


◯自宅・外観(夜)

  庭にエレナの車はなく、ウィリアムの車が駐車されている。


◯二階・廊下(夜)

  メアリ、静かに自室を出て階段に向かう。


◯一階・廊下(夜)

  台所に向かう途中、居間から明かりが漏れていのに気づく。

  足音を消して通り過ぎようとした時、ウィリアムとサンドラの会話が微かに聞こえる。

サンドラの声「今朝、ジョンの学校から連絡が来たわ。

       通院先の診断書を提出するようにって。もう嘘をつき続けるのは無理よ」

  メアリ、居間の前で足を止め、ドアに耳を近づける。

ウィリアム「ジョンを隠し続けるのは限界かもな」

  メアリ、眉を潜める。


◯一階・居間(夜)

  ウィリアムとサンドラがソファに座っている。

  テレビは点いているが、音量は小さい。

サンドラ「メアリも早くなんとかしないと」

ウィリアム「分かってる」

サンドラ「警察に言うのは・・・マズいわよね」

ウィリアム「そんなことしてみろ。うちは終わりだ」

サンドラ「じゃあ、どうするの!」


◯一階・廊下(夜)

  ドア越しに聞き耳をたてているメアリ。

ウィリアムの声「家出したってことにして、捜索願いを出す方法は有りかもな」

サンドラ「そんなの、家の中を調べられてすぐバレるに決まってるでしょ」

  メアリ、静かにドアから離れ、台所に向かう。

メアリ「兄さんは家の中にいる︙︙探さなきゃ」

  直後、居間から怒号が聞こえ、メアリの足が止まる。

サンドラ「ちゃんと考えてるの!?」

ウィリアム「お前よりは考えてる!」

  メアリ、反射的に階段下のスペースに身を潜める。

  居間のドアが勢いよく開き、サンドラが飛び出す。

  そのまま、メアリに気づかず階段を上がっていく。

  メアリ、隙間から目を見開き、サンドラを見送る。


◯二階・廊下(夜)

  サンドラ、メアリの部屋の前に立つ。

サンドラ「まだ起きてる? お願い、返事して」


◯一階・廊下(夜)

  ウィリアム、居間から出て、ゆっくり階段を上がる。


◯二階・廊下(夜)

サンドラ「ドアは開けなくていいから、ゆっくり話し合いたいの」

  ウィリアムがサンドラの背後に立ち、サンドラの肩に優しく手を置く。

ウィリアム「サンドラ、下に戻ろう」

サンドラ「でも、このままじゃメアリが・・・」

ウィリアム「分かってる。もう終わりにしよう」

  サンドラ、ウィリアムに支えられ、ふらつきながら階段を降りていく。


◯一階・廊下(夜)

  ウィリアムとサンドラが居間に戻り、

  しばらくするとドアから漏れていた明かりが消える。

  メアリ、足音を消しつつも急ぎ足で階段を駆け上がる。


◯二階・メアリの部屋(夜)

  ドアを施錠し、クマのぬいぐるみを抱きしめ、部屋の隅で震え上がる。

メアリ「兄さん、どこにいるの!

    ママとパパは兄さんに何をしたの! 何が起こってるの!」


◯自宅・外観(昼)

  ウィリアム、車の運転席に乗り、エンジンをかける。


◯二階・メアリの部屋(昼)

  メアリ、外から聞こえるエンジン音で目覚める。

  カーテンの隙間から庭を覗くと、ウィリアムが車で出かける

  様子が見える。

  メアリ、咳き込む。

  部屋にあるペットボトルを確認するが、中身がない。

  再度、庭を見ると、サンドラが庭で洗濯物を干している。

  メアリ、ドアを解錠する。


◯二階・廊下(昼)

  メアリがドアを開けると、床に朝食が置かれている。


◯二階・メアリの部屋(昼)

  朝食を運び込み、ドアを施錠する。

  ジュースを一気に飲み干し、朝食にがっつく。

  食べ終えたところで、外から再びエンジン音が聞こえる。

  メアリ、眉を潜め、カーテンの隙間から外を覗く。


◯自宅・外観(昼)

  車が庭に停車し、運転席からウィリアムが降りる。

メアリの声「え、なんで・・・」

  ウィリアム、後部座席から巨大なハンマーやチェーンソーを取り出す。

  サンドラ、洗濯物をやめて車に向かい、ウィリアムからチェーンソーを受け取る。

  ウィリアムとサンドラ、メアリの部屋の窓を見上げる。


◯二階・メアリの部屋(昼)

  メアリ、カーテンを閉め、後退る。

メアリ「何あれ。嘘でしょ」

  メアリ、急いでベッドや棚をドアにくっつけ固定する。

  突如、猛烈な眠気に襲われ、ふらつき始める。

  メアリ、朝食を見た後、そのまま倒れる。

  ぼやける視界の中で、ドアがハンマーやチェーンソーで破壊され、

  亀裂からウィリアムとサンドラの顔が見える。

  メアリ、涙を流しつつ、そのまま眠る。


◯二階・メアリの部屋(夜)

  メアリが目を覚ますと、ドアは完全に破壊され、部屋も荒らされている。

メアリ「・・・生きてる」

  ふらつきながら部屋の惨状を見渡す。

  ふと、メアリの顔が強ばる。

メアリ「ない・・・ない!」

  慌てて部屋を飛び出す。


◯一階・居間(夜)

  ウィリアムとサンドラが跪き、何かを見下ろしている。

  メアリがドアを勢いよく開け、飛び込んでくる。

メアリ「返して! ぬいぐるみ!」

  ウィリアムとサンドラ、クマのぬいぐるみを抱きしめ号泣している。

メアリ「・・・何してるの?」

ウィリアム「自分が何をしたか分かってるのか!」

サンドラ「もう耐えられない! この人殺し!」

ウィリアム「どうしてこんな事をしたんだ!」

メアリ「二人ともおかしいよ・・・兄さんをどこにやったの?」

  サンドラ、クマのぬいぐるみを愛おしそうに撫でる。

サンドラ「痛かったね、苦しかったね、メアリ」

メアリ「え」

ウィリアム「メアリが一体何をしたっていうんだ」

  クマのぬいぐるみが、徐々にメアリの死体に変化していく。

メアリ「それ、私?」

ウィリアム「兄さんをどこにやったかだと?

      お前こそ何を言ってるか分かってるのか?」

  メアリ、ゆっくりと視線を窓ガラスに送る。

  そこには、ジョンの顔が映っている。

メアリ「・・・あ」


◯(回想はじめ)自宅・外観(昼)

  ウィリアム、サンドラ、ジョン、メアリがバーベキューを楽しんでいる。

サンドラ「ジョン、追加のお肉を取ってきて」


◯一階・台所(昼)

  ジョンが冷蔵庫から肉のパックを取り出している。

  ウィリアムがやってくる。

ウィリアム「何してるんだ。遅いぞ」

ジョン「ごめん、父さん」

ウィリアム「勉強も運動もできない。

      肉を持ってくることすら出来ない。本当にクズだな」

  ウィリアム、ジョンから肉を奪い、ジョンを突き飛ばす。

ウィリアム「次の試験で十位以内に入らなかったら、

      これから一生晩飯抜きだ。覚えとけよ」

  ウィリアムが立ち去り、ジョンはその場で俯く。

  しばらくすると、庭から楽しそうな声が聞こえてくる。

  ジョン、窓から庭を見ると、ウィリアム、サンドラ、メアリが

  楽しそうにバーベキューを楽しんでいる。


◯一階・居間(昼)

  ジョンが洗濯物をたたんでいると、テレビ映像で悪魔特集が流れる。

ナレーター「悪魔は人の心に棲み憑きます。相手が今までと違う言動をし始めたら、

      悪魔の仕業を疑ってみるのが効果的です」

ジョン「悪魔・・・」


◯二階・ジョンの部屋(昼)

  ジョンが悪魔に関する書籍を読んでいる。

  サンドラが突然入室する。

サンドラ「何してるの?」

ジョン「ちょっと本を・・・」

サンドラ「あんたは馬鹿なんだから、そんな暇があるなら勉強しなさいよ。

     寝る時以外はずっと勉強してろ」

ジョン「うん」


◯二階・ジョンの部屋(昼)

  ジョン、学校の勉強をしている。

  ドアをノックする音が聞こえる。

  ジョン、眉間に皺を寄せてドアを見る。

  ジョン「なに?」

  メアリの声「入っていい?」

  ジョンの眉間から皺が消える。

  ジョン「メアリか。いいよ」

  メアリ、入室するなりため息をつく。

メアリ「兄さん、また勉強してるの? たまには友達と遊んだら?」

ジョン「俺みたいな出来の悪い奴は、勉強しないと人並みになれないんだよ」

  メアリ、机に積まれた分厚い本の中で、「悪魔祓い」のタイトルを見かける。

メアリ「これって――」

ジョン「お前は気に入られてて良いよな。勉強もできるし」

  メアリ、眉をひそめる。

メアリ「何それ。私だって頑張ってるんだけど」

ジョン「人並みに、だろ? 俺みたいなやつは人並みの努力じゃ駄目なんだよ」

メアリ「卑屈すぎない?」

  直後、ジョンは恐ろしい形相でメアリに襲いかかり首を締める。

ジョン「今なんて言った!? 卑屈だと!?」

  メアリ、抵抗するが、やがて動かなくなる。

  ジョン、メアリの首から手を離し、肩で息をする。

  その後、室内をぐるぐる歩き回り、やがてメアリの顔を凝視する。

ジョン「私、メアリ。勉強も運動もできるし、皆から愛されてる」


◯二階・廊下(昼)

  ジョン、メアリの死体を引きずりつつ、メアリの部屋に向かう。


◯二階・メアリの部屋(昼)

  ジョン、メアリの下着や衣服を身に着け、髪型もメアリに似せる。

  メアリの死体を見る。

ジョン「ぬいぐるみさん。これがあれば、私は大丈夫」

  カーテンを閉め、部屋を消灯し、ぬいぐるみを抱きしめて窓際に座る。

ジョン「私、メアリ。父さんも母さんも私を愛してる」

  そのまましばらく動かず、ふと、天井を見上げる。

ジョン「兄さんはどこ? どこに行ったの?」

(回想終わり)


◯一階・居間(夜)

ジョン「ごめんなさい」

  ウィリアム、ジョンの言葉を聞いて鬼の形相になり、

  サンドラが携帯していた包丁を奪う。

サンドラ「えっ」

  ウィリアム、ジョンに突進する。

サンドラ「やめて!」

  ウィリアム、包丁でジョンの腹部を貫く。

  ジョン、仰向けで倒れる。

ウィリアム「くそう! ちくしょう!」

  ウィリアム、包丁を床に落とし号泣する。

  ジョン、目から涙を、口から血を流し始める。

ジョン「だって、あんたらが俺を殺そうとするから・・・」

  サンドラ、メアリの死体を抱きつつジョンを見る。

サンドラ「やだ! ジョン! やだあ!」


◯自宅・外観(夜)

  平凡な戸建て住宅が静かに建っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ